トップメイドの闘争
「ここは静かで平和だ……」
「他に休憩とってる人いないみたいだからねぇ。」
現在私たちは、午後の仕事に備えて昼食を摂っていた。
今いる休憩室は店員専用のスペースであり、ここで休憩をとったり談話したりするらしい。
そのためある程度の広さは確保されており、意外にも娯楽用品も完備されているようだった。
とはいえ人がいなければその広さも寂しさの要因だ。遠巻きに聞こえる喧騒を聞きながら、私はコンビニ弁当をもきゅもきゅと頬張った。
嗚呼、平和だ……
「たぁぁぁのもおおぉぉ!!」
「キャっ!」
突然の素っ頓狂な声に思わず変な声が出てしまった。浮は気がついていないみたいなのでスルーの方向で行く。
「いた!お前が加萩浮か!」
「モグモグ……はい!何か用事ですか?」
口の中を空にして話す浮に、相手は品定めするような視線で睨めつける。
「この人……ラテさん?」
「ん、お前は私を知ってるのか。」
「ああ、そうではなくて。仕事中に浮とあなたがたの話題になりまして。」
さすがプロだなぁーとか、よく体力もつなぁーとか、そういうことを浮と話していたのを覚えている。それからの仕事が大変で、そこから記憶は曖昧だが。
「へへん!やはり我ほどのメイドとなると、どこに行っても話題をかっさらってしまうものだからな!」
「へぇ、凄いですね。」
調子に乗っているのでおだてておく。調子に乗りやすい人間ほど扱いやすい人間はいない。
……なお、古舘は例外とする。
「って、違う違う!そういう話をしに来たのではない!」
ハッと気づいて首をぶんぶん振り、雑念を追い払っていたラテは、それから浮に向かって指を差した。
「加萩浮!この我と勝負だ!」
「え、私と?なんで?」
本当に謎である。いったい浮はラテに何をしたというのだろう。
しかしその答えはラテ自らが答えてくれる。
「我の笑顔より、お前の笑顔を評価する声を聞いた。我はメイドのトップ……トップオブメイド……たかが娘一人に負ける訳には行かぬのだ!」
「よく分かんないけど、熱意は伝わってきたよ……!」
「というわけで、これより我とお前で勝負をするのだ!」
「おっけー!受けて立つよ!」
受けて立ってあげるんだ。
燃え上がる二人を他所に、私はデザートのバナナを食べる。家から持ってきたやつだ。美味い。
◇◇◇
「なん、だと……?」
ラテは戦慄きながらジョーカーを手からこぼす。
その向かいには手札を全て捨てきった浮の姿があった。
「こ、これで三勝目なんだけど……終わる?」
「終わらん!まだ勝負は始まってばかりである!」
「えぇ……」
あまりにも勝ちへの執着が凄いラテは、いよいよ自分が勝つまで浮を逃がさないつもりだ。
とはいえ時間もそろそろ無くなってきたし、休憩を終わって表に戻らなければならない。浮もそこを懸念して消極的になっている。
「ラテ、あんたもういい加減にしなよ……」
「やである!我はメイドのトップ!これしきのことで負けてなるものか!」
「神経衰弱で負けて悔しがるメイドのトップとは……」
私の隣で私と同じように呆れているのはこのメイドのトップの相方、アカネさんだ。
見たところ私たちより年上で、銀色に染められた髪がポニーテールでまとめられている。
「とにかく!我は負けぬ!負けられぬのだぁ!」
「そんならせっかくだし、一日のチェキ撮影回数で勝負すりゃいいんじゃないかい?」
「チェキ、ですか?」
そういえばメイド喫茶ではそういうサービスもやってたんだっけか。
「ほう……なるほどのう。確かにそれであればメイドっぽい勝負にもなるな。」
「チェキ撮影数はそいつの人気を表してると言っても過言じゃないからね。まぁうちの場合は二人一組だし、そいつ自身というよりかはそいつら二人組の人気って感じだけど。」
……え、じゃあそれって私も巻き込まれるってこと?
「良かろう!トランプでの勝負なぞくだらん物ではなく、それで勝負してやろうではないかっ!」
「なんかそれ楽しそう!やるやる!」
「決まりだね!アタイらが勝ったら、メイドのトップの座、返してもらうよ!」
「元から私たちそんなの名乗った覚えないんですが……」
「お前たちが勝ったら……そうであるな、今日一日の我の稼ぎ、全てお前らにくれてやろう!」
「そうだね、アタイのもやるよ!」
今日一日の、稼ぎ……?
確か彼女らは午前だけでもかなりチェキ撮影やその他追加サービスを稼いでいたように見える。額はかなり期待できるのでは……?
「尋ちゃん!私たちも頑張ろ!」
「……分かったよ、仕方ないな。」
金に釣られた……とはいえまぁこちらとしても悪い話ではないはずだ。話を聞くに、こちらにも勝機はあるように思えるし。第一、負けてもこちらにリスクが一切無いのが大きい。
「とはいえ午前の分と含めたら我らが圧倒的であるからな。午後の撮影数のみで競い合うこととするか。」
「え、いいの?」
「構わん構わん、我はトップメイドであるぞ?これしきのハンデは必要であろう。」
ほう、随分と舐めた真似をしてくれる。助かる。
そのしたり顔に吠え面をかかせてやるのもまた一興か。
「そうと決まれば時間は無駄に出来ない。行こう浮。」
「あ、うん!よーし、負けないよ!」
「望むところである。」
こうしてここに、戦いの火蓋が切って落とされた。
メイドたちの誇りと給料をかけた、二対二の団体メイド対決が――!
――と、意気揚々と仕事に戻ったは良いものの……
「せんきゅーなのであるぞー。」
「ご指名ありがとね!」
もう既に結構な差をつけられてしまっている……
それもそのはず、そもそもラテは秋葉原本店という激戦区で数ヶ月も人気第一位を保持し続けた猛者であり、その名前を求めてここを来店する客は決して少なくはないのだ。
そしてあのアカネさんの方も厄介だ。現在の時刻は十三時半ばで、飲食店は特に混み合う時間帯だ。であるのに対し、彼女は一人一人の客たちをぞんざいに扱うことなく懇切丁寧なサービスを提供出来ている。
流れるように注文をとり、料理を運び、客を楽しませて虜にする。メイドカフェの店員としてこれ以上ない仕事ぶりだ。
「戸国さん加萩さーん、八番テーブル注文お願いしまーす。」
「はい、今行きます。」
対する私たちはどうか。お察しの通りである。
経験と技量で差をつけるあちらとは違い、こちらは素人二人組である。マニュアル通りのメイドをやって、ただただ仕事をこなすだけ。向こうのようにチェキ撮影まで持っていくことは出来ていなかった。
このままでは、マズいな……
「尋ちゃん、何か考え事?」
「ん、いやまぁ……どうやったら勝てるのかなってさ。」
私の考える勝機は浮の笑顔である。ラテは先ほどこう言っていた。
『我の笑顔より、お前の笑顔を評価する声を聞いた。』
それはつまり、彼女の笑顔にはプロ顔負けの力があるということであり、それさえ活用できれば相手に負けない業績をあげることも可能なのではないか。
「うーん……私たちも分かりやすいキャラ付けしてみる、とか?」
「キャラ付け?」
「そうそう、例えば午前に尋ちゃん『ツンデレメイド』って言われてたよね?いっそのこと、本当にそうなっちゃえばいいんだよ。」
「は、はぁ……」
なんだそれ、そんなんで人気伸びるもんか?
「だって、お客さんは尋ちゃんのそういうところに喜んでそう言ったわけでしょ?ってことはそのキャラ付けが求められてるってことじゃないかな。」
「うっ……まぁそれは確かに……」
「じゃあまぁやるだけやってみようよ!私は……どうしよっか。」
「……浮はそのままでいいんじゃないかな。」
その理論で行くと、浮は『清楚な子がえっちなことを言う無知シチュ』を参考にしなきゃいけなくなったりしそうだ。そんなことを強要したとバーテンダーさんに知られたりしたら、二度とあのバーの敷居を跨ぐことは出来ないだろう。
「分かった!じゃあ行こう!」
未だ納得は難しいが、とにかく物は試しだ。このままでは敗北必至でもあるし、どうにかなれの精神で行くことにした。
ツンデレ……そうだな、ついこの間勝ったラノベの登場人物が確かそんな性格をしていた。あれを参考にしてどうにか取り繕ってみるとしよう。
「おかえりなさいませご主人様。ご注文お伺いするけど。」
「あぁ、この『メイドさんの聖水』をください。」
「なっ……わ、分かった。メイドさんの……これね。」
私はゴニョゴニョと恥じ入るように流そうとすると、客はその眼光をギラリと光らせて口角を上げる。
「ん?なんて?もう一回言って?」
「は、はぁ!?だから、その……メイドさんの……それ。」
「どれ?」
「うっ……め、メイドさんの……聖水……」
「……へへっ。」
顔を真っ赤に染め上げ目を逸らしながらそう言うと、客はそれに満足したように笑みを零した。どうやらお気に召したらしい。
「……注文はそれだけでいい?無いならもう帰るけど。」
「なんだよ冷たいなぁ、俺ご主人様だよ?」
「あーそうですね変態ご主人。人にそういうこと言わせて楽しいですか?」
「冗談だってー。それじゃあ他に……うん、君たちのチェキ頼もうかな。」
「えっ!ホント?……あ、別に嬉しいとかそんなんじゃないケド……」
「へへっ、じゃあそれでよろしく。」
「わ、分かった。それじゃあ後でね、ご主人。」
チェキ一枚分を確保した私たちは、そのまま注文を伝えるために裏へと向かった。
「じ、尋ちゃん、恐ろしい子……!」
「え、なんで?」
何故か隣で浮が震えていた。
◇◇◇
慣れてしまえば後は簡単だった。
浮は浮でその素直さを買われて可愛がられているし、私も私でダル絡みに対応してやって評価を得ている。
この程度のダル絡み、普段から古舘にされているものと比べれば造作もない。
気づけば私たちのチェキの撮影数はみるみる増えていき、やがてラテとアカネたちに追いつく勢いとなっていった。
「この調子で行けば……!」
「だね!どんどん行っちゃおう!」
裏に貼ってあるランキング表を眺めつつ、既に充分貢献出来ているほどの業績を獲得した私たちは気合いを入れ直す。
古舘や先生、バーテンダーさんたちも帰った今では、私たちはもう無敵と言っても差し支えはないだろう。
「ほう……なかなかやりおるではないか。」
「あ、ラテちゃん!」
表に戻ろうと踵を返したところで、ラテとアカネとばったり鉢合わせた。どうやらあちらもランキング表を確認しに来たみたいだ。
「まさかここまで追い詰めて来るとはな。認めよう加萩浮、お前は素晴らしいメイドである。」
「え?えへへー、尋ちゃんの力もあってこそだからね。」
「だが、勝つのは我らである。降参するなら今のうちであるぞ?」
「ううん!ここから一発逆転してあげる!ね!」
「まぁね。一応そのつもりかな。」
「随分と気合い入ってるねぇ。アタイらも負けてらんないよラテ!」
「百も承知よ。残りの時間も僅かだが、互いに最善を尽くそうぞ!」
浮に不敵な笑みを見せるラテ、それに浮も自信に満ちた笑顔を返して通じ合う。もはや仲良いなこの二人。
「それじゃあラストスパート、行きますか。」
「おー!」
それから私たちは総力をあげて接客に臨んだ。
お昼時を過ぎても客足は留まるところを知らず、店内の活気は収まることは無かった。
「美味しくなぁれっ!萌え萌えきゅんっ!」
「萌えぇー!」
例えば浮のファンが出現し始め、一人で何回も来店してチェキ撮影を要求してきたり……
「我からのサービスである!心して受け取れい!」
「ラテ様ぁー!」
かと思うとラテの既存のファンクラブによってその差を突き放されたり……
「ば、馬鹿じゃないですか……っ!?」
「ふへ、ふへへ……」
誰も行きたがらないような迷惑な絡み方をしてくる客を率先して取る私たちに、他の店員さんが感謝してくれたり……
「家族に娘の友達とパパ活してたことがバレて……」
「それはご主人様が悪いけど……まぁこれ飲んで元気出しな。奢りだよ。」
アカネさんのあまりの対応の良さに、お悩み相談室が自然と形成されたり……
そんなこんなで忙しかったラストスパートも、遂には時間を迎えて営業終了し、自然と客足も途絶えていった。
「終わったー!」
客席がもぬけの殻になり、浮は伸びをして言った。
私も言いようの無い徒労感に全身を支配され、休憩室の椅子に座って一息ついた。
「二人とも、大儀であったな。」
「ラテちゃん、アカネちゃん!えへへ、ありがとっ!」
「……むぅ、確かにこの笑顔は養殖では作れぬな。」
「?」
「いや、こちらの話だ。」
ラテは「いやはや」と話題を切り替える。
「まさか、お前らがここまで我らと接戦をしてくるとはな。午後からの伸びを見た時は目玉が飛び出るかと思ったぞ。」
「そうだねぇ、アタイもビックリして飛び上がっちゃったよ。」
「求められてるキャラ像っていうのをハッキリと理解してから上手く軌道に乗れましてね。ですけどまぁ、そちらもさすがと言う他ありませんね。」
「うんうん、追いついたと思ったらまた突き放されてるんだもん。やっぱりトップメイドさんは違うなーって!」
「トップメイド……!」
ラテさんはその一言に目を輝かせ、その後ふふんと得意げに胸を張った。
「そうであろうそうであろう!我はトップメイドであるからな!これしきのこと朝飯前よ!なーっはっはっは!」
「貫禄は全然ねぇな……」
「やめてあげな……」
思わずそう言ってしまった私の肩を、アカネさんが優しく叩いた。
そんな折、私たちの後ろから誰かがやってくる。
「皆さん、今日はご苦労様です。本日のみの営業でかなりの収益を得ました。これも皆さんが頑張ってくださったお陰と言えるでしょう。」
「あ、店長さん!」
にこやかに私たちに話しかけてきた店長の手には三枚の封筒が握られている。
店長はそれを私と浮とアカネさんに手渡し、満足そうに頷いた。
「ラテくんはバイトじゃないから、今日の稼ぎもまとめて給料日にね。」
「あい分かった!」
「にしても、今日は本当にありがとう。君たちのおかげでプレオープンは大成功です。見てくださいよこれ。」
店長は大変嬉しそうにそう言うと、ランキング表へと指を差した。
「こ、これは……!」
「えぇ!撮影チェキの枚数がランキングに影響されて順位が変動するのですが……あなたたちのポイントがずば抜けて多い!」
そこにあったのは私たちの勝負の結果だった。
「一位、ラテとアカネ……」
そこには九十二得点を獲得した二人の名前がデカデカと載せてあった。
対する私たちは二位、そして得点は四十八である。
「アタイらの午前の分は四十三点だったね?ってなると……」
「九十二から四十三を引いて、四十九点……」
四十八と四十九。一点差で、私たちの敗北だ。
「う、うぉぉぉぉ!!勝った!勝ったぞアカネ!」
「そうだねぇ!アタイも嬉しいよ。」
「凄い凄い!二人ともおめでとー!」
「なーっはっはっは!」
浮……私たち負けたのにめっちゃ嬉しそうだ……
「とはいえ、あと一点でも違ってたら変わってたからねぇ。アンタらも大概凄いよ。」
「えへへ、ありがとねー。」
「どうも。」
まぁ勝負には負けてしまったが、だからといって何がある訳でもない。給料は無事貰えたわけだし、目的は達成したと言えるだろう。それだけで満足だ。
「ふふふ、良い百合が見れて私も嬉しいです。ともかく、本日はありがとうございました。今日限りの契約でしたが、ずっとここにいてほしいくらいですよ。」
あはは……さすがにずっとは無理だな。そもそも私がメイド服とか柄じゃないし。
「うーん……私は本業の方を大事にしたいので、ちょっと厳しいです。」
「あぁ、加萩さんはバーメイドを目指してるんでしたね。」
「はい!今はまだ見習いですけど、夢なので!」
「……なら、引き止めることは出来ませんね。残念です。」
「アタイも難しいかもねぇ。こちとらもう店持っちゃってるからさ。」
「え?」
店を持ってる……?つまりこの人、この齢にして一店舗を経営する若手店長ってこと?
「一応この商店街の片隅で中華飯店をやらせてもらっててね。親父の紹介で資金調達のために単発で来たんだよ。」
「え?じゃあ私と同じじゃん!」
「おや?浮ちゃんの店もここにあるのかい?」
「そうだよ!ねぇねぇそのお店どこにあるの?今度行ってみたいから教えて欲しいな!」
「あぁ、合点承知だよ。そうだ、連絡先交換しとくかい?」
浮とアカネはすっかり意気投合し、お互いに寄り集まって話している。おそらくあれがあるべき若者の姿なのだろう。
「……」
そんな二人の様子……というよりアカネさんを、ラテさんが何やら物憂げな視線で見つめているのに気がついた。
「どうかされました?」
「ん?いや、なんでもない……というわけではないがな。」
ラテさんは一瞬慌てたあと、そんな自分を嘲笑うかのようにふっと息をついた。
「なんというか、我は今まで相方と良い別れ方をしたことが無くてな。だからこう、その分アカネと別れるのが少し……心に来るものがあるのだ。」
「……」
「……お前、友達いないだろ。」
「え?いや急に失礼じゃないですか?」
「すまんすまん、そういう意味ではなくてだな。」
ケラケラと笑うその様子はどこか悲しげで、しかしなんだか優しいような表情をしていた。
「何か過去に重荷を背負っておるような……そんな目をお前はしておる。我はそういう輩をたんと見てきたから、なんとなく分かるのだ。」
「そんなこと……」
「良い。今はまだ答えを出さずとも、時が経てば傷も癒えよう。それか……お前にとっては奴が妙薬であろうな。」
「奴って……」
私は自然と浮に目をやった。
アカネと話していた浮はそんな私の視線に気づいたらしく、こちらに振り向いてニコッと笑った。
私の心臓に絡まっていた鎖一本が、音をたてて引き締められた。
浮が、私の妙薬……
「……さ、お前たちも早く帰るが良い。我は裏の片付けを手伝わねばならぬからな。」
「あぁ、そういうことならアタイも……」
「もう良い、お前たちはアルバイトであろうが。これは我ら本職の特権であるぞ?」
「ラテちゃん……!はい、お疲れ様でした!行こう尋ちゃん!」
浮は先輩風を吹かすラテを敬愛の眼差しで見つめ、そのまま私の手を引いて出口へと向かった。
「ちょ……お、お疲れ様でした!」
私も挨拶だけして、浮と共に店を出た。
◇◇◇
「アタイもそろそろ行こうかね。」
「そうするが良い。」
帰りの準備を済ませたアカネを、我は片手間のフリをして見送りに行く。
そんな我を苦笑して見る辺り、アカネはそこのところを察しているのであろう。聡い奴である。
「今日はラテのおかげで楽しかったよ。良かったらアンタも今度うちに来てくれたら嬉しいねぇ。」
「時間に余裕が出来たら行こう。なんせ我は人気トップメイドであるからな。」
「はいはい、アンタは凄いよ。」
呆れるような認めてくれているような、どちらともつかない声でそう言うアカネに、我は図らずも微笑んでしまう。
「……またな、アカネ。」
朱色の空の下で少し目を見開いたアカネは、それから軽く息を零して「あいよ。」と返事をして、寂れた商店街を歩いて行った。
「……」
風が吹く。ボロ小屋たちのガタガタとした合唱が耳を通り抜ける。
夜の予感を肌で感じ、我は残った最後のひと仕事に取り掛かるために中へと戻った。
空には白い月が浮かんでいる。
面白ければぜひ
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