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おまけ.孤独な鬼は異国の幽霊を愛したい

本日二話目の更新です。

本編後のちょっとイチャイチャしたおまけ話です。苦手な方はご注意ください。





※第三者視点


 ゆらりゆらりと行燈の火が揺れる。リューディアはまだぎこちなく、小袖を脱いだ。野分は布団に転がりながら、衣擦れの音を奏でるリューディアを眺めている。リューディアは襦袢の裾を寄せて、恥ずかしげに体を縮めた。


「……そう、じっと見られていては、穴が開いてしまいますわ」


「いいじゃアねェか。恋女房の艶姿ともなりゃ、鬼ァ一溜まりもないぜ?」


 悪びれた様子など微塵もなく、野分が笑う。リューディアは、全くもうと息を吐きながら野分のそばに腰を下ろした。当然のように、野分はリューディアの膝へと頭を乗せる。リューディアも抵抗することなく受け止めて、野分の頭を撫でた。機嫌よく野分の猫目が細まる。行燈の加減か、リューディアの頬が仄かに色付いて見えた。


 くすりと彼方が笑めば、こそりと此方が頬をくすぐる。じゃれるように手を絡めて指を撫でて、外を吹く風よりも小さな声で囁きあった。野分の赤い舌が、己の牙をなぞる。リューディアは無意識のまま、体を震わせた。


 野分が勿体ぶるように上体を起こす。青い目をふわふわと彷徨わせてから、リューディアは野分へと視線を向けた。行燈の灯りに、ぎらりと野分の牙が光る。


「ほんぎゃあ!」


 リューディアの首筋へ野分の牙が届くその一瞬、元気な声が空間を割った。反射的に、野分とリューディアはそれぞれの後ろへと飛び退く。示し合わせたわけではないが同時に声の方へ振り向くと、布団の上の赤子が声を上げて手足をばたつかせていた。


「あ、あら、おむつかしら?」


 照れ臭さと居たたまれなさをどうにか押し込めて、リューディアは赤子の元へ行く。野分は腹の内に燻った熱を、溜め息と共に吐き出した。

 立ち上がるのも億劫なのか、ずりずりと床を這って野分はリューディアに抱かれた赤子の顔を覗き込みに行く。野分は福福とした赤子の頬を指先でちょんとつついた。


「ヤイヤイ、ちッたァかか様を俺におくれヨ、時雨」


「もう。ふふふ、この子に言ったってしょうがないでしょう?」


 ねえ時雨、とリューディアは胸元の赤子をゆるく揺らす。時雨と呼ばれた赤子は、否とでも言うかのように声を上げた。

 リューディアは時雨の産着を確認してみるが、特に湿った様子もない。乳も先程くれたばかりだった。


「怖い夢でも見たのかしら?」


「どれ、貸してみないネ」


 野分の言葉に、リューディアは時雨を渡す。野分は胡坐をかいて時雨を抱えると、自身ごと揺れながらゆったりと時雨の背を叩いた。調子よく、野分の口から子守歌が零れる。


 リューディアまでうとうとと船を漕ぎ始めた頃、時雨はすっかり夢の中にいた。野分は口の端で笑って、まずは腕の中の時雨を布団に寝かす。起きようと目を擦るリューディアを制して、野分は女房の華奢な体を抱えた。


「お前サンもねんねんヨゥ」


「ふふ」


 耳元で囁く野分に、リューディアはくすぐったいと笑う。リューディアの白い手が、野分の胸元に添えられた。そのまましな垂れかかって、リューディアは野分に身を任せる。


「ねえ、ノワ」


「ン?」


 囁くリューディアの口元に、野分は耳を寄せた。リューディアの唇が弧を描く。


「また今度、わたくしを食べてくださいましね」


「ッ!」


 野分がぐっと息を飲んだ。その様子をおかしげに、リューディアが笑う。野分は軽く咳払いをしてから、腕の中のリューディアを覗いた。


「今からじゃア駄目かい?」


「あら、ふふふ、わたくしを寝かしつけてくださるのではなくて?」


 こそこそと囁く。


「アア、夢見心地にしてやろうかとナ」


「まあ怖い」


 野分の手がリューディアの肩を滑る。衣擦れの音が響いた。リューディアは野分の首筋に額を擦り寄せる。野分は一度手を止めると、リューディアの髪を撫でた。やわらかな金糸のその中に隠れている角を暴いて、指先で摘まむようになぞる。


「ん……」


 リューディアは唇を噛んで、その感触に耐えた。熱を帯び始めた瞳を野分に向ける。野分はにいと笑ってリューディアに牙を剥いた。


「で?鬼に喰われる覚悟は出来たかイ?」


 くすぐるようにリューディアが笑う。迎え入れるよう、リューディアは野分の肩に腕を回した。リューディアの青い瞳が、野分を捉える。ごくりと野分の喉が鳴った。


「さあどうぞ、お好きなようにお召し上がりくださいまし」


「アア、御雑作にあずかろうネ」


 野分は舌なめずりしてリューディアの首筋に唇を寄せる。行燈の油が切れたのか、ふっと落ちた闇の中、二人の息遣いだけが響いた。




お読みいただきありがとうございました。

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