06 ドMといえど進路は決めてるから
間違えて違う作品に投稿したので今入れたの消しました。申し訳ないです。
これも想定より長くなった……セリフ入れるとこうなるよね
この世界に転生してから早くも14度目の冬が到来していた。
冬になると、雪が降り積もり銀世界を織りなす。そのため早朝から屋根に積もった雪や通り道の雪を除雪する作業をしなければならない。とはいえこの除雪作業はかなりの重労働なため必然的に年少組の子供たちにはさせられず。そのため年長組である子供たちと先生たちが一緒になって行う。
まあ炎魔法が使える者ーーフレア先生や我が親友であるアズレッドが広範囲を請け負うので意外と時間はかからないけどね。俺たちは炎魔法を使うと危ない狭い場所や子供たちの通学路を担当している。
とまあ、そんな除雪作業も粗方終えたのでちょっとした暇つぶしをしている最中だ。
今更だけど、どうも中学2年となった超絶怒涛のドMことキモチ・ハーペインです。
前の世界では魔法のことなんかを呟いただけで中二病扱いされていたけどこの世界は魔法が一般教養だからそんなことはない。とまあそんなことは置いといて。
時間が過ぎ去るのは本当に早い。気づけばもう14歳になってるだもんなあ。ちなみに育児館フレアに在籍できるのは中学を卒業するまでの間。高校生になったら後は自力で生きていかなければならない。つまり後一年しか時間がないってわけだ。
とはいえ、いきなりポイッと投げ捨てられることはなく、フレア先生経由で高校生でも生活費程度は稼げる場所を探してくれる。そのお金と、国の奨学金制度を使って高校に入学することも充分に可能だ。いやあ至れり尽くせりでフレア先生たちには本当に頭が上がらないよ。いつも感謝の気持ちでいっぱいだ。
「……えッ⁉︎ は、ははハナビシ先生こっち来てください‼︎ パ、パンツ一丁で降り積もった雪に頭から突き刺さってる人が……‼︎⁉︎ ど、どどどうしましょうか⁉︎ え、えっと、えっと⁉︎ きゅ、救急車呼べばいいですか⁉︎」
あ、なんか最近、育児館フレアに新人先生として入ったユキバナ先生の慌てたような声が聞こえたかも。まあいいや、今、雪に突き刺さる魚ごっこしている最中だから忙しいし。それにしても身体全体をこれ以上ないほどキンキンに冷やす行為はいつやってもクセになる。全身凍えてカチカチだし、軽く吹く風が寒さを超えて痛みとなって襲いくるし、もう言うことなし。
やっぱ冬と言ったらこれだよね。もはや冬の風物詩だから、これドMの常識だから。控えめに言って最高に気持ちいい、ぐへへ。
「まあ落ち着いてくださいよ、ユキバナ先生。そんなに騒いでいると近所迷惑になりますから」
「な、なんでそんなに落ち着いてられるんですか⁉︎ いや、それよりもあそこに誰か刺さってるんですよ⁉︎」
「えっとどこですか……ああ、アレですか。まあ特に気にしないでいいですよ。さて、そろそろ雪掻きも粗方終えたことだし帰るとしましょうか。じゃあ皆、撤収〜‼︎」
『はーい』
あ、もう撤収か。もっとこの凍えと痛みを味わっていたかったんだけど。皆が帰っている足音が聞こえるけど、あと少しだけ堪能しーよおっと。
「ーーえ、いいんですか⁉︎ あの人ヤバいですよ、死にますよ⁉︎ というか他の皆さんも完全にスルーですか、アレをッ⁉︎ ……えっ、私がおかしいの⁇」
なんか雪の中だからハッキリと聞こえないけどユキバナ先生がアタフタしている声がまだ聞こえるな。何かあったんだろうか。まあユキバナ先生は新人だから色々と不慣れなんだろう。多分近くにハナビシ先生もいるから大丈夫だと思うけど、ちょっと心配だからそろそろ突き刺さった魚ごっこ止めてあっちに行くか。新人の先生に気をかけるなんて俺は良く出来た優しくて気の利くドMだよ。
「いやあユキバナ先生の反応は初々しいですねー。僕も5年前はこんな感じでよくアレに困らされてきましたから。気持ちはよく分かりますよ。まあでも本当に心配しないでいいですよ、キモチくんはあの程度で死ぬほどヤワではないので。というかもうちょっとヤワだったらどれだけ良かったか……あの頃は本当に辛かったなあ」
「ハナビシ先生の表現が急に暗く……というかアレってキモチくんなんですか⁉︎ あの噂の……⁉︎」
「ーーえっ、なんか俺に噂とかあるんですかユキバナ先生?」
「きゃあああああああああ出たあああああああああッ⁉︎⁉︎」
ユキバナ先生が心配なのでサラっと積もった雪から抜け出してこっちに来てみれば俺に噂があるとかいう話が聞こえたので聞いてみたら、まるでバケモノでも目撃したかのような反応されてしまった。俺、ただただ心配でこっちに来ただけなのに……ちょっと悲しいなあ。こんな酷い反応されるとーー
「ユキバナ先生、驚き過ぎですよ。キモチくんはユキバナ先生が騒いでいたから心配して来てくれただけなんですから。それにそんな反応しちゃうとキモチくん、生粋のドMだから……」
す、すぎょいぎもぢぃぃぃいいいいッ‼︎
ユキバナ先生は末恐ろしいな、ドMが喜ぶことをこんな的確にやってのけるとは……全く、新人とは思えないぜ‼︎
「えへ……えへ……えへへ。気持ち良すぎ……‼︎」
「ほら、こうなっちゃうでしょ。先生用マニュアルに35ページ目にドMの扱い方が書いてあったでしょ。それをちゃんと熟読しないと」
「えっ、あのページって冗談じゃなかったんですか⁉︎ 私てっきりちょっとした悪ふざけかと……」
「何を言ってるんですか。そもそも先生用マニュアルはこの子が原因で作られたものですからね。少しでも先生方の心労を減らそうとフレア先生が作ってくださったものなんですから、ちゃんと読んでおいてくださいね」
「そ、そんな想いが詰まっているとは……ちゃんと読んで把握しておきます‼︎」
ユキバナ先生とハナビシ先生の会話から先生用マニュアルのルーツについて知ったけど、まさかそんなに負担を掛けていたとは……ごめんなさいフレア先生たち。
「ということでキモチくんも自分の欲を満たすのを少しは抑えましょうね」
「はい、ハナビシ先生‼︎」
まあこれ以上先生たちに心労を与えるのは申し訳ないので力強く答えたのだが。
「非常に良い返事ですが、このやり取りもう何十回もしてますからね。それにほら、もう来年は受験生なんだからあまり問題を起こしてはいけませんよ」
「えっ、問題なんて起ーー」
起こしてないと答えようと思ったのだが、そう言う前にハナビシ先生が阻んだ。
「真夜中に学校に忍び込んでプールに冷水を張って寒中水泳で死にかける」
「えっと、それは何というか不幸な事故というか……あ、そうだ! ほら、俺ってカナヅチだから、今のうちに克服しようと思って‼︎」
「冷水である必要はありませんが? あと、キモチくんもう泳げるようになったじゃないですか。必死にフレア先生とブリザちゃん、じゃなかったブリザ先生が教えてくれたでしょ」
「……そ、そうでした。でもほら、本当に泳げるかを定期的確かめたかったというか……」
「へぇそうですか。じゃあその件はいいです。……他にもトイレのウォッシュレッドをこっそり改造して、そのウォッシュレッドの勢いが強すぎて天井に頭から刺さり死にかけるなんてこともありましたね」
「そ、それも不幸な事故……だといいなあ、なんて、あははは……」
「理科の授業中に担当講師が絶対吸っちゃダメですよーと言われた薬品を思いきり吸い込んで死にかける。これも不幸な事故ですかねえ?」
「だ、だってアレは先生が俺のドM心を煽るから……ドMへの挑戦状かと思って……」
「注意喚起を挑戦状と受け取るなんてキモチくんくらいですよ。あっそうそう他にも夏場に跳び箱の中で一人我慢大会を開催して脱水症状で死にかけるなんてこともありましたね。あ、また思い出した。夏休みに花火と一緒にーー」
ハナビシ先生の怒涛の口撃に一切の口答え出来ず。
「その節は本当に申し訳ございませんでした‼︎」
「はい、素直に謝罪が出来て素晴らしいですよ」
頭を地面の雪に擦り付けながら謝罪する事しか出来なかった。いくらドMといえど申し訳ないと思うことは普通に謝るから、多分。
本当ならもう少しこの冬の寒さを感じていたかったが、これ以上はハナビシ先生から長い長い説教を受けてしまうと思い断念して、そのまま大人しく育児館フレアに戻ることになった。その帰り道で「あっ、そうだ」とユキバナ先生がふと思い出したかのように口を開いた。
「そう言えばですが、キモチくんは高校はどこに行こうか決めているんですか? ハナビシ先生も気になりませんか?」
ユキバナ先生の問いに隣にいたハナビシ先生も頷きながら。
「あ、それは僕も気になりますね。まあ僕だけでなく、小さい頃からドMの被害を被っていた……あ、間違えました。すいません。見守っていた他の先生方も気にはなっていると思うけど」
被害を被ったってストレートに言っちゃてるよハナビシ先生……。
それとだが、一応今の服装がブーメランパンツ一丁というほぼ真っ裸な状態なんだけど、ハナビシ先生は勿論のこと、少し慣れたのかユキバナ先生は全く気にしていない様子。自分で言うのも何だけど、慣れるの早くね? と思いながらも答えた。実は自分の進路はもう決めている。
「アルフレッド魔術学園ですよ」
アルフレッド魔術学園ーーそれは魔術師育成機関のことで、魔術師ってのは魔法を使う者の総称だ。
あまり触れてこなかったけど、この世界は意外と危険に満ちている。それはその辺を闊歩するモンスターや悪意のある者たちが証明しているだろう。ニュースでもちょくちょくそんなやべぇ輩が国を滅ぼそうとしたとか、小さな村を破壊し尽くしたとか速報で出てくる。
そんなやべぇ奴等に対抗するためにあるのが魔術師だ。モンスターの巣の排除や未知のダンジョン等の探索、犯罪集団の殲滅、他にも護衛任務や捜索任務など多岐にわたる。
そして魔術師を育成する機関は多く存在しているのだが、アルフレッド魔術学園は世界でも屈指の名門校と称され、その競合率は驚異の100倍超え。ちなみにフレア先生の次女であるブリザ先生もそこを主席で卒業している。俺はそこを受験するつもりだ。
「「えっ、アルフレッド魔術学園に⁉︎⁉︎」」
まさかの志望校に驚きを隠せない二人。
いつもは冷静でクールなハナビシ先生も目を見開いて俺を見つめている。なかなかレアなシーンだなあと思いながらも話の続きをする。
「冗談じゃなく本気ですよ。もちろん壁の高さは理解しています。でも、だからこそ登りがいがある。そうは思いませんか? 俺はそう思います。自分の力を試したいんです。今の自分がどこまで高見に行けるかってのを実際に感じたいんです。将来的には誰にも恥じない立派な魔導士になって ここ で貰ったものを返します‼︎」
ま、とは言ったものの本当の理由は別にあったりする。自分で言うのもなんだけど、俺にそんな向上心はない。あるのは常に自分の欲を満たしたいという厄介な原動力のみ。
とはいえ最後の言葉だけは紛れもない本心だ。
恩に対しては恩を。
愛に対しては愛を。
ドMといえど与えられたものには絶対に報いると心得ている。それは前世でも今世でも変わらない俺の生き方だ。
「頭がいかれたドM野郎と思って心配しましたが、ちゃんと自分の未来を見据えているのですね。向上心もあり、感謝の気持ちも忘れない。うん、本当に良かった……‼︎」
ユキバナ先生が出来の悪い弟の成長を感じたみたいな優しい眼差しを向けてくる。目端には小さな涙も溜めていた。
ユキバナ先生は俺のことを頭がいかれたドM野郎と思ってるんですね……気持ちよすぎィィィありがとうございまーす‼︎
本当にドM心刺激するのが上手いなと感心する中。
隣にいたハナビシ先生はユキバナ先生とは対照的な表情で口を開いた。
「成長しましたねキモチくん。ーーで、本当の理由は何ですか?」
「ーーあそこはめっちゃエリートだらけだし、それはつまり強い人ばっかりでしょ? だったらそんな人たちの魔法をこの身で体感したいなあ……。炎で炙られるも良し、氷漬けされるも良し、重い力で潰されるのも良し‼︎ うへへ妄想が止まんない‼︎ ……あ……ひ、ひどいですよハナビシ先生! 誘導尋問なんて先生の風上にもおけません‼︎」
「キモチくんチョロ過ぎ。というか誘導尋問も何もペラペラ自分から自白してる人が今更何を言ってるんですか」
呆れたようにジトッとした目で見つめてくるハナビシ先生。その隣のユキバナ先生も信じられないほどの冷たい視線を送ってくる。つい一コマ前までは感動したような表情してたはずなんだけどなあ……。
「そんな酷い理由であの学園を受ける人なんているんですね。きちがいドM野郎のキモチくんは是非とも落ちてくださいね。他の人たちが可哀想ですから。あと今さっきの感動を返してください」
くっ、ユキバナ先生は本当にドMの扱いが上手いなあ‼︎
冷たい視線とナチュラルに酷い言葉。全く、新人先生は最高だぜ‼︎ 来年で俺は育児館フレアを去らなければならないから、ユキバナ先生とは一年程度しか一緒に居られないってのはあまりに惜しいな……‼︎
と、心の中でユキバナ先生を称賛、そしてもう少し早く会えていたらと悔しがっているとハナビシ先生がおもむろに。
「まあキモチくんは魔力は少ないけど、生命力と耐久力はあるからワンチャンあるかも知れないね」
「ま、伊達にドMやってないですから‼︎」
「威張れることじゃないですよ、全くもう‼︎ ハナビシ先生も何か言ってあげてください」
「でも実際にキモチくんの生命力と耐久力は凄まじいですからね。筆記も頑張っているだけあって問題ないだろうし、あれ? ……案外普通に通っちゃいそうな気がしますねえ」
「えっ、本当ですか⁉︎ こんなドM野郎が……ああ現実とはなんて無情なのかしら……‼︎」
「まあその気持ちは僕もユキバナ先生と同じことを思いましたが現実なんて所詮そんなもんですよ。潔く諦めることも、また人生です」
なんか酷い言われようだけど、否定できる要素ないから言い返せんわ。いつも心労かけてごめんねとは思うけどね。
まあそれはさておき、今言われた二つのステータスの数値は目を見張るものがあると自負している。なんだかんだで今までドM漬けの性活……じゃなかった。己を鍛えるために自分を酷使する生活を延々と送っていたのが功を成したのかステータスもマイフェイバリットスキルである『ドMの境地』も大幅に強化されている。その上がり幅は相当なもので、防御的な観点から見れば、同年代ならトップレベルだろうとフレア先生とブリザ先生から太鼓判をもらっているので自信を持っていい。
勉強に関しても普通教科は二度目の人生だからなんだかんだ着いていけてるし、魔法系の教科は単純に面白いから頭に入りやすいから問題ナッシング。
「まあ理由はどうあれ本気なんで頑張りますよ‼︎」
ハナビシ先生とユキバナ先生は揃って「はぁ……」と大きな溜め息を吐く中、育児館フレアに帰るのであった。