02 ドMといえど転生としちゃうと驚くから
どうも真性のドM野郎こと板井野喜望です。なんと衝突事故で死んだと思ったら普通生きてました‼︎ いや、その言い方は正しくないか。
確かに俺は小さな女の子を助けて死ぬという結末を迎えたはずだ。そう、さながら物語に登場する主人公みたいな死に方をして順風満帆だった人生にピリオドを打ったのは間違いない。だけどその後に続きがあったんだよ。まあお察しの通り。
ーー異世界に転生してた
まあ一言で言うとこうなる。言っておくけどマジだから、冗談じゃないから。星の数ほどあるネット小説のネタみたいな展開になってしまってるから。とはいえこれだけだと全くわからないと思うから軽く詳細を語ると。
死んだはずなのに目が覚めたところからスタートした。しかもなんとびっくり赤ちゃんになって。こうなる。
いくらドMで大抵のことでは動揺しないと称される俺とて最初は混乱してたよ、流石にね。ドMといえど混乱するときは普通に混乱するから。まあ状況よくわからんし、とりあえず静観してた。というかそもそもの話、赤ちゃんの俺にやれることなんてなかったし。やれることと言えば泣くこと。あとは精々おしょんしたりブツを漏らして皆を困らせることくらいか。
で、2年くらい長々と赤ちゃんのまま色々と情報を集めた結果。この世界が地球とは異なる世界なんだと気づいたってわけだ。
だって地球に魔法とかないし‼︎ 手から炎とか水とか出ちゃうの見たときは流石に驚いた。ドMといえど驚くときは普通に驚くから。
まあこの時点でこの世界が地球じゃないとある程度理解できていた。そんな超絶察しの良い俺に追い討ちをかけるように現れるエルフとドワーフ、ウェアウルフ、サキュバス、その他多数の存在。鞭を持ったサキュバスさんを見たときは思わずお尻をぶっ叩いてくださいと言っちゃたもんなあ。なんかおぞましいものでも見るかのような視線で俺を見ていたけど、それはそれで良きものだったとだけ言っておく。
とまあ地球には人間以外の種族はいなかったし、ここが異世界だとほぼ確定した。ちなみに様々な種族に害をなすモンスターもいたりする。
例を挙げるなら、スライムとかゴブリンとかオークとかゲームの中でしか見たことのなかった存在が。あと俺は見たことないけど、最強生物と称されるドラゴンとかもいるらしい。個体は圧倒的に少ないけど運悪く鉢合わせたらほぼ確で全滅するんだとか。怖すぎ! でもちょっとドラゴンの体当たり受けてみたいと思うのはドMの性なのか。おっと話が逸れたが。
こんなんを目の前で見せつけられたんだ。いくら現実主義者とかの非科学的存在を認めない奴らも認めざるを得ないだろ? 絶対地球じゃない、全てがあり得ない。だいぶ時間がかかったがそう確信した。
ーーこれ、やっぱ異世界転生じゃね、と
ちなみに俺は今、孤児院ーー育児院フレアという身寄りのない子供たちを率先して保護してくれている養護施設で生活している。
俺は当時、辺りには何もない吹雪が振りつける雪山で、ダンボールの中に放置されていたんだけどフレア先生ーー育児院フレアの院長兼代表ーーに救出されたわけだ。当然すこぶる寒い環境に放置状態だったから俺を発見した時には既に相当衰弱してたらしい。
うん、確かに降りしきる吹雪のせいで身体がしんどくて辛かった記憶があるな。まあそれが気持ち良かったんだけどさ。フレア先生にはとても言えることじゃないけどね。
とりあえず俺が言いたいのは一つ。
俺をこの極寒の中に置いた奴が親族か第三者かはわからんけど、そいつがロクでもない奴ってのは理解できる。赤ちゃんをあんな過酷な環境に放置させるとか正気の沙汰とは思えないし。一応俺が入っていたダンボールの底には汚れて衛生的に悪い毛布が入っていたらしいけど、そんな申し訳程度のものであの極寒を凌げるはずが無い。ほぼ何もないと変わんないから、普通に死ぬから。赤ちゃんの免疫力の低さ舐めんなよ。
正直言って素直にドン引きです。ドMといえどドン引きするときは普通にドン引きするから。ドM過ぎて周りをドン引きさせていた俺をドン引きさせるとか本当にド畜生野郎としか言いようがないと思わざるを得ない。だいたいドMをドン引きさせる奴は本当のやべぇ奴って、それ一番言われてるから。そんなハードプレイをするならちゃんと頑丈に育った成人、否、特殊な訓練を受けた者じゃないとな。
ちなみに自慢じゃないけど前世の俺なら余裕だったと思う。前世では北海道に住んでた時期があったけど、真冬の時期は毎朝真裸で近くにあった公園の噴水に飛び込んでたし。あの全身が凍えて、心臓が悲鳴の音を立てる感覚が堪らないんだよね。何度か警察に通報されて危なかったけど、どうにか事なきを得ている。体を鍛えるために寒中水泳をしただけと押し通せば案外注意だけで済むからチョロいもんだ。
さらに余談だが、フレア先生が俺を発見したときのことを聞いたときに。
「衰弱しているのに関わらず興奮しているというか、この危機を楽しんでいる節すらあったんだよ。まああの時は僕も今にも死んでしまいそうな君を見て、流石に冷静じゃなかったと思うから多分僕の気のせいなんだろうけど。ははっ、急に変なこと言ってごめんね。忘れてくれ。どうかしてるね僕は……」
ってハイライトの消えた目で言ってた。
それを聞いたときは「うわぁ……」ってドン引きした。
ってことは全くなかったな。むしろ「流石は俺‼︎」と思わず唸ったくらいだし。来るとこまで来ちゃったかっていう感想しか湧かなかった。とはいえこんな幼い頃からドMを開花させているとは我ながら恐れ入るのは確かだ。前世からの性癖が引き継がれているとはいえ、生命の危機に陥っている中で性的快感を味わおうとするという堂々たるドMぶりには天晴れ。というか俺、欲望に忠実すぎワロタ。
このことをフレア先生から聞いたときは流石に将来有望すぎて戦慄したね。生まれて間も無い段階で、そのレベルの境地に到達しているんだからな。そりゃあこんな反応になるってもんだろ。
とまあ運命の悪戯かはたまた何者かに仕組まれたものかは知らないけどせっかく第2の生を受けたわけだ。前世では世界一のドMと称された俺だ、今世でも世界一のドMと言われるように恥じない生き方をして存分に生を謳歌しようじゃないか。
ありがとうございましたー