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魔術師転生  作者: サマト
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第八十九話 その頃……は核心に少し触れる

「……これはいい……何て面白いオモチャだ!! 偽神四号機!!」

偽神四号機と同調し高速で飛行している事で体中に感じられる風の感触、次々と通り過ぎる風景、体を巡る力強い魔術力、それらを一身に感じソルシエ・アスワド―――聖理央は非―人類らしからぬ高揚感に包まれていた。

そもそも飛行ところか空中浮遊は魔術、妖術はもちろんこの世界の魔法でさえ難しい。人に限らずほとんどの生物は地の属性持ちなのである。空中に浮かぶという事は地から風の属性に切り替える事でありそんな事は普通出来ない。それでも飛ぼうとするなら力技である。魔術力、妖力、魔法力を最大で放出して浮かせるしかない。でもそんな事をすれば数秒で力が尽きる。無理をすれば命に関わる。なのにこの偽神四号機は数時間の飛行を可能としている。しかも同調している者はほとんど疲労していない。こんな技術を目の当たりにすれば興奮するなと言う方が無理である。

「これだけの事が出来る偽神、一体どういう構造何だろう? 調べてみた限りでは聖霊石という未知の鉱石に魔術を施した事でこんな事が出来るようになったって事だけど……疑似魔術中枢とか言っていたな。それなら僕でも作れそうだ、カバラの生命の木を応用したものだし。だけど聖霊石は調べてみないと分からないな?」

聖理央は偽神四号機を空中で停止させ背後を振り返る。追跡者の影などある訳もなく、何の関係のない鳥が数匹飛んでいるのが見えるのみだ。それ以外はのどかな青空しかない。

「これならいいか?」

聖理央が放った炎の龍、あれは自身が作り出した人口精霊の中でが一番の力を持っている。あれを何とかしなければ追跡などして言える暇などないだろう。だが、あっちにはかつての敵の転生体、シモン・ローランドがいる。油断は出来ないと警戒していたが見誤っていたようだ。聖理央は一旦偽髪四号機を着陸させ構造を調べてみようとそう思い着陸動作に入ろうとした時だった。自分の根の深い部分で何かがブツンッと切断された感触があった。それと同時に全身を襲う激痛。

「ギヤァァァァァ!!!!! ゴレワァァァァァァ!!!!!」

突然襲った激痛で偽神四号機との同調を維持出来なくなる。その途端、偽神四号機はバランスを崩し、重力に従い落下し始めた。偽神四号機はルーナやメルのように人格が目覚めていない為、操縦者が同調を解いてしまえば身動きできなくなるのだ。

再び同調するにも激痛で意識が集中できない。そんな聖理央の脳裏に怒りと恨みの籠ったシモンの念が叩き込まれる。

(聖理央……こちらを散々苦しめてくれたんだ。その報いを受けて苦しめ!!)

これで聖理央は己の身に何が起こったのか悟った。

(炎の龍が倒されたのか!? そのダメージがボクに流れてきた。その流れに攻撃の念を混ぜて攻撃してきた!!)

聖理央は自分専用の武器イディオ・フォールを杖の形態―――『唱える者』の状態で召喚しイディオ・フォールを震える手で掴む。握った先から縦横無尽にひびが入る。それと同時に痛みが和らぐ。聖理央は偽神四号機の同調を再開し妖力を流し込む。地面に激突する直前で制御を取り戻すが再び浮遊するには時間がない。偽神の基本能力であり防御力が高い障壁を展開し落下の衝撃に耐える。

「……ふう、ひどい目にあった」

息も絶え絶えに呟く聖理央。術者と作り出された人工精霊には深い繋がりがある。その人工精霊が倒された時、そのダメージは全て術者に向かう。そのルールは当然術者も心得ている。心得ているなら当然その防御法も考えている物である。聖理央の場合それがイディオ・フォールである。人工精霊が倒された事によるダメージをイディオ・フォールにバイパスして全て流したのである。そうする事でイディオ・フォールが破損したが大した事はない。イディオ・フォールにストックされている魂は一万に迫る。百や二百、消滅したとしても害はない。

聖理央は偽神四号機を操作し片膝をついた状態で座らせ同調を解いて操縦槽の外に出て周囲を見渡す。前人未踏の大森林の中で生い茂る樹々が日の光を遮り周囲は薄暗い。

「追手が来るとは思えないけどこれなら隠れるにはもってこいだな」

次に己の惨状をみて顔をしかめた。全身傷だらけで血まみれになっていたからだ。痛みは先程より和らいででいるがこのままでは出血多量で動けなくなる。

「血と供儀は望むところだけどボクがこうなるのはいただけない……女性体も飽きてきたし本来の姿に戻ろうか。ちょうど『唱える者』を出しているし……」

聖理央は眼を閉じひびの入った『唱える者』に意識を集中する。そしてその中の魂からから自分の魂を検索し引っ張り出し己の体に重ねる。その途端体に変化が起こった。聞いてるだけでも痛々しい骨が折れるような音と同時に身長が伸び、女性特有の丸みのある体が男性特有の筋肉質な体になる。女性体から男性体に戻る事による肉体の変質を利用して傷を塞ぎ出血を止めた様だ。

「ふう……これでよし。やっぱり自分本来の体はよく馴染む……」

両手を上げ背伸びをして首を回す。

これがイディオ・フォールの更なる能力だった。『刈り取る者』で魂を刈り取りストック、そして『唱える者』でストックした魂を外に出し肉体をその魂に合うように変質させるのである。引き出した魂によって男性、女性に変わり人格もそれに合わせて変わる為、誰もその正体が聖理央だとは気づかないのである。

聖理央はサフィーナ・ソフが浮いてあるで老方向を見上げつつ呟く。

「しかしボクが作り出した人工精霊が倒されるなんて思ってもいなかった……魔法なんかじゃまず倒せない、シモンさんの魔術であっても難しいはず。それを打倒するなんて……」

聖理央の顔に笑みが浮かんでいた。

「……敵はこうでないと。簡単に滅ぼせる敵なんて面白くない。もっと苦戦して力をつけてもらわないと……その為にも……まずは偽神を調べてみるか」

敵を知り己を知ればを実行する。敵側最大の戦力である偽神を調べ利用、転用、あるいは複製が出来れば面白い事になる。物語なら燃える展開だろう。話を更に面白く、更に引っ掻き回す為調べる事一時間、聖理央は溜め息をついた。

「構造自体は簡単だ。聖霊石から出てくる魔術力を人工血液で循環させて人工筋肉を動かす。これぐらいならボクでも作れるな。後は……聖霊石か」

サフィーナ・ソフに侵入していた時も聖霊石については名前だけしか伝わっておらずでその構造についてはよく分かってはいなかった。

聖理央は偽神四号機の体をよじ登り頭部の仮面に手を伸ばす。そして仮面を外しその中に納まっている聖霊石を見る。そして聖理央の顔が驚愕に染まる

「これが……聖霊石だと……クックックッ……アーハッハッハッハ!!! まさか……これをこんな風に使っているとは……製造者であるボクでも考えもしなかった!! スゴイ!! スゴイよ!! これを考えた者は神をも恐れぬ悪魔の化身だ!! これの中のモノをどうやって除去したのやら……こんな事、シモンさんでも出来ない!! 出来るはずがない!! ……もう一度戻るか? いいや、それよりも……」

聖理央は仮面を頭部に戻し、操縦槽に戻り同調を開始する。偽神四号機を浮かせると再び高速飛行を開始する。サフィーナ・ソフのある方向とは正反対の方向へ飛ぶ。

(向こうがこんな思いもよらない事をしてくるならこっちもそれを上回る事をしなければ……)



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