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推理ゲームには頭を使う  作者: 西松清一郎
3/25

1-3

 堅苦しい乾杯はしなかった。田切はグラスに口をつけながら、マスターに親しげに声をかける若月を横目で眺めた。


「やっぱり接客の方がいいかね。厨房にばかりこもっていると、人恋しくもなるだろう」

「人恋しくなるような年ではございません」


 老翁(ろうおう)は目を細めて、愉快そうに笑みを浮かべた。「厨房は肉体労働ですから。若い子らの邪魔をしないよう、こうして番頭の真似をしているだけでございますよ」


「おかわりはいかがです」後ろから声がし、田切は振り返った。愛想の良いオールバックのウェイターが、やや腰をかがめて二人を見つめている。


「もらおうかな」若月は言ってから、グラスを空けた。

「ファイネストでよろしいですか」

「いや、マッカラン12年[*4]をストレートで」

「承知いたしました」


 カウンターに目を戻すと、すでにマスターの手は動いていた。

「今日は飛ばしますね」田切が茶化すように言ったが、探偵は意に介さず「喉が乾いただけさ」と返した。


 若月の二杯目が置かれ、マスターがウェイトレスに「チェイサー[*5]を」とささやくように言った。

「かしこまりました」


 厨房へと向かうウェイトレスを見て、若月が同じように声を落として言う。

「いい子じゃないか」

「ええ、キッチンでもよく働いてくれましてね。老体としては大助かりですよ」


「もう別の人に鞍替えですか」田切にも場に馴染む切り口が見え始めていた。「前なんかは若月さん、席に呼んだ女性と出来上がっていましたよね」


 これには若月も、吹き出すようにして反応した。「まさか。昔のJ-POPに出てくるすけこまし(・・・・・)じゃあるまいし。僕と一度会った女性を、可愛そうにもう二度と見かけることはない、なんて思わないでくれよ」



[*4]シェリー樽で熟成されたフルーティで華やかな味わい。シェリーオークシリーズが定番。


[*5]酒を飲む際の口直しのための飲み物。多くは水を指す。

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