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推理ゲームには頭を使う  作者: 西松清一郎
12/25

3-3

「一階に戻ったドロシーだったが、おかみさんはすぐには見つからなくてね。そばでまだ掃除をしていたミカエルが目を丸くして言った。

『どうしたの、ドロシー。そんなに血相を変えて』


 すると当然ドロシーは答える。『三階の部屋に誰かいたの!おかみさんはどこ?』

 ミカエルもこれにはぎょっとしてね。


 耳を澄ますと、金属を引き裂くような音が聞こえてくる。それは、獲物を逃した狼の悲しげな咆哮にも思えた。


 ドロシーの恐怖が極限に達しようかというときに、おかみさんが裏の(うまや)から戻ってきた。


『何だい、騒々しい。まだお客さんがいるんだから、静かにしてほしいもんだよ』


 ドロシーはおかみさんを見つけると、すぐに駆け寄り、事情を説明した。


『ホントなんですったら!じとっとした手が首に触れたんです。ああ!まだ気味悪い感触が残ってる』


 泣き顔で首元をぬぐうドロシーを、おかみさんは半分呆れたように眺めていてね。それから三人を連れて、のしのしと階段を上がっていった。


 恰幅(かっぷく)のいいおかみさんは、躊躇なく三階のドアを開けた。そして手際よくマッチを擦ると、ランプに火を入れた。


『ご覧。猫の一匹だってありはしないじゃないか』

 後からおそるおそる入った三人も室内をじゅんぐり見て回る。


 四人がけのしなびた木の机。三人の小さな外套が放り込まれたワードローブ。ガラクタを入れるブリキのバケツ。


 これらは、昼間ドロシーらが見たまんまでね。不審な者がいた形跡を探す方が難しいくらいだった。


『窓の留め金もかかってますよ』

 比較的冷静なミカエルが言うと、おかみさんもつかつかやって来て、窓の留め金をパチンと外した。そして、身を乗り出して表の馬車道を見下ろした。


 外は暗くて何も見えないけど、そこから飛び降りたら骨を折るのは明らかでね。おかみさんは窓を閉めて振り返ると、鼻から息を出しながら言った。

『ドロシー、あんた夢でも見たんじゃないのかい』


『だって』ドロシーはかわいそうに、必死で涙をこらえていてね。たとえ悪夢でも、あんな得体のしれない怪物は出てこない、と密かに考えた」

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