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魔術師転生  作者: サマト
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第七十九話 シモンの復活、そして卵の中から現れたのは……

「……駆けだしたはいいが……どうやってあれに攻撃しようか……」

アッシュが溜め息を付きつつボヤく。遥か上空にある炎の卵。あの中で炎の意識体が力を溜めている。力が溜まる前に殻を壊して本体を攻撃しなければ厄介な事になる。アッシュが放つ衝撃波は体の各所の連動がものを言う。一か所でも連動に失敗すると不発する非常にデリケートな技なのだ。正面からだったら問題なく衝撃波を出す事が出来るが真上に衝撃波を出すとなると成功率は著しく落ちる。この問題を解決するにはアッシュ本人が高所に立ち炎の卵との高低差を無くす他ない。炎に飲まれず無事な建物は幾つかあり屋根に登ったとしても高低差は埋めきれない。

「さて……どうするか?」

そんなこと考えているアッシュの体が急に重力から解放された。

「ナナナッ!?」

慌てるアッシュの体は一瞬にして数十メートル上昇する。このソル・シャルム自体高度の高い所を浮遊してるしシー・マーレー高速強襲する際も高い高度の風景に見慣れているはずなのだが己の体そのものが浮かぶ感覚に慣れておらず言い様もない恐怖に襲われる。アッシュが悲鳴を上げそうにあるが別の声が被さった。

「重たいなあ……アッシュおじちゃんは……」

そんな不満を訴えるのはルーナ・カブリエルである。ルーナ・カブリエルがアッシュの背後に手を回し持ち上げてくれたようだ。

「何も言わずに人をこんな高い所まで持ち上げるなっ!! 怖いだろうがっ!! それはさておきおじちゃんはヒドイッ!! 俺はまた二十代だっ!!」

足元が何もないという感覚に慣れていないアッシュの言動は少しおかしくなっている。

「そこ、強調するところ?」

「大事なところだっ!!」

「はいはい」

「ともかく真面目な話だ。俺の最大攻撃力を誇る衝撃波を出すには地面が必要だ。こうやってあの炎の卵の元に送ってくれるのはありがたいがこのままじゃ俺は役立たずだ。囮にしかなれない」

「囮か……それはいいかも」

悪い笑みを浮かべるルーナ・カブリエルにアッシュはゾッとする。

「……本気にするなよ……ルーナお嬢ちゃん」

「お嬢ちゃんは止めてっ!! でも足場があればいいんだね」

ルーナ・カブリエルがその場で飛行を止め空中で停止する。

「お嬢ちゃん一体何を?」

「ダーカーラーお嬢ちゃんは……もういい。私がやる事に度肝を抜かれてもらうからね」

ルーナ・カブリエルがそう言うと大地が激しく鳴動する。そしてアッシュの真下の地盤の一部が恐ろしいスピードで上昇してきた。真下から砲弾でも打たれたかのようなそのスピードにアッシュの血の気が引いた。こんなものが当たれば怪我じゃすまない。

「ルーナ嬢ちゃん早く逃げろっ!!」

今の自分はルーナ・カブリエルに運んでもらう荷物の様なものだ。足が地につかなけば逃げる事も防ぐ事も出来ない。まさに役立たずのお荷物である事にアッシュは情けなくなる。

「大丈夫だから……アッシュオ・ジ・チャ・ン」

小バカにするように言うルーナ・カブリエル。アッシュが一体どういう事だと聞く前に結果が出た。アッシュの足元数センチと言う所で岩盤がピタリと止まったのだ。

「これは一体……」

アッシュが足先で岩盤をつつくがピクリとも動かない。ルーナ・カブリエルが手を離しアッシュが岩盤の上に着地する。足場が崩れるのではという不安から四つん這いになるが崩れる気配はない。アッシュはゆっくりと立ち上がる。

「どう、アッシュおじちゃん? 足場出来たでしょ」

「これを……ルーナ・お嬢ちゃんが? どうなって……」

アッシュが岩盤の縁に立ち足元がどうなっているのかを見て驚く。巨大な氷の柱がせり上がり岩盤を押し上げアッシュのいた位置で固定しているのだ。

「どう? すごいでしょっ」

ルーナ・カブリエルが胸を張りドヤ顔になる。

ルーナ・カブリエルは水を操る事が出来る。水が操れるという事はその性質、つまりは気体、液体、個体等形状を自由に操る事が出来るのである。ルーナ・カブリエルは水を間欠泉が如く吹き上げ足場となる岩盤を押し上げ、アッシュの足元についた辺りで急速に凍らせ固定して見せたのだ。

「足場が出来るにはいいけど……融けるんじゃないか、これ?」

「私が存在するか限り大丈夫だから」

「これだけ水を操れるとは……これはお嬢ちゃんとは呼べんな」

「でしょう」

素直に称賛するアッシュの言葉に腰に手を当て胸を張りさらに鼻が高くなるルーナ・カブリエル。

「この位置なら高低差はない。俺でも攻撃が出来る。ルーナお嬢……じゃなくてカブリエルはどうする?」

「……私はもう少し近づいて攻撃する。アッシュおじちゃんは私の援護をお願い!!」

アッシュの返事を聞く前にルーナ・カブリエルは上昇し炎の卵に向かって飛翔する。

「おじちゃんは止めてくれって言うのに……意趣返しか? まあいい、俺は俺の仕事を果たそうか……気をつけろよ、ルーナ……カブリエル」

アッシュはお嬢ちゃんと言いそうにありながらも長剣を構えた。



シモンは仰向けに倒れつつ眼を閉じ、意識を内面に向ける。五つの魔術中枢の状態を見て顔をしかめる。それぞれを象徴する色の光を放っているはずなのだがその光が今にも消えそうになっている。このままでは魔術は愚か生命の危機である。原因はソルシエ・アスワドの武器、イディオ・フォールでアストラル体を傷つけられた事、そんな状態で喚起魔術を行い大天使カブリエルを召喚した事。その時点で魔術力は底をつきかけている。魔術力が付きかけた状態でルーナ・カブリエルに魔術力を与えた事で本当に底をつく。気力、魔術力、体力共に限界、今すぐ意識を手放してしまいたくなるがそんな甘えは通用しない。

シモンは四拍呼吸を開始する。四秒息を吐き、二秒息を止め、四秒息を吸う。それだけの簡単で規則正しい呼吸法を来ない体も心もリラックスさせていく。大気に満ちる魔術力を吸い込み頭上数センチの位置にある魔術中枢に集める。集まった魔術力を底なし沼のように吸い込み少しづつ輝きを取り戻す。このタイミングでシモンは呪文を唱える。

「エー・へー・イー・エー」

呪文の振動が魔術中枢を震わせ光の強さを最高潮に高めていく。それを確認したシモンは光の一部を意志の力で移動させのどの魔術中枢に移動させていく。力が弱まっていたのどの魔術中枢も貪欲に光を吸収し輝きを取り戻してく。そしてシモンは呪文を振動させる。

「イェー・ホゥー・ヴォー・エー・ロー・ヒーム」

さらに二つの魔術中枢で増幅した光を胸の中央にある魔術中枢に送り輝きを回復、そして四つ、五つと全ての魔術中枢の輝きを回復していく。五つの励起した魔術中枢が全身に魔術力を行き渡らせ体が活性化していく。ゆっくりと体を起こし立ち上がるが眩暈や倦怠感はない。両手閉じたり開いたりしながらシモンは呟く。

「籠手から槍に」

その言葉に反応しシモンの両手を補助してくれていた精霊の武具は籠手から二メートルほどの槍に切り替わる。精霊の武具の補助がなくなりシモンは指一本動かせない筈だが普段と同じように動かせていた。魔術中枢が輝きを取り戻した事により傷つけられたアストラル体も回復したようだ。

「これで僕も戦える……」

下腹に力を籠めつつそう呟くシモン。頭上の炎の卵を見上げると氷の柱の上からアッシュが衝撃波を、ルーナ・カブリエルが高速移動をしながら水の刃は放ち攻撃しているのが見えた。それだけの攻撃を受けても炎の卵の殻はびくともしない。

「それだけ防御力を上げているという事か……マズいな」

シモンの魔術知識からこの炎の殻を打ち破るものは何かないかと考える。そして水の五芒星を描き呪文を唱えようとした時だった。


―――ピシリッ


そんな音が聞こえた。

「これは炎の卵からか? 二人の攻撃が徹ったのか? ……違う、あれは内側から破られたんだ。炎の意識体の孵化が始まったんだ」

炎の殻は更にひび割れていきバンッと内側から破裂した。破裂した炎の殻は四方八方に飛び散り火災を引き起こす。そうはさせじとルーナ・カブリエルが水を操り一瞬にして全ての炎を鎮火させた。

「被害はほとんどないな、よかった……だが……」

炎の卵の中から出現したもの、それは蛇の様でありながら蛇とは違う特徴があった。蛇のような長い胴体を持ち合わせているが、それには細い四肢を持ち爬虫類の様な顔立ちそして立派な角と髭を持ち合わせていた。それはこの世界にはいない筈のもの。シモンの前世では見覚えがあるものだった。

「あれはまさか……龍か?」

シモンが見上げた先にあったのは西洋で表現される竜ではなく東洋で表現されている龍だった。







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