03 ドM、最高に都合の良いスキル発現させる
どうも真性のドM野郎こと板井野喜望です。いや、今は板井野喜望ーー改め、キモチ・ハーペインだったか。
ちなみにこの名前はこの世界で授かったものだ。なんかフレア先生ーー俺を始めとした身寄りがない子供たちを保護してくれた育児館フレアの院長兼代表ーーが俺が入っていたダンジョンの中に名前と誕生日が書いてあった手紙が入っていたとか。まあ名前の話なんて全くおもしろくないからこの辺にして本題に入るとしよう。
育児館フレアで他の子供たちと一緒にすくすく育ち、気づけば10年の月日が流れ、今日で俺も節目となる10歳になったわけだ。なぜ節目かと言うと、この世界の住人は10歳になるとステータスという自身の能力を文字や数値で表したものを授かる。
まあなぜそんな現象が起きるのか、はっきりとした理由は知らんけど。ってか解明されてないから、とりあえずそういうものだと思っておけばいいとフレア先生から言われた。
で、そのステータスを授かると同時に素養があれば魔法も使えるようになるらしいんだよ。この世界で魔法という概念が存在するとわかったときから、密かに俺も魔法を使ってみたいなとずっと思っていた。
理由は単純。
魔法を使えるようになれば俺の欲を満たせるからだ。まあ好奇心ってのもあるけど、ほぼそれが理由と言っていい。
例えば、自身をキンキンに凍らせたり、ジリジリと炙ったり、空高く舞いながら落下したりーー
ああさぞ気持ち良いんだろうなあ……おっと、つい妄想が捗って変なヨダレが垂れちゃったわ。
とまあそんな確固たる理由で魔法を使いたかったのだが……。
非常に残念ながら俺には魔法の素養とやらはなかった。魔法の素養がある奴にはステータスのスキル欄ーー魔法だったり、剣術や槍術などの技能、はたまた特殊な能力が記載される場所ーーに適性がある魔法が表示されるのだが俺にはそれがなかったわけだ。
俺の思い描いていた妄想はこの時点で完全に潰えてしまった。超絶悲報すぎて辛い。それを理解したときは思わず涙が溢れてしまった。ドMといえど泣くときは普通に泣くから。ドMにも悲しみの感情あるから。
だが天は俺を見捨ててなどいなかったんだッ‼︎
まあ簡単に言うと。
炎とか水を操るような魔法の適性はなかったのは確かなんだけど、魔法とは別のスキルが発現していたんだ。そう、俺にとって超絶都合の良いスキルが‼︎
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キモチ・ハーペイン
『基礎値』
・生命力:500/500
・魔力 :10/10
・腕力 : 10
・耐久力: 100
・器用度: 10
・敏捷性: 10
『スキル』
・ドMの境地Lv.1
∟ダメージ変換
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ステータスの形式はゲームとかでよく見る形のものだった。ちなみに見ての通り、レベルという強さの段階を表す概念はスキルだけにしか存在しない。フレア先生曰く、鍛えればその分ステータスの数値に反映されるんだって。とまあそんなことは置いといて。
注目すべき箇所はもちろんーー
ーー『ドMの境地』‼︎
これのことだ。
前世から自他共に認める超一流のドMと名高い俺だったが、まさかこんなスキルに目覚めるとはつゆとも思ってなかった。このスキルははっきり言って異常の一言。俺だからこそ発現されたと言っても過言ではないだろう。
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・ドMの境地Lv.1
真のドMだけが手に入れることが出来るスキル。苦痛を倍増させる代わりに生命力と耐久力を大幅に強化。また、真のドMだけが使える特殊能力を得る。
『現在使用できる能力』
◇ダメージ変換
与えられるダメージを痛みを増加させることで軽減するこたができる。
※軽減率は痛みの度合いに依存
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なんて都合のいいスキルなんだろうか‼︎
俺がこのスキルの効果を見たときに真っ先に思ったことがこれ。
自分で言うのもなんだが、俺は筋金入りのドMと断言できる。なんせ前世でもドM、そして今世でもドMだ。これほどの誇り高いドMが俺以外に居るのだろうか? いや居ない‼︎
このスキルはそんな俺にピッタリとハマる。いやむしろこのスキル以外あり得ない。持つべき者が持ったと言っていいだろう。
ドMーーそれは苦痛が大好きである。受けられるものなら受けたいと思うのがドMの性というもの。だがこの世界の住人は殺傷能力の高い魔法やら特殊な力を持つ者が多くいるため、いくら俺が苦痛好きだからと言っても限界がある。いくら耐久力が高そうなドMといえど限界はあるものだ。
何も考えず、そんな奴らの攻撃を受けたら簡単にお陀仏することは想像に難くない。子供ですら才能ありすぎ君になると高威力の魔法をぶっ放す奴や、大地を砕き空を割るような一撃が篭った拳を放つというやべえ奴等がいる。怖すぎ! そんなやべえ奴等の攻撃を食らったら一瞬で消し炭にされちまうよ。
ドMと言えど死ぬときは普通に死ぬ。身体が耐えられないダメージはどうしようもないし。実際、前世では耐えられるはずもないトラックの衝突では普通に死んだしね。
せっかく第二の人生なんだからちゃんと生を謳歌してからじゃないと死にたくない。まあ希望を言うとーー
ーーいろんな攻撃を受けてみたい‼︎
こうなる。
でも、自分の脆さによっては死ぬ確率が出てくるというリスクが生じるという大問題がある。そんなハイリスクを背負ったまま、放たれた魔法に特攻するなんて安易な行動はできないわけだ。
とはいえ攻撃を受けたい‼︎
俺を痛めつけてほしい‼︎
というドM特有の被虐欲が止めどなく溢れるというジレンマ。そんな理性と本能に板挟みにされながら頭を悩ませていたが、このスキルのおかげである程度解決できると言っていいだろう。なんせこのスキルは俺の生命力と耐久力を大幅に強化してくれるばかりか、痛みを増加させることで受けるダメージを軽減させるという能力を持っているんだからな! しかもまだまだ発展途上。
このスキルをレベルアップさせれば、いずれどんな攻撃を受けてもピンピンするだけの耐久力を得られるというわけだ、多分だけど。 それこそ最強生物であるドラゴンの攻撃を凌ぐことも可能かもしれない。まあ控えめに言っても最高過ぎだろ‼︎
えっ、苦痛はいいのかだって?
無論、問題ナッシング‼︎
俺はこんなイカれたスキルが発現させるほどの男の中の男だぞ? ドM=苦痛が大好物という方程式が成り立つ。そのドMの中でも他を寄せ付けないほどハイレベルなドMだ。そんな領域に足を踏み込んだ俺に苦痛の心配など無用の長物。たしかに常人にとって苦痛は耐え難いものだろう。それは理解している。俺も俺になる前はそう感じていたからな。
だが今の俺にとって苦痛=快感‼︎ 要はカレーに仕込むスパイスと同じようなもんだ。スパイスはカレーを引き立てる。
つまり苦痛は俺を引き立てると材料の一つでしかない。そんな材料に何を悩めばいいと言うんだ? な、恐れる要素なんてかけらもないだろ?
だからこそこのスキルは俺と相性抜群。お互いの短所が長所に早変わりし、長所は更に強化されるという相乗効果。正直最初は魔法使えないからって落胆してたけど、こっちのスキルの方が何百倍何千倍も良い。
本当になんて最高なスキルなんだろうか……‼︎
とまあ最高の10歳の誕生日を迎えたわけだ。
このスキルを鍛えて最高の異世界ライフを満喫しようじゃないか。ちなみにこのスキルのことをフレア先生に伝えたら立ったまま気絶した。そんで2週間ほど寝込んでたわ。
多分、俺悪くないと思うけどごめんなさい。