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病魔と神聖巫女の境界線  作者: シンG
第一章 廃棄令嬢
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ブックマーク+ご評価くださり、ありがとうございます!(*´▽`*)

いつの間にか300Ptを超えており、嬉しい限りです♪


いつもお読みくださり、ありがとうございます~( *´艸`)


2019/12/24 追記:茂木多弥さんから涙の雫のシーンのFAを戴きましたので、最後に載せさせていただきました! 茂木さん、ありがとうございます!!

「あぁぁッ! っ、ぐぅぅぅ……、……ッ!」


 どう言葉を返したものかと、キョトンと金髪の青年を見返していると、唐突に隣室から悲痛な叫び声が上がった。尋常ではない苦しみを帯びた声だ。


 木製の扉一つ挟んで、奥から聞こえてくる少女の声――その主の心当たりは一人しかいなかった。


 脳裏にこの小屋に運び込まれた女の子の姿が浮かび上がる。


「ッ!? ファーラ!」


 その声を聞いた青年は、勢いよく立ち上がり、かけていた椅子を激しく倒したことにも気にかけず、隣室へと駆けていった。


 扉を力任せに開け、隣室へと彼は姿を消していった。壁に跳ね返って軋みを上げながら閉まる扉。その向こう側から、くぐもった二つの声が響く。


 片方は苦しみもがく、少女の苦悶の叫び。


 片方はそれをあやす、青年の必死な声がけ。


 青年が何を言っているのかは聞き取れないけど、おそらく思いつく限りの優しい言葉を投げかけて、少女を励ましているのだろうと……声質から心情を読み取れた。


(…………あの方は、運び込まれた女の子を大事になさっているのですね)


 よくよく思い返せば、小屋の外で見かけた美しい男性は、あの青年だった。次々と目まぐるしく移り変わる展開に、頭の中が一杯一杯だったため、すぐに結びつかなかったが、あの顔は確かにそうだったと思う。


 外では気を張っていたのか、男性とも女性とも見れるほどの中性的な美しい顔立ちだったけど、今この小屋の中で出会った青年は――やつれて顔色も悪かった。ボサボサの金髪はおそらく……何度も感情に任せて髪を掻いた所為なのかもしれない。


 初めは何か不穏な事件が起こるんじゃないかと思っていたけれど、今の青年の様子を見ている限り、杞憂だったようだ。


 同じ金色の髪を持っていることから、彼らはもしかしたら血の繋がった家族なのかもしれない。


(家族……)


 きっと……青年はあの女の子のことを、心から大事にしているのだろう。あの女の子に良くないことが起こっていることも、青年がどれほど女の子のことを心配し案じているのかも――今の一幕で読み取ることができた。


(わたしにも……愛してくれる、家族がいれば……)


 ――わたしが死んでも誰も無関心、わたしが生き残っても帰る場所はない。……誰も喜んだり、その無事を祝福してくれる人は……いない。


 そんな空虚な未来が、家族と言う単語から連想され、筆舌し難い感情の奔流が胸の内から沸き起こる。


 キュッと胸元で両手を握りしめ、拠り所を失いかけている心の置き場所を探してしまう。


(ううん、駄目……こんな気持ちを抱いては、駄目……)


 一瞬だけ、あの女の子に"嫉妬"に近い感情が滲みでてきたが――それはお門違いだと己に言い聞かせる。


 あの子に嫉妬して、どうなるというのか。


 きっと……あの子もわたしと同じように、病魔に侵されて苦しんでいるのかもしれない。そこに自分を重ねて、わたしには足りない部分――家族からの愛情というモノを目の当たりにし、その違いに負の感情が現れたのだろう。


 でもそれはわたしの勝手な思い込みであり、あの子には何の非も無い話だ。


(むしろ……何か、してあげたい。わたしには何も残っていないけど、あの子には残っている……愛してくれる人がいるのなら、せめて、あの子だけでも助けて……あげたい)


 人の本能が呼び起こす"嫉妬"を理性で乗り越えた結果、最後にわたしの中に残ったのは――慈しみの心だった。


 全てを失ってなお、せいにしがみつくわたしがすべきことは何なのか――。わたしには生き延びた先の指針がない。ただがむしゃらに生きたいと願うことはあれど、その先に進むべき道が見えないのだ。


 だったらせめて……わたしと同じように病魔に苦しむ人に、安らぎを与えたい。わたしの両手から零れ落ちてしまった、幸福の可能性を掴んで欲しい。その末にその人が幸せにほほ笑むのであれば――きっと、わたしも共感して笑えるのではないか、と。


 それは見方によっては、独りよがりの欲望なのかもしれない。でもその欲望が……渇望が誰かを救うのであれば……何も悪いことではない気がする。


 神聖巫女を要する神殿は、多額の金銭を対価に治療を施し、人々を救う。


 だったらわたしも、幸せのお裾分けを貰うために、人のためになる"何か"を成してもいいのではないか。


 その"何か"が具体的にどういうものが、わたしに可能なのか……全く想像がつかないけれど、少なくともその技術を身に着けることこそが……新しいわたしの進むべき道に相応しい気がした。


(でも…………)


 その道が実現可能かどうかは置いておいても、今のわたしが無力な存在であることに変わりはない。


 仮に将来、何かしらの形でその技術や知識を手にしたとしても、今現在、苦しんでいるあの女の子を救うことにはならない。


 隣室から絶え間なく流れてくる――弱々しくも悲痛な声。


 その声を救うことにはならないのだ。


(何か……できないの? わたしは、<体内精製>のおかげで一命を取り留める……どころか、回復傾向にあるけど……。この力で何か、あの子のために……出来ることは……)


 世の中、そんなに都合の良いことは起こらない。


 むしろ残酷で無残なことばかりであることは、13年しか生きていないわたしですら身を以って知っている。


 けれども、だからこそ人々は形の無い希望に縋るのだと思う。


 願いを届けようと足掻くのだと思う。


 隣室で今も女の子に向かって、絶やさず声をかけ続ける青年のように。


 そんな彼らに何かをしてあげたいと強く願う、わたしのように。



(――――――え?)



 ふと気づけば、頬を濡らす温かい感触が――涙だ。


 わたしは無意識に掌を顎下に持って行き、垂れ落ちる涙を受け止めた。


 涙の雫は、そのまま掌の皺に沿って流れ落ちる――のではなく、コロンと雫のまま時が止まったかのように、粒として掌の上を転がっていた。


 コトン、コトン……と、涙の雫たちが次々と鈍い輝きを放ちながら……手の中に溜まっていく。



 あり得ない現象に、思わず固まってしまう。


 でも何故だろうか、この数日に何度も体験した"閃き"のような感覚がわたしの中に走り、気づけば涙の粒を一つ摘み、口の中に運んでいた。


 涙の粒を飲み込み、<体内精製>によってその成分が何なのかを理解する。



 ――気づけば、わたしは涙の粒を大事に両手で握りしめ、ベッドから足を降ろし、隣室へと向かおうとしていた。




挿絵(By みてみん)


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