6話 防具
次の日、俺とカルラは揃って、宿の朝食を摂っていた。
昨日は疲れていたのもあってか、宿のベッドに倒れると同時に気を失っていた。
実に300年ぶりの睡眠だ。気づかぬうちに身体が心底欲していたのだろう。
「リオン、今日はどうしますか? 私としては、ダンジョン以外で魔物が出現する場所の案内をしたいのですが」
「それも良いが、その前に防具を揃えたい」
「防具ですか?」
ああ、と俺は頷く。
「俺の魔法は、攻める時は無類の強さを誇るが、守る時は正直心もとない。なにせ、実際に俺が使えるのは初級魔法だけだからな」
「……相変わらず、ピーキーな能力ですね」
「言ってくれるな。……ま、だからこそ防具の新調をしたい。と言っても、相手の不意打ちを防げるレベルなら何でも構わない。出来る限り軽いほうが良いがな」
今の装備は、殆ど普通の服。
魔物の不意打ちどころか、一般人の不意打ちでも普通にダメージを食らってしまう。
ある程度ならば、魔力の流れを感じて事前に防げるわけだが。
用心をしておくに越したことはない。
「となると、オーダーメイドにする必要は無さそうですね。とりあえずは武具店に向かいましょうか」
「道案内は任せてもいいか?」
「勿論です」
そして、カルラの案内のもと、武具店に向かうことになった。
宿から武具店への道中。
昨日、あれだけの出来事(ローウェンとの喧嘩)を起こしたせいか、周りから妙な視線を感じる。
「あれがローウェンをボコボコにした噂のウィザードか?」
「噂によると、指先1つで人間の頭を爆発させられるとか」
「……マジかよ。少しでも怒らせたら殺されちまうじゃねえか」
…………間違っては居ないのだが、どうも脚色されている気がする。
カルラは涼しい顔で歩いているが、噂されるというのはどうも落ち着かない。
と、ようやく武具店に着いたようで、カルラは扉を開ける。
看板には剣や杖の絵が書いてあり、わかりやすい。
中に入ると、壁一面に飾られた剣や杖が迎えてくれる。
これはまた、随分と壮観だ。
客の存在に気付いたのか、奥から1人の女性が出てくる。
「あら、カルラじゃない」
「久しぶりですね、セシリア」
「2ヶ月ぶりぐらいかしら? そっちの男性は……、もしかして彼氏?」
「ち、違いますよ! 彼はリオン。新しく私とパーティーを組んだ人です!」
リオンです、と俺は挨拶をする。
ふーん、とセシリアはコチラを値踏みするような目で見てきた。
「あの白銀の剣聖が、パーティーね。まあ良いわ。私はセシリア。ここの店主よ」
改めて挨拶をしてくるセシリア。
縦縞のセーターを着ていて、メガネを掛けていた。
ぱっと見だと、鍛冶師では無さそうである。
これだけ大きい都市だと、鍛冶師と店主は別で、小売のような形態を取っているのだろうか。
「それで、今日はどんな用事?」
「リオン用の防具を買いに来ました」
「防具? ちなみにリオンさんの職業は?」
「ウィザードだ」
ウィザードという言葉に少しだけ眉をひそめるセシリア。
しかしすぐさま、ああ、と納得する。
「そういえば、ローウェンがウィザードに喧嘩で負けた、っていう噂を聞いたわ。貴方が、その噂のウィザードってことね?」
「ローウェンっていうのは、有名な奴だったのか?」
「私らの界隈だと有名よ。勿論、悪い意味でね。喧嘩っ早い性格で、いろんなお店で出禁を食らってるもの」
「なるほど」
それは確かに納得がいく。
「っと、話が逸れたわね。ウィザード用の防具って言うと、ローブかしら?」
ローブとは、基本的にメイジのような魔法使いが着る防具。
鎧と違い、単体だと一切の防御力は無い。
だが、装備者の魔力を通すことで、鉄以上の強度を誇る事ができる。
要するに、魔法使い専用のアイテムだ。
――だが、
「いや、普通のローブでは駄目だな」
「駄目なの?」
「ウィザードの魔力総量を舐めるな。普通のローブに魔力を通し続けたら、1時間と保たずに魔力切れを起こすぞ」
「……まじかー」
熟練のウィザードであれば問題ないのだろうが、俺はまだまだ駆け出し。
高価なローブを買ったところで、宝の持ち腐れだ。
「そうなると困ったわね。ちょっと倉庫の方を見てくるから、2人は店内の見学でもしててくれる?」
俺たちは頷き、店内を見て回る。
今まで武具店に来たことはあるが、魔力の流れが見えるようになってからは初めて。
ゆえに、今までとは全く違う景色が見えた。
この剣は魔剣か? 妙に魔力が籠もっている。
こっちは普通の剣か。なるほど、値段にも相当の差があるな。
色々と見て回っていると、1つのローブが目に入る。
「ん?」
「どうしました?」
「このローブだけ妙な魔力が満ちてるな、と思ってな」
俺はそのローブを手に取る。
と、そのタイミングでセシリアが奥から戻ってきた。
「うーん、駆け出し冒険者用のローブならあったけど……。あれ、何か気に入った商品でもあった?」
「いや、単純に興味が湧いただけだ」
「……あー、その欠陥品のローブね」
「欠陥品?」
そうよ、とセシリアは説明する。
「ローブって、基本的に魔力を通すと全体が強化されるでしょ? でもそれが非効率だって、考え出されたのがその商品。強化できる場所を任意に選択できるようになったんだけど、その代わり魔力制御がアホほど難しくなっちゃってね」
「なんだ。俺にピッタリのローブじゃないか。ふむ、サイズも合っているし丁度いい」
「……話聞いてた? 仮に魔力制御が出来たとしても、それを戦闘中に行わないといけないのよ? そんな曲芸じみた芸当、出来るわけないじゃない!」
「心配するな。ウィザードは、魔力量も特殊魔法も無いが、器用さだけには自信がある」
俺の言葉に、呆れた、という顔をするセシリア。
「カルラ、こいつ本当に大丈夫なの?」
「はい。リオンの凄さは、私の折り紙付きです」
「……そこまで言うなら良いけど」
俺はセシリアに代金を渡し、ローブを手に入れる。
では、カルラの提案通り、ローブの実験も兼ねて魔物の居る場所に行くとしよう。