第八十七話 『控室』に一緒に入るもの……長々とお待たせしました。
「……誰の技術を模倣したとかそう言う詳しい話は勘弁ね」
シモンはペロリと下を出しつつ話を進める。
「目の前に構築した異空間、これが『反省部屋』を魔術的に模倣して作り出した『控室』です。この中では入れられた霊的存在、精霊、悪霊などの行動、現象、思考全てが停止します」
「全てが停止って……それマズくないのか?」
炎人の一人が不安げに言うのだがシモンは首を傾げる。
「どうして? 行動、現象が止まるという事は炎の意識体を倒しても炎人さんが消滅する事がないって事じゃないですか? 消滅という現象も止まるので」
「あ、そうか」
炎人がポンと手を打つ。
「しかも思考が止まるから長い期間『控室』に入っていても精神が病む事もないし保存、維持するという意味では最適な異空間です」
「何と言うか……規格外な空間だな。今までどうして使わなかったんだ? 戦闘にも使えるだろうに?」
炎人のその問いに対しシモンは乾いた笑みを浮かべる。
「この『控室』、大本である『反省部屋』の劣化コピーで元とが戦闘用じゃないんですよ。それに対象の保存、維持に特化してるから仮に敵を閉じ込めたとしても弱体化する事が出来ないんですよ。今回のように味方に使うならまだしも敵には使えません。それに『反省部屋』にはあったある機能が『控室』にはないんですよ……」
「それ故の劣化コピーか? その機能って何なんだ?」
「『反省部屋』の性質を考えると分かるんですけどね」
「『反省部屋』の性質?」
話を聞いていたルーナ・カブリエルがウンウンと唸りながら考えふと気が付いた。
「もしかして今まさにやっている事? 考える事が出来ないって事?」
「正解。反省する為の部屋なんだから反省する為の思考までも停止してしまったら意味がないんだよね。『反省部屋』を作る事が出来た人は理論じゃなくて感覚で構築していたからその部分の構築の仕方を説明する事が出来ないし僕も解析出来なくて諦めた……」
言っているうちに前世の事を思い出しシモンは落ち込み肩を落とすが頭を振って意識を切り替える。
「ともかくこの異空間『控室』に入ってしまえば炎の意識体を殺したとしても消滅する事はありませんし僕が任意で『控室』から出さなければいつまでもその状態が維持されます。あなた達が次に気が付いた時には眼の前に偽神の四号機、あるいは四号機の精霊石がある筈です。ですからすかさず聖霊石の中に入って魔術力を補充して存在を維持するようにしてください」
「分かった!!」
炎人達の間で希望の火が灯る。だが希望を与えたシモン本人が水を差す。
「あと……一つ注意をしておきます。僕の意志とは関係なく『控室』が解ける場合があります。それは僕の身に不測の事態があった事を意味します」
「不測の事態だって!?」
「『控室』は僕に連動しているんです。それが僕の意志に反して解けたって事は僕によくない事態が発生した事を意味します。よくて重傷、最悪で……死を意味します……もし『控室』が解けてその時、眼前に偽神四号機が無かったらその時は……そうなったと思って下さい。そして自身の消滅を覚悟して下さい」
「……分かった」
炎人達は息を飲む。その身は炎に包まれているというのに背筋に寒気を感じた。少し驚かし過ぎたかとシモンは後悔するが努めて明るく話をする。
「ともかくそんな事態にならない様頑張ります。次に気が付いた時は皆さんが偽神四号機の操縦者です。そうなったなら一緒に戦い……狂神を共に倒しましょう」
この言葉に炎人が拳を振り上げ雄叫びを上げた。シモンは大した事を言っていないと思ったのだが、シモンの言葉は自然と言霊となり炎人たちを鼓舞し不安を払拭したのだ。
「さて……皆さんの元気が出た所で早速『控室』に入ってもらいましょう」
シモンがそう言うとシモンの前方に一一本線が入りそこを起点に左右に広がり四角い穴が開いた。そこが『控室』の入り口のようだ。その入り口から見える『控室』の中は何と形容すればいいか分からず不気味だった。だが、それで尻込みする者は誰もいなかった。シモンが作り出した物が自分たちに害をなす物ではないと信用する事が出来たからだ。炎人が『控室』の入り口に進もうとして立ち止まった。
「……そう言えばワルキューレさんもこのまま一緒に『控室』に入っていいのか?」
「そう言えばそうだった」
炎人達が身に纏うワルキューレの鎧や武器はシモンが召喚したワルキューレが変化したものだった。慌てて火の退去魔術を行おうとした時シモンの脳裏に慌てた感じの思念が叩き込また。
(待って下さい!! 私たちはこのまま彼らと一緒にこの異空間に入ります)
「? 何で?」
(勇猛果敢に戦う彼らを私たちは気に入りました。許されるなら今後も一緒に戦いたく思います)
「それは……自分の意志で決めた事?」
(はいっ!!)
はっきりと答えた事にシモンは驚きつつも思考の没頭する。
(僕が召喚した存在が自分の意志で動いている!? 僕が想像力で作り出した殻に火の力が込めたいわば魔術的な力が籠った武器のような存在なのにどういう事だ? ……コントロールできない存在何て危険極まりない。無理矢理にでも退去させるべきか。でも……)
炎人たちが愛おし気に鎧を撫でる姿を見るとそれも出来ない。
(無理矢理退去何てさせれば僕が悪役になってしまう。あり得ないと思うけど抵抗されても困るしな……)
「分かりました。ワルキューレたちの意志を尊重します」
ワルキューレたちの喜ぶ思念にシモンはこの選択は多分正解だと思った。
「じゃあ、俺たちは行くぜ」
「ええ、皆さん全員が入ったら入り口を閉じます。それで『控室』の中の物はすべて停止します。この中で偽神四号機の奪還を待っていてください」
「ああ、シモンを……サフィーナ・ソフで戦う神殺しのみんなを信じて待ってるからな」
「……ハイッ!!」
一人、また一人と炎人が『控室』に入っていく。そして全員が入ったことを確認してシモンは想念の力を持って『控室』の入り口を閉じる。更に幾重の鎖が控室を雁字搦めにしさらに南京錠を取り付け鍵をかけ施錠したとイメージして『控室』を完全に封印した。これでシモンが許可しない限り『控室』が開く事はない。例外はあるはそうならない様注意しなければならないが。
「さて、これで炎人さんの保護は終わり。後は……長々とお待たせしましたね」
シモンはルーナカブリエルが持つ二重螺旋の槍の先、二又の刃の間に固定されている者、炎の意識体を睨みつける。
「こちらの事など忘れて解放してくれればいいのだが……」
「そんな訳ないでしょう!!」
シモンは炎の意識体に突っ込んでいた。




