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えちちバニーガール68歳男性


「あんときはまさか、こんなことになるとは思ってへんかったわ。」


 古舘の視線の先には、身体を縄で縛られている池と千晃が並んでいた。

 その下には二人の女子生徒がそれぞれ武器を手に笑顔を貼り付けていた。


「オマエ、うちのもんに手ぇ出したんだるるるるォォォ???」


「ひゃんっ!しゅみばせぇんっ!」


 ペコンペコン、とピコピコハンマーが叩きつけられ、池は情けない声をあげながら必死に謝罪している。

 

 先ほど浮からもらったカクテルを飲み改心した池は、やっとのことで千晃に謝罪をする運びとなった。

 千晃もそれを受け入れるつもりで聞いていたのだが、そこに偶然鉢合わせてしまった彼女らによってこのような有様となったのだ。


「あのねちぃちゃん。私がなんで怒ってるかわかる?」


「なんで?まったく心当たりがない。」


「付き合うとか別れるとか、そんな重大なことを決めるなら、少しくらい私たちにも相談してよ!」


 ベチンベチンとハエたたきで顔面を叩かれながら、千晃は「ぴええええん」と泣いている。

 彼女に関しては少し理由が理不尽な気もするが、それはまぁ身内の問題なので口を挟まないでおく。


「尋ちゃん、あの二人って……」


「知らない。」


「戸国が他人に興味示さんのはいつものことやけど……あの子らは千晃の友達。それに加えてバンドメンバーでもある。」


「ああ、そういえばバンドやってるって言ってたな。」


 ロックバンド『サンライズ』だったか?そんな名前のバンドでベースボーカルをしているとのことだったが、あの二人が残るメンバーだったのか。


「あのお下げの子が神谷 風香ちゃん。いかつい見た目の方が与損 伏持加ちゃんや。」


「え、外国の人?」


「日本と韓国との子らしいわ。ええなぁ韓国……」


 古舘は韓国好きだからな。韓流アイドルとかのグッズを身につけているところもよく見かけるし、羨ましがるのも納得だ。


「……おィ。」


 そんな私たちに気がついたのか、与損さんがそこから首だけをこちらに向けた。

 三白眼の眼球がギラリと輝きを放ってこちらを覗いている。


「なにガンつけてんだ?見せものじゃねーんだよ。」


「あ、すみません。」


「あー、こら!ヨッちんも因縁つけてないで!……えと、申し訳ありません戸国さん。」


 おや、こちらの子は折り目正しい子のようだ。お下げメガネの神谷さんはオドオドとした様子で与損さんに関して謝罪をしてきた。


「いえ、こちらこそ申し訳ありません。」


「ひっ……」


 私が謝罪すると酷く怯えて後ずさりし、与損さんは苦笑しながら千晃の後ろに隠れた。


「……なぜに?」


「素で顔怖いんちゃう?」

 

「あ、えと……ひ、人と話すのはそんなに……と言いますか……」


「戸国、気ぃ遣われてんぞ。」


「別にどうでもいいけど腹立つな。」


「ひっ……」

 

 とはいえまぁ、向こうから避けてくれるのであれば願ってもないことだ。原因など知ったことではない。


「おーい、戸国さん助けて。」


「いい景色。」


「ひどい。」


 お前が言うな千晃。猫耳の件は未だに許していない。それくらい甘んじて受け入れるべきだ。


「そうそう、それはそれとして……」


「本当に私のことスルーでいくんだ……」


 先端が黒ずんだハエたたきでペチペチされている千晃は放っておき、私は浮と古舘、バーテンダーさんの方へと視線を戻す。


「どう?カジノの方は。」


「うん!楽しかったよ!私すぐに負けちゃって、何回か粧奈ちゃんにチップ分けてもらっちゃった。」


「あ、こら。秘密や言うたやんけー。」


「きゃっ!ごめんごめん!」


 詰るように浮の頬を指でつつく古舘。これが世にいう華の女子高生というやつか。私は到底こうはなれない。


「でもまぁ浮ちゃんはかなり強い方やと思うで?実際何人か破産に追い込んどったしな。」


「言い方……」


「尋ちゃんとは対決できないの?ポーカー一緒にやろー!」


「あかんあかん!戸国はマジで強いから、一緒にやったら破産どころじゃ済まんくなるで!」


 みんな一体、私のことをなんだと思っているのか。加減くらい知っている。そりゃあ古舘に対して情けをかけるつもりもないが、相手が浮なら話は別である。


「ま、それはまた別の機会でも出来るし。今の私はバーメイドだし、ね?」


「……そっかぁ!」


 浮は聞き分けがとても良い。しつこい古舘とは大違いである。


「なんか失礼なこと思われてる気がすんねんけど。」


「うん。」


「うん!?!?」


「はっはっは。」


 バーテンダーさんは水を片手に穏やかに笑った。

 そんななんでもないような時間を過ごしていた私たちだったが、そこに教室の扉がまた開く音がする。


「――お、やっぱ来てたか言さん。」


 扉の向こうから差し込む光で、中出先生の姿は影しか見えない。しかしその声で誰なのかの判別はついた。


「あ、中出さん!お仕事お疲れ様で――」


「……」


 絶句、といったところであろうか。私も初見では同じような反応になったものだ。

 逆光で見えなかった先生が、教室の中へと入ってくる。

 少し毛深く年齢よりも大分雄々しい肉体で、バニーガールの衣装を身につけた先生がその姿を見せた。


「……」


「……まぁ座れ。」


「あ、おう。」


 ピクリとも笑わなかった……

 バーテンダーさんの目は完全に可哀想な生き物を見るときのそれである。

 浮も心底反応に困ってあたふたとこちらに目線を向けてくる。知らん、こっち見んな。


「それは?」


「あれだよ、罰ゲーム。この前お前ん所でポーカーやったろ?あんとき女装しろってことになっただろうが。」


「ああ、あのときの。」


 合点がいったように頷くバーテンダーさん。これまたすんなり受け入れてくれることで、逆に先生の居心地の悪さが増す。


「なぁせめてなんかもっと反応してくんね?このままだと俺出オチにもなれなかった可哀想な奴なんだけど。」


「安心しろ。お前の勇姿は墓石に刻んでやるさ。」


「死なせんなよ……」


「社会的に死んでるとは思わんのか。」


「くそうマスター!この店で一番強い酒!」


 出るわけねぇだろ。ここ学校だぞ。


「それはともかく、わざわざその姿を見せるためだけにここへ?」


「いやまぁそれもあんだけど、千晃を探してたんだよ。」


「ん、私?」


「俺ぁ軽音楽部顧問だからな。今までの経験上、こいつは早い内に身柄確保しとかねぇと、本番ギリギリまでどこかしらほっつき歩いてるに決まってる。」


 そう言ってじろりと千晃を見つめる先生に、当の本人は何処吹く風と言った様子で縄にぶら下がっている。


「先生、助けて。」


「神谷、与損、お前らも大変だよな……」


「この状況でなんの迷いもなくそっちの味方できる辺り、普段どんだけ信用されてないんかがわかる。」


 まぁあんな享楽主義者と足並み揃えるなんて、相当手のかかることなんだろう。千晃ももう少し自重して、協調性を育んだ方が良い。いや、育め。


「とりあえずご苦労さん。こいつは貰ってくから、お前らも時間に余裕もって集合してくれよ。」


「わァってますよ先生。」


「ちぃちゃんのことよろしくお願いします。」


「あーれー」


 こうして千晃は縄で縛られたまま、ズルズルとバニーガール姿の先生に引きずられて行った。

 傍から見たら絵面が強すぎるな……


 二人が出ていったあと、ほとんど入れ違いになる形でラテとアカネさんが教室の中に入ってきた。


「あ、終わったんですね。」


「こっぴどく叱られたのだ。聞いて欲しいのだ。」


 幸運にも生徒側も学校側も訴えるつもりはないらしく、ただ今後同じことは繰り返さないように、と厳重注意を受けたとのことだった。


「古舘もすまないことをしたのだ……」


「ええよええよ、傷物にしたら責任とってもらうし。」


「どういう意味なのだ。」


「ウチのこと貰てくれるイケメン紹介して。」


「目が切実なのだ……」


 なんだかんだ自他問わず色恋沙汰に積極的な古舘だが、哀れなことに誰かと交際しているところを見たことは無い。

 無論、私が興味無さすぎて聞いたこともなかっただけかもしれないが、古舘の性格を考えると不自然なようにも思える。


「粧奈ちゃんって恋愛経験豊富そうだよねぇ。何人の男の子と付き合ったことがあるの?」


「あー……浮、古舘は――」


「百から先は数えてへん。」


「え!すごい!大人の女だ!」


 しれっと嘘つくなこいつ。浮なら信じかねないと古舘ならわかっていただろうに。

 私の視線にそういう意味が含まれているのを察したのか、古舘は私にこっそり耳打ちし、


「せめて今だけでも夢見させてぇや……」


と言った。

 私はなんだか悲しくなったので何も言わなかった。


「それにしてもここ、変わったお店が随分と多いよね?アタイ来たときちょっとビックリしちゃったよ。」


「まぁ、そうなるのも無理はないかと。私もキャバクラやるクラスの話を聞いたときは耳を疑いました。」


「ホンマ、よう先生が許してくれたよなぁ。」


 確かにこの学校の校風として、自由なところが多い気がする。意外となんでも快くやらせてくれたりするらしいし、生徒会本部の立ち位置も他校とはかなりちがう。

 先生たちの度量が広いのか、はたまた中出先生みたいに適当なだけなのか……さすがに前者だろう。


「これだけはっちゃけておるのだ。我らがこの後行くつもりの軽音楽部のライブも、さぞ面白いことになっておろうなぁ!」


「確かに!今から楽しみになってきちゃうね。」


「とはいえ始まるまではまだあるし、それまで三人は好きに回っておきなよ。私はもう少しここにいないと……」


「ああ、そのことなら心配せんでもええで。奈々萌っちに頼んどいたから。」


「遠藤さんに?」


 私がそう言うとカジノエリアの方から一人、バニーガールの少女がこちらへ歩いてやってきた。


「私が交代してあげるから、お友達と遊びに行っても良いよ?」


「遠藤さん、別にこの人たちは友達じゃ――」


「あ、でも池くんにはちょっと用事があるから残ってて欲しいかなー!」


「……あぁ、はい。わかりました。」


 池……強く生きろよ……

 私はこれから起こるであろう修羅場から遠ざかるために、その申し出を有難く受け入れることにした。


 これで、文化祭における私の主な仕事は終わりだ。

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