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ウィスキーと水のグラスがそれぞれ若月の前に揃ったとき、それらは田切の目に夜宴の合図のように映った。
「また推理ゲームを聞かせてください」今度はカウンターに回ったウェイターが、若月に言った。
「若月様のお話は非常に多彩で、また思索にも富んでいるとうかがっております」
「そう、マスター。お二人の間で交わされる『意外なトリックと犯人』の話はね、そこいらで聞けるものじゃあないよ」
おだてられる若月の感情は、ほころぶ口元から滲み出ていた。
「そんな時間にもなりつつあるようだね。田切くん」
「はい」突然自分の名を聞いて田切は、口に運びかけていたグラスを置き直した。
「前座というわけじゃないがね、まず君の考えたあの『銀行強盗』でも披露してあげるといい」
このとき田切の頬に熱が帯び始めたのは、バーボンのせいだけではなかったかもしれない。田切は照れ臭そうに、探偵とカウンターの向こうを交互に眺めた。
「僕が話をしても、若月さんは絶対馬鹿にするからなあ」
「しないよ」若月はそう言って、一口酒を呑む。「『銀行強盗』はまずまずの出来だったよ。こんな席でわざわざ君に恥をかかすこともないしね。さあ、今晩のステージの幕はとっくに上がったようだ」
マスター、ウェイター両名はそれぞれ、小さな仕事を片付けつつも、放たれようとする田切の言葉を待ちかねているらしかった。
「じゃあ」田切はしぶしぶといった体で、言葉を捻り出した。