05
超絶まったり更新で申し訳ありません!(今後も多分、まったりです)(>_<)
ブックマーク、ありがとうございます(*'ω'*)
(…………はっ!?)
ふと、わたしは目を覚ました。
一瞬、自分がどこにいて何をしているのか、記憶がすっぽり抜けてしまったかのような感覚に陥る。
慌てて起き上が――ったつもりが、全く体は動いてくれなかったけど、今、どういう状況なのかは思い出せた。
(そうだ……闇雲に色んなものを口にしたら、ピリピリってくるものがあって……)
あれはなんだっただろうか。
確か茸の類で、樹木の幹から生えていた見た目は何の変哲もない茸だった気がする。
でも一度口にして理解できた。あれは毒キノコの一種だ、と。
死に至るほどのものではなく、健常者なら多少の痺れを感じる程度で、数日経てば回復できるぐらいの軽い神経毒を持った茸…………という情報が食べた後に、本能で感じ取れた。
他にも口にしたものは全てわたしの頭の中に情報として格納され、効能のあるなしから毒素の成分に至るまで、本当に不思議な話だけど、わたしには理解できた。
しかし、健康ならちょっと痺れるぐらいの毒でも、今のわたしにとっては死活問題だったようで、その刺激が病で弱っている体に大きなダメージを与えたらしく、わたしは気絶していたらしい。
やっと歩けるようになったと思ったら、再びわたしは地面に横たわっていた。
周囲は全て暗闇に覆われており、現時刻が夜であることがすぐに分かった。
(うぅ……せっかく立って移動できたと思ったのに……あ、でも――)
なんでだろうか、何とかなりそうな気がして、わたしは無意識に体内に「蓄積された何か」に呼びかけた。すると、その何かは複雑に混ざり合い、別のものへと変質していくのを感じた。本当に言葉にしようがない、摩訶不思議な現象だけど……それは確かにわたしの体内で起こっており、理屈ではなくても理解することができた。
(わたしの中で…………薬が精製、されてる?)
そう――わたしの中で起こっている現象。それを口にするなら「薬の精製」だった。
その表現がわたしの中でカチリと嵌ったような気がしたので、わたしは今後、この現象のことを<体内精製>と呼ぶことにした。
何事においても、名詞を用意しないと考えがまとめにくい。アレとか何かとか言うよりは、きちんと<体内精製>という名をつけた方が、わたしの思考の中でも整理がつけやすい。
痛み止めも切れていたようで、再び、思い出したかのような激痛が全身の隅々で生じていたので、痛み止めも体内で精製し、わたしは右手を開閉させて、その具合を確かめた。
(うん、きちんと効いてる……。なんだかわたしって、どんどん人間離れしていくような気がするけど、今それを深く考えこんじゃうと立ち直れない気がする……)
<体内精製>という光明は手にしたものの、依然、わたしの現状は到底安心できるものではない。
それに今は……夜。
その身一つで放り出され、満足に行動もできない身としては、この暗闇はいつも以上に恐怖を抱かせるに十分な環境だった。
耳を澄ませば、虫の鳴き声や、フクロウの「ホゥー、ホゥー」という声が響く。
そして時折、風が吹き、木々が揺れる音が届く。
(…………怖い)
日差しが出ている時間帯は、なかば意地になって、どうやっても生き残るために行動があったけど、こうやって視界を奪われただけで、心は一瞬にして弱り、後ろ向きな考えがすぐに脳内を埋め尽くそうとしてくる。
せめて……月が出ていれば良かったのだが、分厚い雲に覆い隠されているようで、手元はおろか木々の輪郭さえ見ることができない。
(ここで意味も無く動くより……じっとしてた方が、いいよね……)
食した葉などが発する淡い光も、わたしの視界と連動しているのか、この闇の中では一切見えない。
この静かな世界で改めて、独りぼっちになったことを突き付けられたようで、わたしは思わず体を震わせた。
ガサッと不自然に草木を掻き分けるような音が聞こえたり、不意にわたしの頬に落ちてくる葉っぱの感触に飛び上がりそうになりつつも、わたしは「何事もありませんように、何事もありませんように!」と願いつつ、強く目を閉じた。
カサカサの眼球が瞼裏と擦れる嫌な感触に心がざわめくが、それすらも飲み込んで、わたしはひたすら……この黒で埋め尽くされた時間が過ぎるよう祈った。
……………………。
………………。
…………。
……。
気付けば、朝だった。
(……)
あれだけ恐怖と孤独に震えていたわたしは、次に目を覚ました時には、朝を迎えていたのだ。
どうやら熟睡していたらしい。
(わ、わたしって……自分で思っている以上に、図太い……のかしら)
今日も曇雲一つない、晴天のようで、天から降り注ぐ太陽の光にホッと胸をなでおろす。
現金なわたしは視界良好になった瞬間、気持ちも前向きにムクムクと立ち上がっていく。
再び<体内精製>の力で痛み止めを自身に浸透させる。
まだ数回しか試してないけど、今のところ、特にやり方に苦慮するなどは起こらず、自然とその力を行使できていた。
ジワジワと体中に妙な感覚が走り抜け、その感覚が抜けきると同時にわたしは緩慢な動きで起き上がる。
(そういえば……昨日は色んなものを食べることに熱中しすぎてたけど、ここって森のどの辺りなんだろう)
ふと、そんな疑問が走り、わたしはぐるりとその場を一周見渡した。
しかし、最初の場所の時には見えていた外壁は既に木の高さで隠れる距離にあるようで、どこにも見当たらなかった。
王都から離れて歩いている、という点は間違いなさそうだった。
王都から離れる――そのことに一抹の寂しさが掠めるが、わたしはそれを気持ちで振り切って、再び足を一歩、踏み出した。
<体内精製>の力を理解したことで、わたしの中に不思議と「自身に足りないもの」が何かが漠然と浮かび上がるのを感じた。
正直、足りないものだらけで、頭の中がまとまらないのだけれど、とりあえず何を於いても不足しているのは水と栄養だった。
崩王病に罹ってから、屋敷では食事や水を喉に通すことはできなかった。
それをするだけの体力が無かったせいだ。
わたしは罹患後から数えておそらく……4日は過ぎている。屋敷の中で2日。それからその日に外に放り出されたとして、一日森で過ごしたので、今は4日目、といったところだろうか。
それだけの期間、わたしはまともな食事――つまり水も栄養も摂っていない、ということになる。
(…………生きてるのが、不思議なくらい、だわ……)
家庭教師との勉強の合間で気分転換も兼ねて、外で活動する冒険者や野外調査などで王都外に出向く騎士たちが遭難した際に、飲まず食わずで何日まで生き延びれたか、という話をしてくれたことがあった。あの時は、伯爵令嬢に何て話をするんだろうか、なんて思っていたけど、野外生存競争真っただ中に思い返せば、何となく有難い気持ちになる。
その時、教師は「そうなった場合、過去の例ですと、4日から5日程度でどんな屈強な男であっても、精神をおかしくし、そこから最大でも2日程度で死に至る……と聞いたことがありますね」と言っていた。
その法則に則れば、わたしは既に発狂していてもおかしくないわけなのだが、まあ崩王病に罹った時点ですでに発狂したい時期は過ぎているので、逆に今は冷静なのかもしれない。というか、崩王病罹患者の余命日数の最大例が今日だというのに、こうして通常思考ができる状況の時点で既に異常だ。
……分かっている。これは間違いなく<体内精製>の力が作用した結果だということは。
(わたしが……この力を持ったことに、何か意味はあるのかしら)
もしかして、わたしはまだ死ぬべきでないと、神様が教えてくれているのかもしれない。
そう考えると、何だか背を押されているような気がして、若干足取りが軽くなったような気がした。
視神経に力を込めるような感覚で目を細めれば、再び色とりどりの淡い光が周囲に灯った。
……さり気なくやったけど、この時点で初めて、わたしは食したものに宿る光を切ったり点けたりする方法を知った。
なるほど、このまま色んなものを食べれば視界いっぱい光だらけになるかもとは思っていたけど、どうやらこの力は都合よく、切り替えができるようだ。本当に都合よくて心配になるけど、今は有難く受け取ることにしておこう。
(……あ)
昨日気絶する要因を作った茸も見つけ、その光の色を確認する。
(……う~ん、色は黄色なんだけど、何だかトゲトゲしい光の発し方をしている気がするわ)
色だけではそれが毒なのかどうか分からないけど、わたしにはそれが「毒」であり「人体にどれほど影響を及ぼすか」というレベルまで感覚だけで理解することができた。
(痺れ薬とかに使えるのかしら? 今は用がないから、この茸は食べなようにしよう。というか毒がありそうなものは、出来るだけ避けたほうがいいよね……)
冒険者の中には、野生動物を捕らえるのに「痺れ薬」というものを使ったりする話を、いつもの家庭教師から聞いたことがある気がするけど、もしかしたらこういう茸が原材料になってるのかもしれない。いや、これだと弱すぎて使えないかな?
とりあえず、今日の目標は川を探すこと。
食料は無理だけど、水なら嚥下しにくい今の身体でも少量ずつ取り入れることは可能なはずだ。
(水分を含んだ木の実とかあればいいんだけど……屋敷で出てきたような果物なんて、都合よく森に転がってたりしない、よね)
ちょっと期待を込めて周囲を注意深く探したけど、やっぱり果物はおろか、木の実すら見当たらなかった。
……茸はやたらと種類豊富に見つかったけど。
まるで食えと言わんばかりに主張してくるように感じたけど、また痺れたり、それより最悪な事態が起こるのは御免なので、全て素通りしていく。
体内時計は狂いに狂って、どのくらいの時間歩いたか分からないけど、わたしは小休止を何度も挟みながら、ゆっくりと着実に森の中を進んでいった。
そして、わたしは木々の合間を縫って開けた場所へとたどり着き――、
(…………え、こんなところに、小屋?)
森の中に忽然と現れた、木製の小屋の前へと身を乗り出したのだった。