07 ドMといえど訓練はしてるから
どうも先日始業式を終え、晴れて中学3年生となったドM界のキングオブプリンスことキモチ・ハーペインです。気がつけば前世含め二度目の受験生となってたわ。ほんと時が経つって早いなあ。
ちなみに明日まで学校に希望する進路先を進路調査表に書いて提出しないといけないが、既に進路先は決めてあるので問題ナッシング。
「『アルフレッド魔術学園』を志望します、っと。よし、これでオッケーかな」
将来は『魔術師』になりたいと思っている。
ちなみに魔術師ってのは簡単に言えば、魔法やそれ以外の特殊能力を使用して様々な依頼を解決することで報酬を得る職業の一つ。
依頼内容はモンスターの駆除や犯罪者グループの壊滅、防衛任務など多岐にわたるもんだから便利屋とか揶揄されることもあるが、活躍によっては国や地位の高い者たちのお抱え魔術師となり、お金をめちゃくちゃ稼ぐことが可能な夢のある職業でもある。俺が魔術師になろうと思った一番の理由もそれだ。ほらっ、お金があるとないとじゃ生活の質が大分変わるからね。それに俺、自分専用のドMグッズとかオーダーメイドしたいし。おっと話がそれたか。
そんな魔術師を育成する機関は数多くあるのだが、進路先として書いた『アルフレッド魔術学園』はその中でも世界屈指の知名度と実績を誇り、毎年優秀な魔術師を輩出しているらしい。その実績から俺のように魔術師になりたい奴等からすると大変人気がある。入試内容は世界的に見ても最難関クラスなのにも関わらず、毎年、競争倍率が100倍を超えることが当たり前だという。まさに超が付くほどの名門と言える。
で、なぜアルフレッド魔術学園を選んだのかと言うと。
ふと4、5年ほど前にブリザ先生ーーフレア先生の次女であり、アルフレッド魔術学園の卒業生ーーとこんな会話を話していたことを思い出したことに要因だ。
「アルフレッド魔術学園は本当にどいつもこいつも化物揃いね。一瞬でも油断するとすぐやられちゃう。まあだからこそ自分を高められんだけどね。自分を鍛える環境でアルフレッド以上のところは無いと思う。『学園ダンジョン』もあるから対人間だけでなく、対モンスターとの戦闘もより深く学べる。まあその分過酷だけどね……」
「過酷? ブリザ先生、過酷ってどのくらい⁇」
「死ぬほどよ。冗談抜きで死ぬほど過酷ね……皆、本当に強いからね。それに学園内に『ダンジョン』って言ってモンスターの巣窟みたいなところがあるんだけど、そこは本当に地獄。視界は悪いし、モンスターはウヨウヨいるしでーーって聞いてるキモチくん? というかなんで、そんなに気持ち悪い笑みを浮かべてるの……?」
そんなブリザ先生と俺の会話。
ブリザ先生は才能に恵まれているし、努力も惜しまない性格なため控えめに言っても相当実力がある。そんな実力を持つブリザ先生の口から『死ぬほど過酷』と言わせたアルフレッド魔術学園に俺が興味を抱くのは当然の話。早速、どんな学園か本腰入れて調べてみると、俺のドMセンサーがビンビンに反応するほどの場所だと知った。
さっきも言ったが毎年100倍を超える競争倍率の時点で、敷居の高さは言うまでもないだろう。入学試験でふるいにかけられ、多くの者が涙を流す。それは逆に言えば、狭き門をくぐれた者は選ばれし強者と言える。そんな実力を持つ奴等が一堂に集結するんだろ? それは控えめに言って最高すぎる。一応言っておくが、そいつらを倒して最強になりたいだなんて野望は抱いていない。
目的はただ一つ。
そう、ご自慢の魔法や物理攻撃、特殊攻撃をこの身で体感したい‼︎
ただそれだけだ。他にも学園の敷地内にあるダンジョンってやつも楽しみかな。いろんなモンスターがウヨウヨいるらしいし、奴等は一体どんな攻めを見せてくれるんだろうか? 想像しただけでヨダレが垂れちゃうなあうへへへぇ。
とまあ、そんな確固たる理由……いや、信念のもとアルフレッド魔術学園を受験することを決めたわけだ‼︎
ちなみに余談ではあるが、ブリザ先生と鉢合わせた際に、こんな理由でアルフレッドを受験することを言うと。
「私の不用意な発言で……‼︎ ごめんなさい皆、こんな頭のおかしいドMを差し向けて……‼︎ でもわざとじゃないの、だから許して……‼︎」
と悲壮感を漂わせながら言っていた。
面と向かって頭のおかしいドMって言われて興奮したのは秘密だうへへへ。おっとまた話がそれたので戻そう。
とりあえずアルフレッド魔術学園の敷居が高いのは分かってくれたことだろう。それはつまり他の皆にとって高い壁というのは、俺にとっても同じことが言える。そう、入学するためには圧倒的な努力を自分に課す必要があるわけだ。生半可な努力じゃたどり着けない場所ーーそれがアルフレッド魔術学園だ。というわけで。
「さてと、進路表も書いたし、そろそろいつも通り訓練でもしよっかな」
そう一人呟くと、とある場所へと向かうことにした。
基本的に学校が終わると即この場所へ向かっている。そこは育児館フレアから30分ほどで着く場所に位置するとある山。
到着すると、まずは柔軟体操を行う。いきなり動くと良くないからね。ドMといえど柔軟体操の大切さは理解している。凝り固まった身体の筋やらを伸ばしたり、血行を促進させ、自身のパフォーマンスを最大限に発揮させるものだ。
ほら、パフォーマンス落ちると快感指数が爆下がりするし。それに俺はそんじょそこらの三下ドMじゃない。超一流のドMだ。いついかなる時も最高な状態で攻められたいという信念を掲げている。そのための柔軟体操なので入念に行う。
「よし、身体も十分に暖まったし、そろそろやるか」
そう言って山頂を目指して山道を走って上がる。もちろん、重りを付けることも忘れない。いくら足場の悪い山道とはいえ、そのまま走ったところで熟練したドMの俺にとっては大した負荷にはならないので両手両足にそれぞれ25キローー合わせて100キロの重りを身につけて走る。もちろん素足だ。ドMにとって足を守る靴は甘えってそれ一番言われてるから。
ちなみに重りは手錠式の輪っかに鉄球をチェーンで繋いでいるタイプのものだ。この犯罪でもやらかした囚人のような感じの酷い扱いがドM心を大いに刺激するんだよなあ。
「はぁ、はぁ、はぁ……さ、流石にキツい……‼︎」
斜面が急な山道をひたすら走る。息も絶え絶え。めっちゃしんどい。両手両足が重くて、今すぐにでも立ち止まりたい気持ちになる。足場も悪いから尚のこと負荷がかかり、稀に飛び出た石につまづいて派手にすっころぶ。この訓練は極力止まらないと決めているので、転んでも即座に立ち上がる。だが、また転んでしまう。その度に立ち上がる。時には勢いあまって顔面から樹木にぶつかり、地に伏せることもある。鼻血がブシャーと勢いよく吹き出すこともあるが気にしない。
山頂手前に差し掛かる頃には全身が傷だらけになっていた。身体が悲鳴を上げているかのように謎の震えが発生し、これ以上動くなとストッパーがかかる。だが、それでも俺は歩みを止めることはない。そして走り続けーー
「つ、着いたあああああ……‼︎」
目的の山頂へとたどり着く。
その瞬間、一気に脱力してその場に倒れ込む。限界まで酷使した身体は死んだように動かなくなる。息を吸おう息を吸おうと肺が爆速で動き、過呼吸を引き起こす。転びまくったり、樹木にぶつかりまくったりしたせいで全身血塗れ。大開きにした口からは不自然なほどに溢れ出すヨダレが地面を濡らす。
もはや死に体にしか見えない有り様だろう。実際、意識もふわふわしてきたし、思いのほか状態は良くない。
辛くないかって? そりゃあ辛いに決まってる。じゃあなぜそんな辛い訓練を自分に課しているのかと言うと。
ーーアルフレッド魔術学園に受かるためだ‼︎
って言うのが『表』の理由だ。
そのための訓練という形にはなっているはず、たぶん。で、『裏』の理由はーー
「ーーさ、さいっこうだあああ〜‼︎」
今、身体中を激しい快感が駆け巡っている。
この快感を得ることが出来るからというのが裏《真》の理由だ‼︎ 正直言ってこれ以上の理由は他にない。必要以上に負荷をかけて山道を全力疾走して山頂まで駆け上がるーー俺はこれを『地獄ラン』と呼んでいるのだが、これは本当に辛いんだけど、超一流のドMたる俺にとって苦痛は大好物。それゆえに問題はない。むしろ、いいぞもっとやれ‼︎ と思うくらいだ。
実際、この快感を味わうために俺はここ三年間毎日この日課をこなし続けている。常に自分の限界ギリギリを攻めるために、慣れてきたら重りを増やしたりして負荷をかける工夫もしているので、いつもこんな死に体になるけど訓練だから仕方ないよね? 訓練ってそういうもんだから。これは一種の努力みたいなもんだから。ね?
と、一応そんな感じの大義名分を掲げて行っていることなので、誰も俺を批判することはできないだろう、たぶんだけど。とはいえ、今の『地獄ラン』でかなり体力を持ってかれたので動けるようになるまで休憩する。もちろん地に伏せたまま。なんか死にかけの芋虫みたいでちょっと興奮しちゃうけど、今はグッと我慢して回復に努めなければ。
そうこうしていると息も整え、数分で失った体力が戻ってきた。ドMは回復力早いってこれ、常識だから。もう動けるなと確認できたところで立ち上がる。
「ふぅ、いい汗かいた。とりあえず動けるくらいには回復したな。地獄ランも終えたことだし、そろそろ続きをやるか」
えっ、まだ訓練は続くのかって?
そりゃあもちろん続くよ。まだウォーミングアップが終わっただけだしね。むしろこれからが本当の訓練と言ってもいい。これから先は本当に命がけになるからドM発揮しすぎて死なないようにしないとな。
「さあやるか……‼︎」
そう言って山頂の最奥にある小さな洞窟へと足を進めた。
訓練はまだまだ始まったばかりだ。
ありがとうございましたー