6.残念な少女
街に近づくと外周を透明な膜のようなもので覆われており、一見無防備な状態にも見えてしまうが透明な膜が壁の役割を担っているようだ。
視線を下に向けると街の入り口であろう場所だけ透明な壁がなく門兵が荷物の検査、通行人からお金であろう硬貨を受け取ったり金属でできたプレートを確認し通している。門兵が荷物確認している間に見つからずにこっそりと侵入することに成功した。
街ではなにかの祭が行われていた。それもいいタイミングで来たようで大通りでパレードしているようでその中心にはきらびやかな鎧を纏った人間が5人、手を振りながら歩いていた。
どうやらこのパレードの主役は彼らのようだ。
なんのパレードなのかは分からないが街中が賑わっている。なにかおめでたい日なのだろうか?
祭りも気になるがまずはオルスを探すことを優先しよう。オルスにこの街が賑わっている理由を教えてもらわないとな。
『確か、オルスは討伐組合に行くと言ってたからそこに行けば会えるよな。
とは言ってもその討伐組合ってのがどこにあってどんな建物なのかわからないからな。』
今は水から言葉を聞くこともできない。
『これは困ったなとても困った』適当にふらついてもいいがこの街はとても広い。偶然出会うなんてことは期待しないほうがいいだろう。
どうすることもできないので適当に動いていると人が通らないようなゴミが散乱し光が差さない裏路地へ来てしまったようだ。
その路地には4人、男女ともに元は美しい衣服だったのだろう汚れたれた服を着たやせ細った男児と小さく破れたフリルのついたドレスを着た少女。
街中でも見かけた質素な服を着て横たわっている女性と生きる気力を失ったような中年近く小太りな男が壁に持たれていた。おそらくこの人たちは家族だったのだろう。男児と少女ともに横たわっている女性と小太りの男に顔が似ている気がする。
『生きることに絶望した一家を見てしまうとは、早くここから去らないと面倒事に巻き込まれてしまう』
そう思い飛びさろうと背を向けた瞬間背後から
「********!」
幼い男の子の声がした。
ゆっくりと後ろを振り向くとすぐ目の前に男の子が立っていた。
「*********!」
その男の子の大きな声に3人が顔をこちらに向けた、小太りの男が勢い良く立ち上がり俺の方へ指を差し何かをつぶやいた瞬間指先から『バチ!』と何かが弾ける音がした。その瞬間激しい痛みが全身に広がり体が痙攣して動けない。
そこへ男が俺の体を手で強く握り興奮した様子で家族へ何かを大きな声で喋っていた。
「***********!」
人間の言葉を理解できないがオルスの説明にもあった妖精は高値で取引されることを思い出し、今の状況を理解した。
『おいおい、まさか俺売られちまうのかよ!痛いのは嫌なんだよ!おい!離せって!』
拘束から抜け出そうと暴れようとするが痛みと痙攣がまだ続いており動くことすら出来ずにいた。
そうこうしている間に母親であろう女性が走りこちらへ来るやいなや大喜びで踊っている。
少女はニカニカと笑っている男に怒っているようだった
「********!」
「********!」
少女と男の言い争いはしばらく続き陽気に踊っていた女性も男と一緒に少女に怒声を上げる。
なぜ言い争っているのかが理解できない俺は只々痛みに耐えるだけしかできない。
体感では6分経過した頃だろうか痛みで正確な時間はわからないがよっぽど頭にきたのか小太り男が少女の頬を『バシン!』と大きな音をたてて叩いた。
少女は頬を手で触りながら呆然としていたが、『はっ!』と我に返り素早く男から俺を奪い取り男の子の手を引っ張り息を切らしながら走り続けた。
その背後で男と女性が追いかけるも若い二人には追いつけず振り切ることができた。
逃げた先が路地ではなく下水道だった臭くて鼻がもげそうだ。
少女に地面へ降ろしてもらった。どうやら少女は俺のことを助けてくれたみたいだ。
俺を降ろしたあとすぐさま男の子の方へ行き肩を掴み心配そうに何か話している。
「クリフ!*******」
確かではないが男の子の名はクリフと言うようだ。
言葉は理解できないが名を言っていることだけは聞き取ることができた。
弟と思わしき少年、クリフに怪我などがないことを確認し、安堵の表情を浮かべた。
そして俺の方へ向き話しかけてきた
少女は自分を指差し「ナーシャ」と言った。自分を指差し言っているのだからおそらく名前だろう。
次に男の子を指差し「クリフ」と言った。やはり男の子の名はクリフだったようだ。
俺は数回頷いた、そうすると少女、ナーシャは『ニコッ』っと優しく微笑んだ。
しかしナーシャの顔をよく見るとなかなか綺麗じゃないか。
清流をイメージさせるようなおっとりとした感じで、肩まで伸びた茶色の髪は汚れているがそのままでも美しく、ストレートな髪が茶色の髪の美しさをより引き立てている。しかし体型は幼さが残るようで背はそれなりにあるが胸の方は残念としか言えない。