不協和
「映画のチケット買えましたよ。」
映画館のロビーの椅子に座って待っているみんなのもとに、私は今しがた購入したチケットを持って戻った。
「あ、ありがとうございます。」
「おゥ、あんがとな。」
「大儀であった。」
「どうもありがとう。」
私はそのチケットをそれぞれに分配して、それに見合う代金をもらう。千晃の分は神谷さんがPoyPoyで送るよう通話を使ってまで説得してくれたので、無事回収は済んでいる。
「さて。それじゃあ予約した映画が始まるまでの間、どこへ行くかって話なんですけど……」
「急ぎじゃねェんだけッどよォ、楽器店寄ってくれねェか?」
「与損さん。なにか理由でも?」
來摩ちゃんを楽しませるための予定はあらかた決めていたため、私は出鼻をくじかれた形で渋々聞いてみる。
「俺ァドラムもそうだが、最近キーボードの練習も始めてよォ。新しいやつ選びてェんだ。だから時間もかかるし、先に済ませてェなって思ってよォ。」
「ほぅ。貴様、随分と多芸であるな。」
「あ、わ、私も、ギターのエフェクターが見たくって……」
与損さんに続いて神谷さんまでもが楽器屋行きに賛成する。……まぁ予定ならまた組み直せばいいし、わざわざ反対するほど私も自己中ではない。
「……いいかな?來摩ちゃん。」
「良いんじゃない?アタシも楽器、見てみたいかも。」
「我も異論は無い。」
二人の承諾もとれたことだ。であれば早速楽器屋へと向かうことにしよう。
「でも千晃は構わんのか?あやつが来てからでも遅くはなかろう。」
「ふふふ、そもそも遅れる方が悪いに決まってるじゃないですか。」
お、おう……
◇◇◇
楽器なんかとは縁がなかった私は、何気に始めて楽器屋へと足を踏み入れたことになる。
ピアノやドラム、奥の部屋にはギターが陳列されているほか、ウクレレやヴァイオリン、合成音声の歌唱ソフトやキーストラップなんかの雑貨も販売されており、楽器屋と言っても様々なものが売られているみたいだ。
「とは言っても、私には何が何だか……」
違う値段をつけられた同じようなものが何個も並んでおり、その違いを私は見分けられない。
しかしそれぞれの場所でうんうん唸っている神谷さんと与損さんの様子を見る限り、私の審美眼が足りないだけなのだろう。
音楽を理解できる人間とできない人間。その人間性の差は、決して小さくはないのだ。
そう鬱々とした気持ちで思考していると、私の耳をいきなりピアノの不協和音が掻きむしった。
「おま、それヤベェって!」
「大丈夫だって。今のは音出しチェックだからさ。それでは弾かせていただきます……!」
「あはははは!」
うっせぇな……
不快な音の元を辿り視線を向けると、そこにいたのは五、六人の、ヤンチャな見た目をした危ない人たちであった。
うわ怖っ。
私はすぐさま目線を逸らす。
「うおーういえー!うおーういえーぇー!」
「カラオケすんなって!」
「バカがよぉ」
「インスタにあげるわ!」
「それは話ちがくね!?」
本人たちからしてみれば和気あいあい、という具合なのだろうが、その他の人たちからすれば迷惑この上ない騒がしさだ。せめて誰にも迷惑をかけないように楽しんでくれれば良いものを……
とはいえこれを私がなんとかできるわけでもない。どうせ対応は店側の仕事なわけだし、関係の無い私は放っておくのがベストだな。
「やめておけ与損!」
「止めんじゃねェ厨二金髪ゥ……いや言いにくいな。厨金!」
「略すな!」
つい先程までキーボードを選んでいたはずの与損さんとそれに付き合っていたラテが、なにやら尋常ではない様子で引っ張りあっている。
「どうしたんですか二人とも。」
「戸国!頼む、こいつを止めてくれ……!」
「失せやがれッ!俺ァあいつらをぶっ叩きに行かねぇと気が済まねェんだ……!」
あーはいはい、なるほどそういうこと。
要するに与損さんはあそこのうるさい人たちにブチ切れしてて殴り込みに行こうとしてるのをラテが止めてくれていたということか。
「はいはいどうどう。あの手のタイプは飽き性ですから、無視しとけばすぐいなくなりますよ。」
「そういう問題じゃねェだろうが!気に食わねェ!あんなチャラついた格好しやがって!」
「……あ、そこ?」
思っていた方向と少しちがったみたいだ。というか格好で言えば、パンクロック風の革ジャン私服の与損さんも大概だと思うのだが。
「なに見てんッだよ!」
「いえすみません。でもほら、あの人たち店追い出されてますよ。」
おそらく店長なのであろうガタイの良い人当たりの良さそうな男性が温和に彼らに話をつけ、上手く店外にまで誘導しているのか見える。
無理矢理とか力ずくとかでもないあたり、あの人はかなり強かだ。
「あッ!テメェ待ちやがれッ!」
「おいおい。わざわざ面倒事を起こそうなどとするな。」
それに比べてこちらの狂犬は……
千晃もそうだが、与損さんも御してチームをまとめている神谷さんの苦労がよく分かる。
「それよりも、キーボードはもう選ばれたんですか?」
「あァ?まだだけどよォ……」
「それなら先にそっちを優先しましょう。ほら、これとか店員さんに言えば試奏できるみたいですよ。」
仕方がない。この調子でずっとラテ一人に与損さんを任せるのも可哀想だし、私も付き合ってやらないとダメそうだ。
私は内心やれやれとため息をつきながら、二人と一緒にキーボード選びを手伝った。
ちなみに試奏のときの与損さんの演奏はとても綺麗で だった。格好とのギャップはすごかったけど。
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