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日向の魔王と影坊子  作者: 茶納福
1/2

序章 魔王誕生

 


  --何だこれは?

 

  視界を埋めつくすのは炎

燃え盛る炎とナニかが燃えて生まれる黒煙

呼吸をすると口内に焼けつく痛みと粘る苦味が走る。


  本来であればここは多くの作物が実る畑と仕事に励む農夫達とそれを手伝う妻と子どもと言う長閑な風景が広がっているはずだった。

 

  しかしその光景の跡は微塵もなく

あるのはそれを燃料に燃える死の炎だけだった


  ズゥンッ

 

  大きな音と共に身に降りかかる圧

身体に重みが増し視界が焼けつき赤々と煌めく地面に吸い込まれる

肉の焦げる音と痛みが鼻や口や眼球に全身を覆う肌と痛覚のある部位全てから送られてくる。


  しかしその痛みにのたうつ事すら困難な我が身は只粛々とこの苦しみを享受する



  ズゥンッッ

 

  再び響く音と共に更に身に降りかかる圧力、心なしか音が先程よりも大きく感じた

 

  ズズゥンッッッ

 

 

  どうやら気のせいではないようだ

明らかにこちらに迫ってくる音と存在、ナニかは分からないがそれがこの大惨事を産んだと確信できる

それだけの強大な存在感を発しながら

 

  ソレは私の前に止まった

 

  圧力は更に増し最早意識を保つ事も難しい我が身の終わりを悟らせるには十分だった。


  「行ってらっしゃい貴方」

  「……行ってらっしゃい、パパ」

 

  途切れかけた意識を揺り戻したのは

今朝早く仕事へ出かける私を送り出してくれた妻と瞼を擦る娘の姿


  「シェムラ……アイオラ……」

 

  最愛の妻と娘

二人の名前を爛れ落ちる口から洩らす様な声で呼ぶ


  それが最期だった。


 




 

  --近頃地震多くないか?

 

  畑を耕す手を止め一人の農夫が言った

周囲の仲間たちも確かにと苦い顔で答える

地震などさして珍しい事ではないが続くとやはり不安が募る。


  収穫の時期も近いのにとぼやきながらも揺れで倒れた農具を手に仕事を再開する。



  ここは世界に三つある大陸の一つバイル大陸

その中心部に位置するゴルドラ王国の近郊の村


  数年前までは痩せた大地と怪物が蠢く荒廃した土地だったのだが

今の国王が大地の精霊様の力を使い瞬く間に肥沃な土地へと生まれ変わらせたのだ。



  この世界では精霊様に見初められた者は超常の力を得る

炎を出し風を巻き大地を動かし雷を落とすなどの自然を操るものから

金を生み怪物を使役し命を創り殺す事も出来る等様々だ。


  それ故に見初められた者は特別視され崇められ

生涯見初められない者は見初められた者に畏敬と嫉妬の念を募らせる。


 

  現国王であるゴルドラ様は金と大地の精霊様に見初められその力で荒れた大地を作り替え街を国をお創りになられた。


  それだけに止まらず近郊の荒れた土地を開拓し我らの様な下々の者に土地と仕事を与えてくださった

 ただその度に大地を動かす影響で地震が起き畑や家が壊れる事もあったが

今では対策され開拓を行う日時はきちんと知らせが届く。


  しかし近頃は知らせもなく地震が起こることが多くなった

最初は小さな揺れだったので気にせずにいられたが先程の地震といいこの頃は揺れも大きくなっている。



  --今度の収穫祭の時にお伺いを立ててみよう

 

  仕事を終えた農夫達が集まり話をし村のまとめ役の男が収穫祭の時にお伺いを立てることでまとまった。


  農夫達は妻と子どもを連れ各々の家路につく

 家に戻り夕食の支度と農具の手入れ団欒、そして就寝しまた明日を迎える

 そんな当たり前が今日も行われるはずだった。



  突如、地が割れ天が穿たれた

 

  天と地を繋ぐような炎の柱が噴き上がり世界を紅く染め上げた

 大地を舐めるように燃える海ができ空はこの世の終わりを写す画板となった。


  村は炎に埋めつくされその脅威はゴルドラの街にまで及んだ

 街を囲う黄金の城壁で辛うじて街の内部には被害がなかったものの

城壁の見張りに配置されていた兵士達の被害は軽くなかった。


  兵士達は突然噴き上がった熱波と衝撃に吹き飛ばされ

半数以上が気を失い残った者達は槍や壁を使い身体を起こす


  その中の一人が目の前の光景を見て呟いた

 

  「俺の村が……」

 

  その兵士は開拓村の出身だった

 若い男達は出兵し街で兵士として働く者が多かった、彼もその一人だ。


  同郷の兵士達も同じ様に炎に沈む故郷を見つめ、別の故郷の者達はかける言葉が出ず只立ち竦んだ。



  ズズゥッッン……

 

  大地と空気が震えた

 それと同時に噴き上がる炎の柱が徐々にその勢いを落としていく

 揺れは一定の間隔で来たそしてそれは段々と大きくなっていた。


  --いったい何が起きている?

 

  兵士達はただ固唾を呑み目の前を見つめていた


 

  ズドォォオオンッツ

 

 

  一際大きな音が響く共に先程までとは比べ物にならない揺れが襲う

 黄金の城壁にヒビが入り兵士達はそれを見て驚愕する。


  この壁が出来て以来魔物による人員的な被害はあっても

この城壁には傷どころか汚れすら付いた所を見たことが無かった

 その城壁にヒビが入ったのだ。


  兵士達は未だ姿の見えないナニかに恐怖を覚え震えながらも立ち上がる

本能が訴えながらも護られてきた人間の心の甘えが勝ったからだ。


  しかしその甘えは直ぐに改められた

 

 

  --ヴォォオオオオオオオオオオオ

 

  ソレは叫びと共に現れた

空と大地がひび割れるような震えと巨大な音を響かせて

全ての色を呑み込みそうな黒い身体を揺らし

猛り燃える火の目玉を動かしながら

地獄の様な景色を散歩を楽しむように悠然と此方へ進んできた。



  これが世に語られる[魔王大戦]

人間が初めて魔王と対峙し永く続く人間と魔王との戦いの歴史のはじまりであった。



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