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明日も太陽は昇る、潮は何かを運んでくる



  これからどうするか。呼吸をし続ける。明日も太陽は昇るし、潮は何かを運んでくる。


 これは、映画『キャストアウェイ』のラストのセリフだ。細かい所は微妙に違うかもしれないが、だいたいは合っていると思う。


 以下、映画のあらすじ。少しネタバレになる。


 『キャストアウェイ』は、トム・ハンクスとウィルソン(バレーボール)が主演の映画で、内容は、無人島に不時着をしてしまった主人公トム・ハンクスがウィルソン(バレーボール)を支えに生き延びて、数年後に奇跡的に生還を果たしたものの、自分がいない間に世界は変わっていて、妻は別の人と結婚しているし、元の自分の場所には帰る所が無かったという話である。


 こういう風にあらすじを書くと、後味の悪いバッドエンドな映画のようにも思えるが、実際はそうではなく、人生を生きる上で大切な事を教えてくれるとても良い映画で、僕は大好きだ。まだ見ていない人で、興味がある人はぜひ見てみてください。


 僕の思う、この映画が教えてくれる人生で大切な事は、「これからどうするか。呼吸をし続ける~」というセリフに詰まっていると思う。

 

 「呼吸をし続ける」というのは、つまり生き続けるという事だ。


 どんな事があっても。


 生き続ける。

 

 例え、無人島でもう二度と元の世界には戻れないと思っても、どれだけ頑張っても一生一人ぼっちかもしれないという絶望の中にあっても、人生を諦めたくなっても、それでもとにかく生き続ける。呼吸をし続ける。


 それが大切なのだ。


 人生というものは、楽しい事ばかりであれば良いなとは思うが、現実はもちろんそんなに甘くはない。


 辛い事は多い。


 むしろ、辛い事の方が多いと思う。


 生きるのを諦めたくなる程辛い事があっても、「あと一回だけ呼吸をしよう」「あと一時間だけ呼吸をしてみよう」「あと一週間だけ」「あと一か月」と、とにかく呼吸をし続ける事だけに集中をする。どんな状態でも、とにかく呼吸を続ける。

 その日一日の目標が「呼吸をし続ける」で良い。呼吸をし続けさえすれば、それでその日は丸なのである。そんな感じ。


 すると、状況というものは変わっていく。


 明日も太陽は昇るし、潮が何かを運んでくる。


 人生を生きていて、今日が昨日と同じという事は絶対にありえない。

 一生、ずっと変わらないという事はない。

 変わり映えがしない毎日でも、何かが必ず変わっている。


 二度と元の世界には戻れないと思っていた主人公の元に、ある日、無人島を脱出するためのイカダの材料が流れ着いてきたように、ただ呼吸をし続けていれば、必ず何かが起こる。


 10年ぐらい前の話、ある人が強迫性障害という病気を発症した。


 手が汚れているような気がして3時間も手を洗ったり、家のドアの鍵が閉まっていないような気がして、ドアの施錠の確認を12時間ぐらいやっちゃうような、そんな病気だ。もちろん、強迫性障害には上記のような症状だけではなく、他にも色々なものがあって、結果、その人は壊れて、鬱病になった。それも、重度の鬱だ。


 辛いという感情しかない。それ以外は何も感じない。


 ひたすら辛い。


 毎日が灰色で、地獄で、耐えきれなくなる。


 そんな辛い気持ちを誤魔化すために必要だったのが、アルコールだ。彼にとってはアルコールが生きる支えだった。


 ある日、彼は、手元にあった日本酒の瓶で思いっきり自分の頭をぶっ叩いた。


 この世から消えたい。


 その一心で、後先考えずに自分の頭をぶっ叩いた。「日本酒の瓶で自分の頭をぶっ叩くなんて、人として終わっている感じがして何かカッコいいな」とか考えながら。


 しかし、彼の予想に反して、かち割れたのは彼の頭ではなくて、日本酒の瓶の方であった。


 彼の頭は無傷だった。


 「ミステリ作品で、人の頭を瓶で叩いて倒すやつがあるけれど、あれって嘘だったんだな」と、そんな事を思いながら二本目の日本酒の瓶を手にした所で周りの人から羽交い絞めにされて止められた。


 その時に彼は思った。


 僕は人生を諦める事すら出来ない。それなら、生きるしかない。どんな事があっても、生き続けようと。


 『キャストアウェイ』の映画の中でも、主人公は同じような事を言っていた。

 「無人島」と「精神病」。

 状況は違えど、重なる部分はあると思う。だから僕はこの映画が好きなのかもしれない。


 あの、僕が日本酒の瓶で自分の頭をぶっ叩いてから、とりあえず人並みに、何かを楽しんだり出来るようになるまでに5年ぐらいかかった。


 5年。


 しかも、僕が病気になったのは20代前半だ。人生で大切な20代のうちの5年、その貴重な5年を僕は地獄の日々で消費してしまった。


 もったいないなぁ。


 そう思う事もある。


 だけど、僕はとにかく5年もかかったけれど、なんとか普通の世界に戻って来れた。もう二度と普通の生活なんて出来ないかもしれないと思ったけれど、戻って来れた。


 そりゃまあ、完治というわけは無いと思う。病気以前と病気後では、きっと自分は人としてかなり変わってしまったと思う。昔は出来た事が、今は出来なくなったという事が山ほどある。


 でも、まあ。


 それも、『スターウォーズ』に出てくる、ダース・ベイダーみたいなもんだと思ったら、何かちょっとカッコいいじゃないか。


 人生は変わるのだ。暗闇ばかりじゃないのだ。例え5年間雨が降り続けても、待っていればいつかは太陽が昇ってくるから、だから、これから先、どんな事があっても生き続けようと、そう思った。


 無人島から戻って来た主人公は、何もかもを失っていた。それでも、主人公は言う。「これからどうするか。呼吸をし続ける。明日も太陽が昇るし、潮は何かを運んでくる」と。


 僕も失ってしまったものは多いし、時は戻せないし、今でも思い通りにいかない嫌な事が多くて、辛い時はたくさんある。


 しかし、それでも呼吸をし続けよう。生き続けよう。


 だって、明日がどうなるのか分からないのだから。


 

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