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7話 魔の森での修行

「カルラ、この都市の付近にはダンジョン以外にも魔物が現れるのか?」

「はい。近くに魔の森がありまして、そこにもダンジョン並みに魔物が居ます」

「……都市の周りにしては、随分と大量にいるな」


 俺は買ったばかりのローブを羽織り、カルラについていく。

 

「ですね。しかし、それだけ魔物が居るからこそ、ヴァルレイヤ地方は潤っているんです。魔物は危険ですがその分、貴重な魔石や素材を落としますからね」

「……なるほどな」


 言い方は変かもしれないが、鉱山の周りに都市が出来るのと同じ原理だろうか。


 魔物が居るからこそ冒険者は集まり、そしてその素材で都市は潤う。

 潤うからこそ人は集まり、また更に冒険者を呼ぶための資金が出来て、循環していく。

 実に合理的である。


「魔の森は、魔物の強さ的にはどんなもんなんだ?」

「一番強いので、ヘルハウンドぐらいでしょうか。リオンなら余裕だと思いますよ」

「意外と弱いんだな」

「ですので力試しをしたい人間は、みんなダンジョンに潜ります。リオンと出会ったのは5階層ですが、もっと下もあるらしいですし」

「らしい?」


 妙な言葉選びに、俺はオウム返しをする。


「と言うのも、あのダンジョンは6階層から急激に敵が強くなるんです。なので、1番深くまで行った人間が未だに存在しなくて」

「これだけ冒険者が集まっているのにか?」

「はい。以前に外部からもAランク冒険者を集めて、6階の探索を行ったらしいのですが、7階にたどり着くことなく撤退したとか」

「それは相当だな。Sランクの人間は参加しなかったのか?」


 Sランク冒険者。

 それは冒険者にとって憧れの存在であり、天上人。


 Aランクまでとは格が違く、1人で軍の中規模部隊と戦えるとかなんとか。

 それゆえ厳選されており、世界中を合わせても6人しか存在しない。


「Sランクは偏屈な方ばかりですから……」

「……そういうことか」


 それだけの力を有しているがゆえに、基本的にギルドの命令に従わない。

 というかギルド側がSランク冒険者の意見に従うというようなこともあるらしかった。


「まあ私達にはそこまで関係のないことです。5階層でも十分すぎるほどの資金は貯まりますからね」

「それもそうだな」


 俺は今の自分の力に相当の自信がある。

 だが正直言って、Sランクに及ぶかと言われれば首を振るし、Aランクが束になっても無理なことに率先して参加するようなことはない。


 300年間修行をしたと言っても、肉体まで成長したわけではないのだ。

 今は自分の実力をどれだけ高められるか、という方に力を入れたかった。


 何より、俺は未だに自分がどの程度戦闘で通用するかも分かっていない。

 試してみて死んでしまいました、では笑い事どころではないのだから。


「とりあえずは魔の森に行こう。買ったばかりのローブの試運転も必要だ」

「はい、向かいましょう」






 魔の森は、都市から歩いて1時間ほどの場所にあった。

 少し近すぎやしないかと思わないでもないが、都市が成り立っているところを見ると、どうとでもなっているのであろう。


 森の中には、ウルフやゴブリン、強めのところだとオークなどが生息していた。


 いた、と過去形なのは、出会った魔物の全てが、既に物言わぬ死骸となっているからである。


「リオン! 流石に狩り過ぎです! 素材や魔石持ちを任されているこっちの身にもなって下さい!」

「悪い悪い、ちょっと興が乗りすぎた」


 狩った魔物は、魔石と素材だけを剥ぎ取り、残りは燃やす。


 死んだ魔物であっても、魔石は魔力を持ち続けるので、位置の特定は容易い。

 位置さえ分かってしまえば、後は風魔法で魔石だけを抽出し、毛皮などを剥ぎ取る。


 その後は、火魔法で荼毘に付すだけ。


 それだけの魔法を使っていたら、ウィザードの魔力なんて一瞬で枯渇してしまうと思うかも知れないが、俺は全て大気中の魔力や魔物自身の魔力を使っているので俺自体は魔力を一切使っていない。

 加えて、魔の森は魔力が一帯に満ちているので、使い放題であった。


「にしても、このローブも凄いな」

「セシリアはアレだけ懸念してましたけど、ちゃんと使いこなせてるみたいでしたね」


 何気なく手に入れたローブだったが、これほど馴染むのも珍しい。

 試しにわざとオークの一撃を受けてみたが、喰らう場所に魔力さえ込めれば、全くダメージを受けなかった。


 これで咄嗟の不意打ちを食らって魔法が間に合わなかったとしても、反応できさえすればローブが防いでくれる。

 俺の半径5m以内であれば、その範囲内に入った瞬間に俺は認識できるので、ほぼほぼ対応できると言っても良い。


 ……遠くから極大魔法を撃たれたりした時は知らん。

 そんな事は起きないとい信じるしか無い。


「消費魔力も、最小で済んでるみたいだ」


 そう言って、俺は自分の中にある魔力量を確かめる。

 街を出た時の3分の1も減っていないであろう。


 どうせなら大気中の魔力で強化できれば良いのだが、俺に出来るのは大気中の魔力を魔法の形に変換するだけ。

 魔力の流れを自在に操って、このローブに流し込むことは今の所出来ない。


「……しかし困ったな」

「何かありました?」

「いや、大した問題ではないんだが、このままだと魔力量の成長が見込めない気がしてな……」


 全てが自分以外の魔力でまかなえてしまうので、俺自身の成長が出来ない。

 時間の牢獄と違って、自分の体も鍛えられるので出来れば鍛えたかった。


「普通に初級魔法を使っては? というか、中級魔法以上は本当に使えないんですか?」

「使えないな。過去に練習したこともあるが、まず絶対的な魔力量が足りないんだろう。他者の魔力を使うにしても、まず自分の魔力で出来ないことには感覚がつかめん。まあ、そこは才能が無いってことなんだろう」

「リオンで才能が無いんだったら、ほとんどの人が才能なしになってしまいますよ……」


 そりゃあ、300年間修行したからな、と言いそうになったが口を閉ざす。

 出来る限り、時間の牢獄の事は言わないほうが良いだろう。


 カルラなら信じてくれる可能性もあるが、キチガイと思われても困る。

 

「兎にも角にも、現状の課題は分かった。目下の目標としては、魔力量を増やすことか」

「……ふふ、私も付き合いますよ」

「悪いな。こんなことに付き合わせてしまって」

「いえいえ、ですからまずは――」


 そう言って、カルラは俺に素材や魔石の一部をドサリと渡してくる。


「体力をつけるためにも、これを担いで帰りましょうか」

「あ、ああ……」


 笑顔のカルラに対し、俺は苦笑いをするしかなかった。


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