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病魔と神聖巫女の境界線  作者: シンG
第一章 廃棄令嬢
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更新、凄まじく間が空いて、申し訳ございませんでしたっっm(。≧Д≦。)m

でも多分、マッタリ更新は続くと思います……(コラ)


非常に多くのブクマや評価を入れてくださり、さらには感想まで書いてくださり、ありがとうございました!(*´▽`*)

「――一体これはどういうことなんですか!?」


「申し訳ございません……、まさかこの短時間でこのような事態になるとは」


「何故目を離したんですか!? 彼女の状態を見れば、精神的にも肉体的にも限界が近いことは分かるでしょう!」


「しかし、淑女の着替えを見ることは、近衛といえど禁じられております……」


「くっ……それは、そうですが……ああっ、どうしてこうも上手く回らないんだ……!」


(…………ん、……なに?)


 唐突な騒がしさがガンガンと響き、わたしは困惑を胸に徐々に意識を浮上させていった。


 誰かが一方を怒鳴り、一方が謝罪を返すという構図のようだけど、なぜそんなやり取りがわたしの間近で起こっているのか、さっぱり分からない。


「伯爵は何を思って、このようなむごいことを……!」


「……すぐに人を向かわせ、事情を確認させましょうか」


「――……いえ、……今、私の頭は冷静ではありません。少し……状況を整理してから、動くこととします」


「御意に」


 おそらく会話をしているのは、団長さんだ。でももう一つの声はバージルさんのものでは無さそうだ。バージルさんよりも若い感じの……わたしより少し年上かな? って感じる男性の声。


(う、う~ん……どこかで、聞き覚えがあるような? ないような……)


「…………ファーラの苦痛が少しでも和らげば……と、この湖畔近くの別荘に連れてきましたが、まさか……こんな追い打ちが待っているとは思いませんでした」


「お召し物が無ければ、さすがに同一人物だとは気付けなかったかと。それだけでも不幸中の幸いと言うべきかもしれませんね」


「えぇ……ヒースが気付いてくれて助かりました」


「騎士として当然の嗜みでございます」


 団長さんともう一人の方が、身分関係はあれど、信頼関係を築き上げているのが分かる声色だった。


 さっき怒鳴っているように聞こえたのは、団長さんを叱りつけているというより、やり場のない怒りを吐き出していただけなのかもしれない。


(うぅ……で、でも……この小屋に入った時に感じた緊迫感よりも更に重い空気が流れてるわ……。とてもじゃないけど、この空気の中で起き上がるのは怖すぎます……)


 もう少し寝たフリをしておこう、と決めた。


「ヒース、バージル。彼女の周囲には誰もいなかったのですか?」


「ハッ、私が彼女を湖から引き揚げた段階では……人影らしきものは見当たりませんでした」


「念のため、先ほど私も別荘周辺を見回りましたが、それらしき痕跡は無かったかと。ですが、確証はありません」


「そう、ですか……ふぅ」


 そこで初めて室内からバージルさんの声もした。


 目を閉じているから分からなかったけど、どうやらこの部屋の中には3人の男性がいらっしゃる模様。


(……そう意識しちゃうと、ちょ、ちょっと圧迫感を感じてしまいます……)


 家でも男性はおろか、同性ですら多くの人に囲まれるなんて出来事は無かったため、意識した途端、言い知れぬ緊張が胸に走ってしまう。


(そういえば……耳を傾けることばかりに意識が向いちゃったけど、わたしって今、どういう状況なの?)


 というか、なんで寝ているんだったかしら?


 ぽわん、とぼやけている記憶に光を当てて、ここに至るまでの経緯を遡ってみる。


(確か……ええっと、そうだわ。ドレスの内側に縫い込まれていた小袋……その中の飴を食べてしまって…………それで、それで……倒れてしまったのよ)


 なんだろう。


 とても大事な夢を見ていた気がするのだけれど、もやがかったように思い出せない。


 気になって、気になって……記憶の波をかき分けて探すのだけれど、迷子になった記憶を掴むことはできなかった。


(んん……となると、突然倒れたわたしを皆さんが介抱してくれた、ということに……なるんだよね? う、うわぁ……どうしよう! ただでさえ怪しまれているところに、こんな失態を晒しちゃうなんて……! しかも原因は良くわからない飴を食べちゃいました、なんて言えないよぅ!)


 心の中でゴロゴロと頭を抱えながら転がり、どんどん泥沼化していく現状に焦りばかりが浮かんでくる。


(うぅぅぅ……緊張と焦りで心臓が痛くなってきたぁ……! あ、あれ……ど、どっちかというと、熱く……? え、な、なに……?)


 最初は心理状態から来るものだと思っていた鼓動の早鐘は、気づけば徐々に熱を持ち始め、痛みというより太陽を胸に抱え込んでいるような感覚に陥った。



「えっ――――」



 思わず、わたしは目を開けて、無意識に声を漏らした。


 ズクン、と普段とは異なる鼓動音を発する心臓を中心として、両手足の指先に至るまで、全身を焼き切るかのような熱が通っていく。


 全身を沸騰し、わたしという存在を煮沸していくような熱。


 それでいて"愛"というものが在るのであれば――きっとこんな温もりなのだろう……と思えるほどの優しい熱。


 矛盾を孕んだ熱が、わたしという一つの体内を循環し、()()()()()()()()()


 分かる。


 これは<体内精製>の一環だ。


 でも、ここ数日で体感したどの<体内精製>とも類似しない――膨大な力が巡っているのが理解できた。


「なっ!?」


「これは……!?」


「殿下、お下がりくださいっ!」


 わたしの驚きに呼応するかのように、近くにいたであろう3人の男性陣からも声が上がる。


 周りからどう見えているかは分からないけど、間違いなく目で見える範囲で、確かな変化が生じていると――本能で感じ取ることができた。




 "わたしという世界"の中で。


 多くの()()を経て生まれた太陽は、世界に潜む"闇"を押し返さんと熱波を放つ。


 闇に覆われていた世界は、強烈な光の波に浚われ、端から分解されていく。


 その通り道には温かな光が残り、荒れ果てた大地に生命を宿していく。


 ひび割れて陥没していた大地は、やがて亀裂を閉ざしていき。


 雷鳴を散らしていた大空は、青を取り戻す。


 干からびて主を失った川跡には、血潮が再び巡り。


 死滅した土壌に、新たな生命の息吹が生まれようとしている。


 失った過去を取り戻すことはできない。


 だから停滞した過去を押し出し、新たな未来を開拓していくのだ。


 一度壊れた地盤の下から、元気な大地が再び大空の元へと顔を出す日まで――何度も何度も再生を繰り返す。



「――――っ――――」



 気付けば、わたしは声にならない声を上げて、ベッドの上で身体を丸くし、巨大な余波が通り過ぎるのをジッと待っていた。


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