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魔術師転生  作者: サマト
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第九十一話 魔術的アポーツ、そしてそれに引き寄せられた者 

手紙にはこう書いてあった。


―――工場棟の全焼、偽神三体の大破、偽神四号機の強奪、それらを行った人物を引き入れたこれらの罪、諸々を踏まえ極刑にしろと言う意見が大多数だったがこれまでの働きを考慮しサフィーナ・ソフからの無期限追放とする。


最後にファインマン・ハロウスの署名があった。

手紙にもう一度目を通してシモンは重い溜め息を付く。

「まあ……命があっただけめっけもんか。カルヴァンさん、気絶で済ませてくれたしな。あの人にしてはかなり気を使ってくれた。珍しい事だ……」

言っているうちにシモンは不安が沸き上がりカルヴァンに摘ままれた部分を手で擦ってみる。時間経過で首が落ちるのではなかろうかと考えたからだ。一瞬にしてこちらの間合いに入る必殺とも呼べる歩法を持っているのだ。触っただけで対象を切り裂く様な技を持っていてもおかしくはない。ペタペタと触って異常がない事を確認してホッとする。

「……どうやら無事のようだ」

文字通り首の皮が繋がっているのに安堵すると今度は別の不安がもたげてくる。

「……あれからどのくらい時間が経った? ここはどこだ?」

空腹の状態から一日ほど経っているようだ。喉の渇きは水の魔術を使えば何とかなるが食べ物は自分で探さなければならない。それも含めて周囲の調査をしなければならない。普通なら足で調査しなければならないがシモンは魔術師だ。上空から周囲を俯瞰する、そういった魔術がシモンにはあった。

「……やるか」

そう呟くとシモンはその場に座り目を閉じる。四拍呼吸を行い全身をリラックス、精神を研ぎ澄ます。そしてシモンは起立する自分の鋳型をイメージしそれを前方の空間に投影する。更に投影したイメージの鋳型から管が伸びて自分と接続、呼吸と共に霊妙なエネルギーがイメージの鋳型に流れ込むとさらにイメージする。それを繰り返すうちにツルンッと滑るような感触がった。

(……入った)

シモンはゆっくりと目を見開いた。シモンの目に入ったのは座り込んでいる己の姿だった。

アストラル体投射―――いうならば魔術流幽体離脱である。この状態ならば肉体による枷はなく自由に動ける。魔法や魔術による結界がなければ壁をすり抜ける事も出来るし空を飛ぶ事も出来る。特別な能力がなければ相手からは見えない、これほど偵察に適した術はないだろう。

アストラル体のシモンは上空に浮遊し周囲を俯瞰してみる。そしてため息をつく。

「……全く何もない」

見えるのはただただ広がる無限の荒野。剥き出しの地面にほんのわずかに植物が生えるのみ。生き物の姿など全くない。

「今の僕みたいだ……」

今の自分の状況とこの光景が重なってしまう。今の自分には狂神と戦う仲間も力も何もない。魔術があったとしても一人では勝てる道理はない。ふと風に流れる雲が目に入る。

「羨ましい……僕も雲みたいに流れてしまおうか……いいや、楽な方に流されちゃダメだ。これから……これからどうするか考えてよう」

シモンは気合を入れて考えてみる。

「まず狂神と戦う―――このスタンスは変わらない。でも僕一人じゃ勝つのは難しい。そこで必要になるのが偽神だ。でも三体の偽神は機体は大破している。機体があったとしても僕は神殺しから追放されている。部外者となった今偽神に乗る事は出来ない。それならどうする?」

シモンは己に問いかけ、たった一つの簡潔な答えを出す。

「強奪された四号機を僕が手に入れるしかない!! 僕にとって最悪最強の敵、聖理央の手に落ちた四号機を取り戻すなんて難しいけど……それでもやるしかない!! それに四号機を手土産にサフィーナ・ソフに戻ればもしかしたら神殺しに復帰できるかもしれない。そしてもう一度ルーナに会う。これを目標にしよう!!」

今後の方針が決まったシモンは地上に降り、目を閉じ座っている本体に飛び込む。肉体に戻ったシモンは自分の体の状態を確認するように大きく背伸びをして欠伸をする。

「……ついでにもう一つ……魔術を行っておこうか」

軽口を叩きながらシモンは立ち上がる。その動きは軽快で先程までの不安は感じられず目には生気が宿っている。目標が定まただけで気合の入り方が変わるという事だ。

その輝く瞳でシモンは幻視する。

偽神四号機が威風堂々起立する姿を。ソル・シャルムの工場棟跡地に作り出した『控室』に封印した炎人達が聖霊石に宿り魔術力を供給され存在を維持しつつ操縦者となる姿を。ルーナ達、他の偽神を支援しつつ強大な狂神と戦う姿を。装甲は剥げ肉は爆ぜ血は流れ骨は砕けそれでも意志は折れず戦い続ける偽の神のその雄姿を。

それらの事を細部まで完璧にイメージしそれを現実と重ね、強力な意志で現実から引き剥がされない様に固定する。そしてこの魔術名を口にする。

「……偽神四号機召喚……」

魔術名を口にする事でこのイメージはシモンの潜在意識に深く刻まれ深層世界の遥か彼方にまで波紋が広がる。それを確認するとイメージを打ち消し改めて荒野を見る。手元には何もないという現実を目の当たりにしてもシモンの心は折れなかった。シモンは両手で頬を叩き気合を入れる。

「ヨッシャ!! 行くぞぉ!!」

気合の掛け声とともに一歩を踏み出した。情報も何もないが己の行った魔術は偶然を引き寄せ偽神四号機に導いてくれる確信があった。



それから一時間―――

歩けど歩けど代り映えのしない光景にシモンは溜め息をつく。

「……おかしいなあ?」

やや大きめな岩の影に座り休憩をとるシモンが唸るように呟いた。自分の魔術の腕が落ちたのかと落ち込んでしまうが今は信じるしかない。

「悩んでいてもしょうがない……とりあえず水分補給しよう」

シモンの人差し指が銀色に輝く。そして水を召喚する為の五芒星を描こうとした時だった。馬の蹄の音が聞こえてきた。幻聴の類ではないと確信したシモンはニヤリとほくそ笑む。

「……やっと始まったか、偶然のドミノ倒し」

ようやく自分の魔術の効果が発揮されたのだと嬉々として岩の影から出てきたシモンは四頭の馬に乗った人物を確認する事が出来た。

「オ~イ、こっちこっち!!」

シモンは両手を振って声を張り上げる。そんな能天気なシモンの耳に風を切り裂くような音が聞こえる。シモンは咄嗟に岩の影に隠れる。次の瞬間、何かが岩にあたって弾かれ地面に落ちた。

「!? 何が!?」

地面に落ちた物を見て驚く。

「……矢? 矢を射ってきた!? 攻撃された!? 何で!?」

シモンは驚きながら岩から顔だけを出して襲撃者を見る。襲撃者は四人、各々が武器や鎧で武装しており剣呑な雰囲気を醸し出している。

「お前……シモン・リーランドだな!!」

襲撃者の一人が確認してくる。

「いいえ、違いますよ。それよりいきなり矢を射ってくるなんて何を考えてるんですか!?」

シモンは咄嗟に嘘をついた。いきなり攻撃を仕掛けてくる相手に自分の事を話さなければならない道理はない。顔を見合わせた襲撃者の一人が懐から一枚の紙を取り出す。そして紙とシモンを見比べる。

「やっぱりシモン・リーランドじゃないか!!」

「ばれましたか」

シモンはおどけるように舌を出す。その反応に襲撃者は少し安心したようだ。

「高い金を出して得た情報がガセだなんて笑えない。心底安心したぜ」

「情報? 誰から得た情報ですか? というかあなた達は一体どこのどなたで僕に何の用ですか?」

この言葉に襲撃者たちはまた顔を見合わせる。一人は頭の上で指をクルクル回す。頭がおかしいと言いたいらしい。それしシモンはムッとする。

「呑気な奴だ……まあいい、簡単に説明すると俺たちは賞金稼ぎ、お前は賞金首、そういう関係だ。だから名乗りはしない。それでいいだろ」

「まあ、あなた達の名前何て興味はないですから。それより教えてくれませんか? 僕にどうして賞金がかけられてるんですか?」

「そりゃあ、お前が町一つ滅ぼした張本人だからだろ。ドーセントの街、お前が滅ぼしたんだろ?」

「それ、本気で言ってます? 僕みたいな子供が町一つ滅ぼすなんて出来ると思います?」

シモンの問いに襲撃者は鼻で笑う。

「そんな事、俺たちにはどうでもいい。お前が無実だろうが何だろうが金が手に入ればな」

賞金稼ぎ達のその無慈悲な考え方にシモンは心底呆れた。この賞金稼ぎ達が倒した賞金首の中には無実の者もいただろうに。そう思うとふつふつと怒りが湧いてくる。

「何と言うか……もういいです。あなた達には話が通じないという事がよく分かりました。そんな相手と話していても時間の無駄、あなた達を倒して装備や食料、何より情報をいただきます」

「……盗人猛々しいって知ってるか?」

「余計なお世話です。ともかく話は終わり。後は……」

シモンは形意拳の基本的な構え、三体式の構えを取る。

「……無駄な抵抗をしなければもう少し生きていられるというのにな」

襲撃者たちも武器を抜いた。

口頭での話は終わり、これからは各々の武力、戦闘力で語り合うそういう段階に入った。











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