存在しない記憶
「やって来たは良いものの……こっからどーすんだよ。」
中出の一言は確かにその通りだった。
辺り一面に胸元あたりにまで達する高さの雑草が生い茂っていて、これではレシピの探索などロクに出来やしない。
「だが、地図は確かにこの辺りを……とにかく探してみるしかない。」
「私二人のためにジュース買ってくるー。」
「あっ!蜜花てめぇ逃げてんじゃねぇぞ!」
逃げ足の早い蜜花相手に中出の手は空を切り、そうしてそこには言八と中出だけが取り残されたのだった。
「……ちっ、しゃーね。とりあえずしらみ潰しに行くか。」
「そうだな。ありがとな中出。」
「……へっ、よせやい。お前から礼を言われるとむず痒くならぁ。」
こうして言八と中出でレシピを探し始めた。
どんな状態なのか、どんな形状なのか、記されているのは紙か石版か。それすらも分からない。
「ただいまー。見つかった?」
「蜜花……全く。」
それらしいものは見る影もない。わけいってもわけいっても草むらばかりだ。
白いワンピースに身を包む蜜花は、風に飛ばされそうになる麦わら帽子を抑えながら、カンカン照りの太陽を見上げる。
「ま、ジュース買ってきたし、一旦休憩にしよ?」
「賛成ぇ……俺もう無理ぃ……」
「……そうだな。さすがに疲れた。」
すまし顔の言八も、そろそろ体力が厳しくなってきたところだった。腕についた虫を手で払い、草むらの外へと歩いていこうとする。
コツン、と足先になにかがぶつかった。
地中に埋まっているなにかに、言八はそのとき気がついた。
「……おい、なんかあるぞ。」
「見つけたの?」
「分からん。」
言八はしゃがみこんで凝視する。
錆び付いたブリキのおもちゃ箱のようなそれは、なにかただならぬ雰囲気を帯びているように思えてならなかった。
「中出、掘るぞ。」
「ホイ来た!俺の穴掘り力舐めんなよ!」
やっとのことで目標を見つけた言八たちは必死で穴を掘る。草の根を引っこ抜き、ひたすらに掘り始めた。
そしてついに――
「……よしっ!」
その大部分が露出した持ち手を引っ張って、ブリキ箱は飛び出るようにして穴から掘り出されたのだった。
◇◇◇
「なんかマスターさんの性格今と全然ちゃうくありません?」
「はっはっは。あの頃はまだ若かったですからねぇ。」
掘り出すまでの下りを話し、バーテンダーさんは穏やかに笑った。
そしてそのノートを開いたままカウンターに置く。
「……と、まぁ皆さんのお考えになっている通り、箱の中に入っていたのがこのノートというわけです。」
「ほへぇーなるほど。つまりこのノートにその始まりのカクテルっていうやつの作り方が書いてあると……」
開かれたページを覗こうと、私と古舘は身を寄せてその内容を確認しようとする。
しかし、私たちはその内容に首を傾げるしかなかった。
「……何語ですかこれ。」
「さぁ、私にもさっぱり。」
そのノートには解読不能な、意味のわからない文字列がぎっしりと羅列されているのみだった。
私はゴーグル検索のカメラ機能を使って翻訳してみようと思い試したが、カメラはそれを文字だと認識してくれない。
「掘り当てたまでは良かったのですが、結局肝心の中身を理解するのに時間がかかりましてね。」
「ぐぬぬ……全く読めへん……」
「良ければそれ、しばらくお貸ししますよ。そこから何かが得られましたら私としても幸いです。」
バーテンダーさんの提案に古舘は目を輝かせ「ホンマですか!?」と立ち上がった。
古舘は執念深い性格だ。一度決めたらなかなか折れない。
「おっしゃ、任せてください!絶対この秘伝を物にして見せるんで!」
「それは頼もしい限りですね。期待しておりますよ。」
「うぉぉぉ!戸国!ウチ先帰ってこれ調べてみるわ!」
「あ、うん。じゃあね。」
古舘は駆け足でチェックを済ませ、託されたノートを嬉しそうに抱えながら店の扉をくぐっていった。
なんというか……よくもまぁそんなにはしゃげるものだな。
「にしても良かったんですか?あのノート、大切なものなのでは?」
古舘が出ていった後、静かになった店内で私はバーテンダーさんにそう聞く。
思い出の品、というのももちろんそうだし、そんな聞くからに貴重そうなものを、いとも簡単に他人に譲ってしまったことに違和感を感じていたのだ。
「えぇ、全然構いませんよ。普通に法螺話ですしね。」
「……はい?」
私は耳を疑った。そんなしれっと嘘つくことなんてある……?
「うん、私もそれずっと思ってたんだけど……あれ、おじいちゃんが書いたやつだよね?」
「え、じゃああの文字は……?」
「ただ字が汚いだけですね。」
えぇ……
「とはいえ、あそこには私が長い時間をかけて研究したカクテルのノウハウが詰まっています。カクテルの材料とそれに合う副材料、比率、隠し味、アレンジ……」
「でもこの前『昔書いた字が汚すぎて読めん』って言ってたけどね。」
「ダメじゃん。」
「はっはっは。」
はっはっは、じゃなくて。
予想外に拍子抜けなことの真相に困惑する。そんな私にバーテンダーさんは片目をつむって言うのだった。
「仮にも私もバーテンダーの端くれですから……プロの技を、そう易々と盗まれてしまっては商売あがったりです。」
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