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大人になった私に


 人生においてもっとも大切なことはたった一つ。それは酸いも甘いも、その最後の一滴まで飲み干す強い覚悟だ。


 その言葉が、私の胸の内に今も残っている。


 形だけは煌びやかで夜の静寂に染め上げられたこのバーも、蓋を開けてみれば玩具箱のようなものだ。さしずめそんな場所の支配人である私は、中身のないお人形さんと言ったところか。


「……」


 『あの頃は良かった』と青春時代を懐古しながら、戻らぬ幸せを肴に思い出をアルコールに溶かすと、塩っぽい味がした。

 どうせ、客の一人も来やしないのだ。自分の酒を飲んで何が悪いというのだろうか?


 ウイスキーの水割りをグラスの中で揺らし、頬杖つきながらその輝きを眺めていると、琥珀色に染まった世界がよく見えた。私は、孤独だった。


 

 ――ドアベルがチリンと、鳴った。


 

「……」


 世界が、色づいた。

 別世界からの扉が開き、客を招いた玩具箱は玩具箱などではなくなった。

 止まった私の時間は、ついに動き出したのだ。


「……久し振りだね。」


 どちらともなくそう言葉にすると、その客は私の目の前の席にすとんと座って得意げな笑顔を向けた。


「変わらない、ね。」


「お互い様じゃない?」


「そっか……そうだね。」


 まるであの頃みたいに、私たちは笑いあう。

 あの日の別れから埋まらなかった心の穴が埋まっていくかのように、私たちは笑いあった。


 この懐かしい感覚……子供の頃に戻ったみたいだ。満足感に目を閉じれば、今でもありありと思い出すことが出来る、あの三年間。


「――やっと、会えた。」


 優しげなその声は、今も昔も変わっていない。

 初めて出会った彼女とその姿を重ねながら、三年間の記憶が脳裏を駆け巡っていった。


 これはかつての私たちが、とある街のとあるバーで夜を過ごす――そんな三年間の物語である。

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