尊大な拗ね方
隣町のショップモールに行くには、まず隣町の市駅を経由して乗り換える必要がある。
私たちの地域の駅はローカル線の駅の内の一つで、目的地の最寄り駅は本線に連なっているからだ。
「一人じゃ乗り換えも出来なかった、あの尋がねぇ。時間っていうのは過ぎるのが早いものだわ。」
「さ、さすがにもうそれくらいは出来るよ……」
中学生の頃に時折どこかに連れ出されていた私は、ロクに誰かと遊びに行った経験もなかったために電車の知識に乏しかった。
当然電車の乗り換えなんてしたこともなく、そのときはすっかり來摩ちゃん頼りになってしまっていたっけか。
「あのときの尋ったら、キョロキョロしながらギュッて私の袖を掴んで……アタシに子供がいたらこんな感じなのかなって、思わず笑っちゃったもの。」
「うぅ、確かにあれは介護みたいになってたけど……」
「可愛かったけれどね。」
にこやかに菩薩の顔を見せる來摩ちゃんに、しかし私は申し訳が立たない。
外出の度に私は結局色々と気を回してもらい、私一人が楽しいみたいな感じになったことは一度や二度では無い。
「で、でも……今度は私が、來摩ちゃんをエスコートしてあげたいな。」
「あら、それは楽しみね。期待しているわ。」
「え!?あ、う、うん……!」
てっきり私には無理だ、と笑われるものだとばかり思っていたのだが、來摩ちゃんはすんなりと「期待している」と口にしてくれた。
そう、期待してくれているのだ。これに応えないわけにはいかない。
今日は絶対に、來摩ちゃんに楽しんで帰ってもらうんだ。
戸惑いながらに意気込む私にうなずいた來摩ちゃんは、それから車窓の外へと目を移した。
瞬きの間に流れていく外の景色は眺めていて飽きないから、私は好きだ。とはいえ手元に本や電子書籍があれば、もちろんそっちを読むのだが。
「へェ、ここ映画館もあんのかよォ。」
「そうだね。というかここら辺にある映画館といったらこれ一つだけじゃないかな。」
「おォ!そんならなんか映画も観よォぜ!」
あの二人はあの二人で着いてからの計画をたてているらしく、年相応の青春感が一挙手一投足に醸し出されている。
映画か。前回に浮や古舘らと観賞した『DEBESO』はさすがにもう上映期間は終了している頃合だろうし、今度はちゃんと事前に調べておけば事故ることもあるまい。
「良いんじゃないでしょうか。來摩ちゃんはどう?」
「みんなが良いって言うならアタシも賛成よ。」
「それじゃあ現地に到着したら、チケット買いに行かないとね。」
私の脳内スケジュール帳に訂正を加え、どこよりもまず先に映画館へと向かうように調整する。
他でもない來摩ちゃんの賛成。彼女が楽しい時間を過ごすためならそうするだけの価値もある。
例えそれがグロ系ホラーだったとしても……いや、それはさすがに……いや、うーん……
「ってかよォラテさん。アンタ仕事はどーしたんだ?」
「む、我か?」
与損さんがラテにそう問いかけると、その後ろに隠れている神谷さんもそれに追従した。
「そういえば……た、確かメイドカフェで働いていると、以前おっしゃられていませんでしたか……?」
「あぁ、今日はサボりである。」
「はい?」
いやいや、私が誘ったときは「ちょうど空いてるから行ってやろう」って言ってただろ。まさか嘘ついて来たのか?
「ラテさん……」
「正直に言っておったら戸国は遠慮するであろう?せっかく誘われたというのにそれは忍びないからな!」
「本音は?」
「我を差し置いて楽しむなど言語道断。我も連れてけ。」
仕事行けよ。まぁ来てくれてありがとうではあるけどもさ。
実の所、私もここまで大所帯になるとは思っていなかったし、なんなら來摩ちゃんと二人きりになるかもしれないとは思っていた。私なんかの呼びかけに応えてくれる人が、あの二人以外にはいないと思っていたからだ。
「なんであるか?我はいない方が良かったと?」
「別にそこまでは言ってないじゃないですか。」
「ま、我はこの中で唯一の成人であるからな。保護者枠として必要であろう?戸国の意思に関わらず、必ず貴様は我を頼らざるを得なかったであろうよ。はっはっは!」
なぜか勝ち誇ったように胸を張り笑うラテ。こいつ成人済みだったのか、今初めて知ったぞ。
でも、保護者枠は別にいらないよな。この前に浮や古舘と来たときは三人だけだったし。なんなら大阪へも私たちだけで行ってたわけだし。
第一、この歳になって保護者の付き添いなんて要らないだろうし。いちいち言ってやるのも可哀想だから言わないけど。
「この歳になって保護者の付き添いなんて要らないんじゃないかしら?」
「來摩ちゃん?」
言っちゃった。しかも來摩ちゃんが言っちゃった。
案の定ラテはポカンと数秒フリーズしたあと「で、あるか……」と目線を窓の外に移した。
「……人の子というのは成長が早いのだな。さながら、刹那に流れるこの景色よ。」
「なんか始まったぞオィ。」
「どこ目線なんですか?」
「ふっ。時の移ろいというのは残酷なもの。貴様らを心配する我のこの思いも、忘れられゆくというのが世の常か……」
ナイーブに黄昏れるラテは要するに、「わざわざ心配して来てやったんだからそんな酷いこと言うな」と言いたいらしかった。
荘厳な口調で何を言っているのかと思えば……
「はいはい分かりました……来てくれてありがとうございます。」
「うむ、分かれば良い。」
金髪のツインテールを揺らして振り向いたラテは、機嫌を直して満足そうにうなずいた。
全く、尊大な拗ね方なことで……
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