プロローグ
姫崎 永利、彼は寂しかった。悲しかった。苦しかった。辛かった。
――味方なんて1人もいなかった。
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「永利? 入っていい?」
扉の前で永利の叔母が、部屋の中の永利に問い掛ける。
「入っていい?」その言葉は正しくは質問では無い。
発すると同時に部屋の扉を開ける叔母。
「どうしました?」
どうしたかなど、全く興味の無い永利が叔母に形式上、言葉を返す。
「永利も、もう17よねぇ? アルバイトとかはしないの?」
決して頭が悪い訳では無い17歳の学生に向かって進学するかどうかでは無く、仕事、否。お金の話しをする辺り家庭環境はお察しであろう。
「……そうですね、何か良い求人が見つかれば考えてみます」
受動的に答える永利。だが、その実、彼の心は一切叔母を見てはいなかった。
「あら? ごめんなさい! お友達? お友達の妹さんかしら? 来ていたのなら言ってちょうだいよ!」
永利の後ろ、ベッドの方向に目を向けながら、そう言う叔母。心当たりの無い永利はゆっくり後を振り返る。
「あ……あ?」
そこには少女がいた。
決して広くは無い部屋の、高級感など微塵も無いベッドの上で、慎ましやかに、美しい青いドレス姿で座る金髪の少女が……
「――――――――――――――――」
少女から発せられる言葉。
何処の国の言語なのだろうか?
それは間違いなく日本語で無い事だけは理解出来る言葉であった。
「……んもぅ〜お兄様は厳しいですねぇ。2人きりなのだから王族語で無いと無視するなんてひどいですぅ〜」
一体何のドッキリなのか? しかし永利は叔母が自分に対してドッキリなんてフレンドリーな事などするはずないとすぐに考えを改めた。
そんな事を考えていた永利だったが、永利の思考などお構いなしに状況は進む。
「なんですかぁ? この下民はぁ?」
永利の叔母を指差して、悪びれもせず悪態をつく少女。
「な、な、なんですか永利!? この失礼な子は!」
「え? いや俺に言われても……」
永利の弁明が叔母に伝わる事は無い。
例え弁明を最後まで言い終えたとしても伝わる事は無い。
何故なら……
――叔母の首が飛んでいたからだ。
「うーん! これでスッキリしましたねお兄様!」
「あ……え?」
当然、永利の思考は追いつかない。
だが永利は今回の件に心当たりが無い、訳では無いのだ。
しかし、例え心当たりがあったとしたら何だというのだろう。
自分の叔母、いや、他人であったとしてもだ。
目の前で人の首が飛ぶのを初めて見た人の動揺。
あって然るべき感情が当然のように永利の思考を遮る。
そして永利に動揺を齎した張本人。
金髪の少女は己が犯したであろう罪に目もくれず
屈託のない顔をして、両手でドレスの裾をつまみ、左足を右足の後ろに遣り、右膝を軽く曲げる。
上品にカーテシーを行う少女の次の言葉は、今度こそ、心当たりの無いモノだった。
「お約束通りお迎えに上がりました!」