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05 ドMといえど普通に友達いるから

主人公のせいでちょっと苦労しがちな親友になるのかな?

 5歳の時に親のネグレクトから救出されてこの孤児院ーー育児館フレアに来て早5年。気づけば10歳になっていた。ステータスを与えられ、運が良かったのかは分からないけど子供にしては破格の力を得たみたいだ。フレア先生曰く、歴史に名を残すかも知れないほどの才能だと言われた。これに関しては素直に喜んだ。


 10歳になると、この育児館フレアではステータス付与時に得られた力を制御するすべを学ぶ機会がある。


 今まで親のネグレクトで酷い目に合ってきた。それもこれも俺が弱いのが全ての原因。俺が強かったらあんなど畜生の親なんかにいいようにはされなかった。だからこそ強くなろうと誓って、その制御する訓練を頑張ったんだけど……その時に相当なやらかしをしたんだ。


 俺の得た力は炎魔法の一つなんだけど、意気込み過ぎて力加減を間違えて辺り一帯を火事にしてしまうという惨事を起こしてしまった。不幸中の幸いで、フレア先生たちが即座に動いて鎮火してくれて事なきを得たけど、問題はこの後だ。先生たちは気にするなと慰めてくれたけど、俺と同じ子供たちからは距離を置かれる羽目になってしまった。


 まあそれも仕方ない事だと思う。だって怖いもんな。逆の立場なら俺もそうしていただろうし。


 フレア先生にも言われたけど、俺の力は簡単に人をあやめることが出来てしまう恐ろしい力だ。だからこそ魔法を行使する時は慎重にしなければならないし、自身の力に溺れるようなことはあってはならない。あのやらかしからその事を身をもって体験した俺は、魔法を行使するのが怖くなっていた。


 そんなこんなで魔法を行使しなくなってから一年が経過した頃。とある人物がやたら俺に話しかけてくるようになった。


「ねえねえアズレッドってば話聞いてる?」


 アズレッドと言うのは俺の名前だ。


「う、うん、聞いてるよキモチくん……」


 この育児館フレアの『本気まじでやべぇ奴』ことキモチ・ハーペインだ。この男の子の噂はよく聞いている。友達ゼロの俺の耳にすら噂が届くほどの問題児。


 確かその噂では、近くの森にごく稀に現れるスライムを見つけては自らスライムの酸を飛ばす攻撃を受けて溶かされようとしたり、ゴブリンの棍棒にお尻を向けてぶっ叩かれようとしたり、真冬にパンツ一丁で近くにある公園の噴水に飛び込んだり、夏にはクラゲを敷き詰めたクラゲ風呂に入ろうとしたり、スイカ割りをしている人の振り下ろす棒に突撃するなどなど。


 とにかく頭のおかしい噂は絶えない。よく先生たちがゲッソリと疲れたような表情になっているけど、あれはほぼキモチくん絡みだというのは有名な話だ。


 よくわからないけど、自分に苦痛を与えるのが好きという全く理解できない性癖を持ってるんだとか。


 まあ一言で言えば、変態かな。


 正直言ってあまりお近づきになりたくはない。でも不思議なことに皆からは意外と慕われている。なんであんな変態が? と素直に思う。俺と同等……いや、見方によっては俺以上にとんでもない事をやらかしをしている気がするんだけど?


 で、この変た……キモチくんなんだけどここ最近、毎回俺にとあるお願いをしてくるから困っている。


「ちょっとアズレッドの炎でお尻炙ってくれない?」


 これである。

 正直言って頭がいかれているとしか思えない。


 キモチくん……いや、この変態とは本当なら話したくはないけど、先生以外話すことが出来ない俺からしたらこんな変態でも皆と仲良くしているのが気になり興味の対象だ。なので無視はしない。


「嫌だよ」


 とはいえ自分のお尻を炙ってくれなどという頭のおかしいオーダーを聞くつもりはない。苦笑いを浮かべながらもいつものように断る。というか多分力加減ミスってキモチくんを消し炭にしちゃうと思う。変態とは言え、同じ育児館フレアに住む者だから流石にそんなことはしたくないし、そもそもだけど魔法を行使するのが怖くて使いたいとは思わない。


「じゃあ一緒遊ぼ」


「……えっ? いや、う、うん、いいよ」


 いつも俺が断っても何度も何度もお願いしてくるか、すぐ諦めて別の日にまた来るんだけど今日はいつもとは違って遊びに誘われた。遊びに誘われるなんて初めてだから、自分でもよく分からない内に「いいよ」と言ってしまった。この変態のことだし、ろくな遊びじゃないのは明白。いいよと言った手前だけど、段々後悔の念が押し寄せてくる。


 で、しばらくキモチくんに手を引っ張られ、施設から少し離れた川辺がある場所に来ていた。何をする気なんだと身構えていると、いきなり服を脱いで真っ裸になったキモチくんは川に飛び込んだ。


「えっ、いきなりなんで裸になるの⁉︎ あ、飛び込んじゃった……よく分からないな……」


 そしてしばらく待っていると片手に何やら半透明な水玉っぽい物体を持って川から上がってきた。その物体だけど、明らかにーー


「そ、それウォータースライムじゃん⁉︎ 何してるの⁉︎ 早く戻してきなさい‼︎」


 慌て過ぎてお母さん口調になってしまうが、それどころではない。


 ウォータースライムは戦闘能力は低いが川の魚を食べて生態系を崩すモンスターとして有名であり、見かけたら即座に倒すのが望ましいらしい。そんなウォータースライムは最弱のモンスターと数えられるが、れっきとした害を成す危険なモンスターに変わりはないんだ。なのに、それなのに……‼︎


「グヘッ⁉︎ きも、きも、きもちいいいい〜‼︎」


 ウォータースライムが飛ばす水鉄砲をガンガンその身で受けながら、満ち足りた表情をしている。


 ものすごく気持ち悪い、吐きそう。


 というかなんであんな至近距離からの攻撃食らってるのにピンピンしてるのか不思議でならない。一体どれだけ耐久力(VIT)が高いんだよ⁉︎


 そんな変態野郎ことキモチくんはしばらく攻撃を受けたことで満足したのか、ウォータースライムをその場に置き、俺の心情などどこ吹く風のように言ってきた。


「これに魔法撃ってみたらいいんじゃない? モンスターなら撃てるでしょ。ここなら方向的にも川だから火事になる心配もないし」


「た、たしかにそうだけど、俺まだ魔法使うの怖くて……」


「このままずっと俯いているよりずっといいじゃん。それにほら、こんな力だからこそ立ち向かわないと。じゃないとずっとそのままだよ? そんなの嫌じゃない? アズレッドもそんな自分を変えたいと思ってるんでしょ。なら早い方が絶対いいよ。ね?」


 簡単にそう言うキモチくんに苛立ちがこもるけど、実際キモチくんの言う通りだから言い返せない。そんなキモチくんは穏やかな表情で「大丈夫大丈夫」と言ってくる。


 なぜか分からないけど本当に大丈夫な気がしてくるから困る。

 上手く説明できないけど、年上のお兄さんにでも諭されているような感覚だ。なぜこんなことを思うんだ? 初めて友達から遊びに誘われて自分でも知らず知らずの内に嬉しくて、冷静さを欠いでいるのかな?


 よくわからない。でも上手くいく気がする。


 構えて、自分の中にある魔力を感じ取って魔法を構築。魔力が溜まっていく。今のところ全く問題はない。一応、万が一のことを考えて、出来うる限り、最小の威力まで落とそうと試みる。


 よし、準備は出来た。


 右手の掌をスライムに向けてーー


「ーープチファイアーボールッ‼︎」


 俺の手に収束した魔力が炎に変換して放った。複数の炎の玉がスライム目掛けて飛んでいく。スライムが逃げようとするが間に合うわけもなく。


「ピギャッ⁉︎」


 一瞬の悲鳴とともにスライムが消し炭になった。


 う、上手くいった‼︎


 と思っていたら炎の玉のいくつかがスライムの隣にいたキモチくんに……⁉︎


「キモチくん避けてッ‼︎」と言おうとしたが、間に合わず。そして被弾。


「ーーうぎょえええええッ⁉︎⁉︎」


 真っ裸なキモチくんは変な叫び声を上げながら川に落ちた。


 やってしまった‼︎ 

 と、後悔の念が押し寄せるが、それよりも今はキモチくんを助けないと‼︎ 慌てて川に飛び込んでキモチくんを引き揚げようとしたのだがーー


「ぎも''ぢいいいいいいいいよおおおおおおおぉぉぉッッッ‼︎‼︎」


 水面に浮かんだまま、歓喜の雄叫びとでも言えばいいのか、はたまたキチガイの鳴き声とでも言えばいいのから分からないが、キモチくんはこれ以上ないほどの気持ち悪い笑みを浮かべていた。しかも驚くことに多少髪の毛の一部がチリチリになったが、外傷らしい外傷は見当たらない。


 な、なんで……? 俺の魔法を生身ーーそれも真っ裸で受けたのに……な、なんなんだ、この変態は……? 理解できない。


 頭がひどく混乱する中、さっきよりもなぜかツヤが増した肌のキモチくんが嬉しそうに口を開いた。


「力加減できたじゃん、やったね!」


 キモチくんが声をかけてきたことで少し冷静さを取り戻し、自分がやらかしてしまったことを思い出した。


「ご、ごめん‼︎ キモチくんを狙ったわけじゃないんだ。でもスライムを倒した時に油断して飛ばした炎のコントロールをミスっちゃって……本当にごめんなさい‼︎」


 とにかく精一杯謝る。俺に出来ることこれくらいしかない。でもキモチくんは「なんだそんなことか」と全く気にもしていない様子。むしろ、「どうせならもっと強く撃ってくれて良かったのに」とかいかれたことを言う始末だ。あ、あれっ、俺がおかしいのかな……?


「まあとりあえずこれで一歩進んだね! ほら、被弾こそしたけどほぼ無傷だし。それはアズレッドが上手く加減出来たってことじゃん」


 キモチくんは俺の背中をバシバシ叩きながら「だからそんな申し訳なさそうな顔をするなよ。そんなに申し訳ないと思うなら、もっとこれから魔力の使い方を上手くなっていけばいい話だろ?」と言って、続けざまに。


「それにほら、もう俺たち友達なんだから力ぐらい貸すことできるよ。まあ何が出来るか分からないけど。とにかく頑張れ。てきとうに応援してるから」


 キモチくんは軽い口調で言った様子だったが、その言葉は優しく暖かいものを感じた。


「う、うん、頑張るよ‼︎」


「まあそのあかつきには俺をお尻を良い感じに炙ってくれ。約束な」


「あはは、絶対に嫌だよ」


 はぁ、全く……最後の言葉が無ければ良い感じに締まっていたんだけどなあ……まあキモチくんらしいと言えばらしいけど。


 この出来事からキモチくんとは良く一緒に行動するようになった。友達になってから分かったことだけど、ああ見えてキモチくんは人をよく見ている。施設でケンカしている者たちの間にさり気なく入って仲裁することもあるし、嫌な空気になりそうなときは良く動いているし、俺の勘違いではないだろう。いやこれは俺だけでなく他の皆も、それこそ先生たちも皆分かっていることか。唯一分からないと思っているのはキモチくん本人ぐらいかな。まあだからこそ、キモチくんは慕われているんだろう。


 そんなキモチくんと訓練や遊ぶ時など一緒に行動するようになってから俺から距離を置いていたはずの者たちとも話すようになって、ついには友達にもなれた。それは紛れもなくキモチくんのおかげだ。


 本当にありがとう。

 いつかこの恩は返す、絶対に。そしていつまでこんな俺と仲良くして欲しいな。

ありがとうございましたー

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