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王族盤

 永利の言う通りにシャルアドは知り得る事や、永利にされる質問に答えた。


「なるほど……大体わかったよ……ありがとう」


「こちらこそお兄様に頼られるなんて始めてで嬉しいですぅ」


 しかし結論から言えば記憶が無いと言う事を他の者に知られないというのは不可能だと永利は判断した。


 当然と言えば当然である、記憶力には自信のある永利だったが、理解出来るのは言語くらいで、概念も何も違う。


 分かっている事の方が少ない世界の事を他者から聞いた話しだけで自身を偽る、ましてや誰かを演じるというのは世界一の詐欺師にも不可能だろう。


「シャル……俺の見た目は昔とは違うんだよね? どうして俺が兄だと信じられるんだ?」


「お兄様の書いた術式通りに迎えに来たんですよぉ? じゃあその先にいるのはお兄様に決まっているじゃないですかぁ……ですから安心して下さい!」


「……()()()()で?」


 術式というのは、シャルアドの話によれば魔法のようなモノらしいが、こちらの世界には同時に魔法も存在しているみたいだ。


 では、魔法と術式にどのような違いがあるのかと言うと、魔法はある程度、生まれつきの力の量などに左右される。


 しかし術式を展開する事により、難易度は高くなるが、同じような魔法を使った時の力の使用量が圧倒的に減るらしい。


 それ以外にも術式の利点は色々あるみたいだったが、永利の言う、()()()()。シャルアドの説明中に部屋に押し入って永利を取り囲み、最大限の警戒をする衛兵達によって説明は中断された。


 「シャルアド様! 危険ですのでその者からお離れ下さい!」


 永利を取り囲む衛兵達の目の前には……目の前とは文字通り彼等の()()()に浮かぶように先ほど永利の部屋でシャルアドが見せた数式の羅列のような、恐らくこれが術式なのだろう。その術式が展開されていた。


「何も心配は入りませんよぉ! とりあえずお父様達の所に行ってお兄様が帰って来たと伝えましょう!」


「いやでも……この人達凄い警戒しててそれ所じゃなくないか?」


「私に任せて下さい!」


 シャルアドは笑顔で永利にそう言うと、衛兵達の方に冷めた目を向けた。


「下がりなさい……お前達のような者には理解出来ないでしょうが、この方はエレインお兄様ですよ? ですがお前達のような者に詳細を話すつもりは無いのでぇ、このままお父様達の部屋に向かいますけどぉ、仕事を全うしたいのなら、お兄様に無礼の無いよう黙って着いて来なさい」


「ですが――」


「お前を解雇する」


 異議を申し立てようとす衛兵の一人にシャルアドは冷たくそう言い放った。


「な……待って下さいシャルアド様!」


「お前と話す事は無い、お前達も解雇されたくないなら早くこの衛兵だった者を摘み出しなさい」


「「はっ‼︎」」


 シャルアドの指示に従い衛兵達が、解雇を言い渡された衛兵の肩を掴む。


「ま……待てって」


「お兄様? どうかされましたかぁ?」


「いや、俺はこの通り状況がよくわからないけど……シャルは事情を理解してて、この衛兵? は理解してないんだろ? 何も解雇にしなくてもいいんじゃない……か?」


「ですがお兄様? この衛兵は身分を弁えずに王族の私に逆らったのですよ?」


「逆らったって……仕事を全うしようとしただけだろ? もし出来るなら許してあげてくれないか?」


「……お兄様は相変わらず、お優しいですねぇ! 分かりました! 今回はお兄様に免じて許しましょう! お前、次は無いと思いなさい」


「……はっ! 温情に感謝致します!」


 シャルアドは衛兵を一瞥し、すぐに永利に向き直った。


「ふん……ではお兄様、このままと言う訳にも行かないので、お父様達の所に向かって事情を説明致しましょう!」


「それはいいけど、それじゃあシャルが協力したのバレるんじゃないの? さっき内緒って言ってなかった?」


「あ……し、仕方ないですねぇ! 私すこーしだけ怒られちゃうかもしれないですけど……お兄様の為なら……」


 こいつは馬鹿なのだと永利は理解した。


 しかしある程度は仕方ない、何故ならシャルアドの話によると、エレインという男は殆ど説明も無しにシャルアドに協力をさせていたのだ。


 シャルアドの先程の説明によると、エレインは一度異世界に行く必要があるという事、自分が戻るまでは誰にも自分のしてる事を言わない事、自分が異世界に行った後ある者が来て、時が来た。と言われたらその時に渡される手筈になっているエレインの書いた術式に魔力を注ぎ込んで、自分を迎えに来いと。


 どういう必要があるのかも、ある者が何者なのかもシャルアドは知らないのだ。


「悪いね……記憶の無い俺としてはシャルが協力してくれないと、正直どんな目にあうかわからない」


「いやいやーお兄様ならどんな目にあっても大丈夫ですよー」


 何故そんなに兄を信用出来るのかは永利には分からないが、とりあえずはこの状況に助かっている自分がいるので、あまり深くは突っ込まないようにする永利だった。


「さ、じゃあ王室に行って説明しちゃいましょー」


 そう言いながら衛兵達を無視してエレインの部屋を出るシャルアド。


 何の力も無い永利は、ただ後を着いて行くしか出来なかった。


 そして長い廊下を暫く歩いた後、豪華な扉の前で立ち止まったシャルアド。


「お父様、お母様、シャルですー! 防護術式の中に入り込んだ方の説明に参りましたー!」


「……入れ」


 シャルアドがそう言うと、扉の向こうから男の声が聞こえ、その声を聞いてシャルアドは扉の両脇に立つ衛兵に、扉を開けるようアゴで促した。


 扉が開かれ、中に入ると、立派な椅子に座る中年の金髪の男性と白髪の女性、扉の前でのシャルアドのお父様、お母様と言う発言から、この2人がシャルアドの両親である事は間違いないだろう。


 そしてその椅子の手前にそれぞれ立っている若い二人、これもまた金髪の男性と白髪の女性だ。


 顔立ちがシャルアドに似ている事から、恐らく先程シャルアドが話していた兄弟だろうと永利は推測する。


「シャル、その者が侵入者か? その者は何者だ? 何故ここに連れて来たのだ?」


 椅子に座る男性がシャルアドに尋ねる。


「お父様、お兄様です!」


「何?」


「……? お兄様です! お父様」


 シャルアドの言葉の足りなさに永利は口を挟みたくなるのを堪える。


「落ち着きなさいシャル、お兄様とはどういう事ですか?」


 言葉の前後を変えただけのシャルアドに落ち着いた声で聞き直す中年の女性。


「お母様、えーと……この人はエレインお兄様です!」


 シャルアドがそう言うと、その場の四人全員が永利の方を凝視する、そして……


「シャル……ふざけるのはやめなさい。エレインが行方不明になってもうどれくらい経つと思っているのですか?」


 シャルアドの母の顔が少し強張る。


「んー12年くらいですかぁ?」


「そうです……もう12年経つのです。あなたも、もう16歳でしょう? いい加減エレインの事は忘れて現実を受け止めなさい」


 ――12年と言う言葉を聞き、自分は間違っていなかったのだと、永利は疑念をさらに確信に近づける。


 12年……それは永利がここに来て初めて心当たりのある数字だった。


 見た目、喋り方共にシャルアドが16歳だった事には驚きはした永利だったが、エレインが12年前から行方不明という言葉を聞いた永利の胸中はそれどころでは無かった。


「お母様……現実を受け止めるのはお母様の方ですよぉ……私はずっと言っていたじゃないですかぁ……理由は言えないけど、お兄様は絶対に帰って来ますって」


 どうやらシャルアドは永利が兄だと確信しているが、この場のシャルアド以外の人間はそれを全く信用していないみたいだった。


「シャル、その者は術式を掻い潜り城に侵入したのだぞ? お前の願望を聞いてる場合ではないのだ!」


 シャルアドの父が少し苛立った様子でシャルアドに言った。


「お父様……私は、シャルは真実を話しています。 この城の術式はそう容易く破れるモノなのですかぁ?」


「何を言っている⁉︎ 容易く破れるモノではないからその者は誰だと聞いているのだ‼︎」


「お兄様だったら容易く破って見せるのではないですかぁ?」


「シャルアド! いい加減に――」


「話しを割ってすみません……シャル……さっき俺に話した事を全てこの人達に説明するんだ」


 平行線になりつつある状況に永利が割って入り、シャルアドに説明するように言う。


「……お兄様に言うなと言われたんですけどぉ……でもお兄様が言って良いと言うなら良いのでしょうねぇ」


 そしてシャルアドは先程、永利に話した内容の全てを説明した。


――――――――――――――――――





「異世界だと……それを信じろと言うのか?」

 

 シャルアドの父は話しを聞き、少し考えた後、馬鹿にしたようにそう言った。


 無理も無いだろう、こんな荒唐無稽な話しはシャルアド以外、疑いを向けられている当人ですら疑わずにはいられないのだから。


「信じるも何もお兄様ですからぁ……外見が違うだけでご自分の息子が分からないのですかぁ?」


 シャルアドは永利、否、エレインの事になると両親であろうと少し言葉が厳しくなる。


「お前は少し黙っていろ……そこの者、お前は自分がエレインだと言うのか?」


 シャルアドの父は永利に鋭い眼光を向けながら言葉を投げかけた。


「俺は……いえ、僕はシャルの言う様にそんな記憶はありません……ですので自信がエレインだと言う事は出来ませんし、証明も出来ません」


 永利はただ真実を言った。


「証明なら出来るじゃないですかぁ! お兄様の属性を王族盤で調べれば証明出来るじゃないですかぁ!」


「は?」


 王族盤。永利は初めて聞いた単語と、()()が自分をエレインかどうかを証明出来ると物だと言う言葉に動揺する。


 永利の動揺は当然だ。自分こそ絶対に自分がエレインではないと自覚しているのだ。それはつまり、自分の嘘が暴かれる事に他ならないのだ。


「ですからぁ、王族盤で調べてお兄様が火、水、風、雷の印が光れば証明になるんじゃないですか? ねぇ、お父様もそう思いませんかぁ?」


「そんな事調べるまでも無い! エレインはもういないのだ‼︎」


「あなた……待って下さい。シャルアドがここまで言うのです……確かにこの世界で4つの属性を持つ者は、他の国を含めてもエレインだけでした。それにこの者の事はいずれにしても調べる必要があります……ここで調べるだけでもしてみてはどうでしょう?」


 激昂するシャルアドの父親に母親が宥める様な声でそう言った。


「……シャルアド! お前の言う事が妄言だと分かったら罰を与える! それでも構わんな⁉︎」


「はーい!」


 シャルアドは空返事で返した。


 そしてシャルアドの父親は衛兵を呼び、王族盤を持って来るように伝えた。


 その間、横目でこちらを見ていた男女2人の内の男が初めて口を開いた。


「お父様、この者は髪の色こそ私やお父様と同じですが、眼の色も顔付きも全然エレインお兄様とは違うではないですか! 調べるだけ無駄では無いでしょうか?」


「わかっている! しかしエレンの言う通り、素性を調べる為にはいずれにしろやらねばならんのも確かだ……それならばここでやってしまっても構わんだろう。それともサイルは私の決定に異論があるのか? エイミー、お前も先程から黙っているが異論があるなら遠慮なく言うがよい」


 サイル、エイミー、やはりシャルアドが先程話した兄弟の名前だった。そして話しの流れから母親の名前がエレンであるという事も分かった。


「いえ、私はお母様の仰る通りにすれば良ろしいかと。どちらにしても問題はあるのです。それならばここにいる王族だけで対処した方が問題は少なくて済むのですから」


 エイミーは冷静にそう言うと永利の方を向き更に言葉を続けた。


「あなたが何者かは分かりませんが、王族盤での調べが終わって、シャルの言葉が妄言だと分かった後は覚悟なさい」


「いや、シャルの言葉が間違っていたとして、僕はシャルに連れて来られたんですよ? 自分がエレインかどうかは知りません、ただ誓って言いますけど、確かに僕は異世界から来ました」


「……拷問された後も同じ事が言えれば一考しましょう……何故その様な虚言を述べるのか」


 拷問、普通に生きていれば実際に関わる事のない言葉を聞き、永利の心臓が強く脈打つ。そして永利が言葉を返す前に扉が叩かれた。


「国王様、王族盤をお持ち致しました!」













 



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