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推理ゲームには頭を使う  作者: 西松清一郎
10/25

3-1

「そのレストランはね、(みやこ)からははずれた、深い木々がしげる森の中にあった」

「本当にメルヘンの世界なんですね」

 田切の言葉に若月は「うん」とだけ短く反応し、そのあとを続けた。


「その店には、片手にフライパンの似合うおかみさんと、他にかわいらしいお手伝いさんが何人かいてね。そのうちの一人の女の子、そうだな、田切くん、名前は何がいいかな」


 いきなりそう言われ、田切は童話に関する自身の乏しい記憶を引っ張り出してみた。そして言った。

「グレーテル、とか」

「よし。じゃあドロシーにしよう」


 この探偵特有の肩透かしに、田切はとっくに慣れていた。この男はいつも、こっちのアイデアを床の綿ぼこりのようにさっと掃いてしまう。

 しかし、探偵がそれを奥深い洞察に基づいて行っていることもまた知っていたので、黙って続きを聞くことにした。


「そのときはもう店はあと片づけの時間に入っていてね。調理台の掃除をしていたおかみさんがドロシーに声をかけた。『ドロシー、あんたはもう上がっていいよ。あとはミカエルとノーラでやっておくから』


 ミカエルとノーラはそれぞれ、男の子と女の子の名前でね、そのときのドロシーと同じように、せっせとテーブルを拭いたり、席で寝ているお客さんを揺り起こしたりしていた。


『はあい、おかみさん』ドロシーは元気にそう言うと、いつも通り調理台の下にかかっている鍵束をとり、三階の自分たちの支度(したく)部屋へと上がっていこうとした。


 その日の片づけも終わり、意気揚々(いきようよう)と引き上げていくドロシーに、おかみさんが再びこう言ったんだ。『二階のあたしの部屋にリンゴがあるから、一つ持っておいき。ただし、ドアの鍵が馬鹿になっているからね、開けるときは鍵を慎重に回すんだよ』


 ドロシーは首だけ振り向けて『ありがとう、おかみさん』と言うと、今度こそ階段を上がっていった」

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