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1話 時間の牢獄

 気が付くと、先程までの部屋とは全く違う場所。


「……はぁ?」


 本日何度目とも分からぬ、素っ頓狂な声。


 先程の石で出来た部屋は、まだ理解が追いついた。

 しかし、目の前の光景を俺は把握するのに、たっぷり10分ほどを要した。


 辺り一面の白い世界。


 いや、違う。

 白いのではなく、何も無いのだ。


 ただ空間だけが無限に続いている。


「……さっきの石版を信じるなら、此処は精神世界で、時間の牢獄って場所なはずだが……」


 そうであるのならば、目の前の事象も納得がいく。

 そして、あの石版に書いてあった事が事実であるならば――


「300年か……」


 300年もの間、俺はこの場所に閉じ込められるということ。

 現実世界では歳を取らないらしいので寿命の心配をしないでいいのは良かったか?


 しかしそうであったとしても、300年もこんな何もない場所で過ごすなどというのは狂気の沙汰だ。


 それでも俺が正気を保っていられるのは、ひとえに憎しみや悲しみのおかげ。


「エリスたちに捨てられ、こんなままで死ねるか……!」


 しかし今の実力では、エリスたちと再会しても復讐どころか、一矢報いる事もできない。

 が、幸いにして、今の俺には無限とも言える時間がある。


 たとえウィザードのような最弱職だとしても、努力さえすれば天才を超えられるかも知れない。


 そう信じて、俺は覚悟を決めるのであった。



 ◆ ◇ ◆



 ・1日目



 正気を保つためにも、俺はこれから毎日、日記を付けることにする。


 当然だが紙やペンは無いので、地面に傷を付けて無理やり記す。

 幸い、地面は無限にあるので書くスペースが無くなるという心配は無いだろう。


 しかし、この地面は一体何で出来ているのだろう。


 ああ、時間に関してはポケットに入れてあった時計を参考にすることにする。




 ・2日目


 この場所に来て2日目。どうやら、ここは精神世界だけあってか、腹が減らなければ眠気も来ない。

 眠ろうとすれば、なんとか眠れないこともないが、睡眠というよりもどちらかというと停止。


 実際の睡眠のような心地よさはなかった。  


 肉体的な疲れが全く無いのだけが救いだろう。



 ・100日目

 

 ただひたすらに魔法の練習を続ける日々。

 肉体が存在しないので、ステータスが上がるような実感はない。


 それでも魔法の使い方というのは、段々と進歩している気がする。

 どうせ他にやることも無いんだ。

 続けるしか無い。




 ・1年目


 詠唱をせずとも、魔法を放てるようになった。

 自画自賛だが、凄い進歩だ。


 本来なら、歴戦のウィザードしか無詠唱魔法は使えない。

 だがこの精神世界という、特殊な場所で魔法を使っていたからこそ、これだけ早く無詠唱魔法を習得できたのだろう。

 

 これなら、実際の戦いでも更に上手く立ち回れる。




 ・10年目


 最近は、何の進歩も感じない。


 それでも魔法の修行だけはやめてはいけない。

 いつの日か現実世界に戻った時、全ての人間を見返すためにも。


 エリスたちに一矢報いるためにも。


 ああ、にしても何か食べたい。




 ・50年目


 最近は、魔法の原理の方に考えが行くようになった。


 魔法とは、体内の魔力を炎や氷などの力に変えるもの。

 だが、魔力は体内だけではなく、大気中全ての場所に存在する。


 自分の持つ魔力以外を直接操作できるようになれば、一体何が起きるのだろう。




 ・100年目


 出来た。


 ついに出来た!


 自分の魔力ではなく、空間に存在する魔力を、直接操作して、炎や氷に変えることが出来た!


 おそらくこれは、ウィザードのように魔力を器用に操作出来る職業だからこそ出来ること。



 だが、まだその有効範囲は、俺の周囲の数十センチのみ。

 これを広げていけば、凄いことになるぞ!


 ウィザードは最弱職では無かったんだ!

 




 ・150年目


 直接操作出来る範囲が、数メートルまで伸びた。

 

 しかも、魔法を発動させられる距離はミリメートル単位で制御可能。


 空間中に魔力が存在する限り、俺はどの場所にでも炎や氷を出現させられる。




 ――しかし、俺はなんのために修行をしていたんだっけ。




 ・???年目


 ただひたすらに魔法を発動させる。


 果たして、なんのために俺はこんなことをしているのか。

 この日記も、なんのためにしていたんだっけか


 だが、俺は修行を止めることは出来ない。


 きっと止めてしまったら、なにか大事なものが壊れてしまうから……。




 ◆ ◇ ◆




「……?」


 魔法を発動させる手を、俺は不意に止める。


 なにも存在しない世界が、ゆっくりと軋み始める。

 

 何が起きているのかは分からない。

 だが――


「ようやく、終わるのか」


 終わる、ということだけが理解できる。


 身体が段々と光へと変わっていく。


 それは非常に心地よく、俺は何もせず、ただそれを受け入れるのであった。

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