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プロローグ 追放

「リオン、あんたはクビよ。パーティーから出ていきなさい」


 そう言われたのは、迷宮型のダンジョンの探索を終え、帰路についている途中。


 仲間の1人であるエリスは、さも当然かのように俺に対して宣告する。

 今すぐ、オマエはパーティーから出て行けと。


「……ちょっとまってくれ。理解が追いつかない。冗談だよな……?」

「冗談ではないわよ。これはパーティーの皆で話した結論だもの。ねぇ、2人とも?」


 エリスは、4人居るパーティーのうち、残りの2人に話しかける。

 まさか、と思いながらも、俺は彼らの方を向く。


 そして俺の期待を裏切るように、戦士のギルと、メイジのベティは、エリスの言葉にうなずいた。

 

「そうだな。正直言って、現時点でお前をパーティーに入れているメリットがない」

「……足手まとい」


 エリスの言う通り、あらかじめ話をつけてあったのだろう。

 2人とも淀みなく、俺への文句を言う。


 だが、突然のことに、俺は当然納得ができない。


「ま、待ってくれ! 今回の探索でも俺は役に立っただろ?」

「プフッ、あんた、あれで役にやってたつもりなの? あーあー、これだからウィザードとかいう最弱職の馬鹿は嫌なのよね―」


 もはや、文句ではなく罵倒。


 俺のことを蔑み笑うように、話すエリス。


 実際のところ、ウィザードという職業は非常に不遇なモノである。

 攻撃魔法や回復魔法、強化魔法など、様々な種類の魔法を使えるものの、その全てが中途半端。


 攻撃魔法はメイジには絶対及ばず、回復魔法などはプリーストの2割程度の効果しかない。


 要するに器用貧乏な職業なのだ。


 それでも俺は、パーティーのために頑張ってきたはずである。


「ヒールで皆を回復させたり、先制魔法で相手を引きつけたりしてたじゃないか!」

「あの程度のヒールならば、回復ポーションで構わない」

「……先制魔法なら、私にも出来る」


 だというのに、何なんだろうか、この仕打ちは。


「パーティーを組んだ頃は確かに助かってたけど、正直今じゃ邪魔なだけなのよね。山分けする報酬考えたら、ギルの言う通りポーション飲んだほうが、もう安上がりなわけ」


 仲間から告げられる、罵倒の数々。


 だが、本当に一番つらいのは、それらが事実であるということ。


 蔑むような目線も、俺を仲間とも認識していないような言葉も、受け入れるしかない。


「もう一度言うわ。あんたはクビよ」


 だからこそ、俺は何も言い返せず、その言葉に頷くしか無いのだ。


「……分かったよ、パーティーを抜ける」

「そ。分かってくれてよかったわ。……ねぇ、あんた、どうして私がダンジョンの中でこんな話をしだしたか分かる?」


 その質問に、俺は首をかしげる。


 突然のクビ宣告に頭が真っ白になっていたが、確かに彼女の言う通りだ。


 わざわざ此処で言わずに、街に戻ってからで良いはずなのに、何故?


 思考し続ける俺に対し、エリスはフフッ、と笑う。


「それにしても、このダンジョンって魔物が弱い割に危険よね。あちこちに罠があったりして。ほら、そこの落とし穴なんか実は中が転移陣になってて、何処に繋がってるかも分からないそうよ。しかも、落ちた人間は誰ひとりとして生きて帰ってこないんだって」

「……? ああ、たしかに危険だな」


 そう答えた次の瞬間、持っていた荷物をひったくられ、そのままドンと背中を押される。


「へ?」


 俺は間抜けな声を上げながら、エリスの方を向く。


「じゃーねー。あんたの荷物は、ありがたく私達で使わせてもらうから心配しないでね」


 笑顔で手を振るエリス。


 俺はそんな彼女を見つめながら、落とし穴の中へと落下していき、転移陣の光に飲まれるのであった。









 光に飲まれた俺が目を開けると、そこは全く見知らぬ場所であった。


 石で出来た壁と床。苔ばかりが生えており、薄っすらと肌寒い。

 外からの光は一切なく、部屋の中央にあるロウソクだけが、辺りを照らしていた。


「……な、んだ、これ」


 そして一分間ほど固まり、ようやく現状を把握する。



 ――裏切られたのだ。


 いや、裏切られるだけじゃない。パーティーから強制的に追放され、殺されかけたのだ。

 どうしてダンジョンの中で、あんな話を始めたのかをようやく理解する。


 街中と違い、ダンジョンの中で死ぬ分には事故とされるし、殺しの証拠も残らない。

 仮に俺が追放されるのを拒んだとしたら、そのまま殺してしまえば良い、そう考えていたのだろう。


 しかし、俺は追放を受け入れた。だというのに、何故殺されないといけないのか。


 ……まさか、荷物を俺から奪い取るためだけに?


 その考えに行き着いた途端、俺は乾いた笑いが止まらなくなる。


「は、ははは、そうか。お前らにとって俺は、その程度だったのか」


 激しい悲しみと憎しみが、俺の中でこみ上げてくる。


 ――だが、俺は未だに生きている。

 此処がどういう場所かも分からなければ、何が起こるかも分からない。


 しかし生きているのだ。ならば、まだまだどうにかなる。


「……これは、祭壇なのか?」


 部屋の中央には、像のようなものがあり、その周りをロウソクが囲んでいた。

 俺はその側に、文字が書いてある石版を見つける。


「『時の部屋』?」


 かすれているが、石版にはそう書いてあった。

 そして次の瞬間、俺を囲むように魔法陣が起動する。


「なっ!?」


 すぐさま逃げようとするが、足は固定されたように動かない。

 これはヤバい、と脳が必死に警鐘を鳴らす。


 だがどうすることも出来なく、魔法陣の光は更に強くなっていく。


「そ、そうだ、石版!」


 何か情報を得ようと、手に持っていた石版の続きを確かめる。

 小難しいことが大量に書いてあるが、とにかく脱出する手がかりを見つけなければ!


 必死に読み進めていると、それらしき文章が出てくる。


 『此処から出るには試練を乗り越えねばならない。

試練とは、修行。時の重みを知るために、修行者は300年間、時間の牢獄へと閉じ込められる。

それを乗り越えたモノのみが、この部屋から出られるであろう。

だが心配しないでほしい。アチラは精神世界。どれだけ過ごそうと、コチラの時間は1秒たりとて過ぎていないのだから』


「……300年?」


 該当の部分を読み切ったのと同時に、魔法陣が完成したのか、再び俺は光に包まれ意識を失うのであった。




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