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魔術師転生  作者: サマト
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第七十七話 ルーナ・カブリエル

「ルーナちゃん!? ルーナちゃん!!」

インディ・ゴウ・メルクリウスことメルがルーナの聖霊石に強く呼びかけるがルーナの精霊石は沈黙している。

―――五芒星の大儀礼。この世界の魔法とは系統が違う異世界の魔法。それ故異常が起こった場合どのように対処すればいいのかメルには分からなかった。ブーケ・ニウスの精霊石はルーナが五芒星の小儀礼で結界を作り出した時点で起動停止している。ブーケ・ニウスは自分たちのように完全覚醒しておらず、危機的状況において一時的に覚醒したにすぎない様だ。安全と分かった途端機能を停止し沈黙してしまった。

「……どうしよう?」

そう言えばルーナはシモンの声が聞こえたと言っていた。自分には聞こえなかったがシモン側はこちらの様子が分かっているのかもしれない。メルは結界内で大声を上げる。

「シモンさん、聞こえてますか!? ルーナちゃんが大変なんですっ!!」

シモンからの返答はなかった。

「やっぱり……ダメだ……どうしよう」

悩むメルの前で何の前触れもなくルーナの聖霊石に変化が起こった。細かく振動したかと思ったら内側から銀色に発光し結界内を強く照らしたのだ。

「……ルーナ……ちゃん?」

驚くメルを尻目にルーナの精霊石の発光はさらに強まる。結界内に広がる光が凝縮し人の形をとる。大きさは三十センチとそれほど大きくはない。容姿は黒髪黒目、サリナ・ハロウスとうり二つ。丈の長い蒼いローブを身に纏い、広い帯を腰に巻いている。そして一番驚くのが背中に生えた二対の翼。人の形を取ってはいるが人とは違う特徴、魔術師でなくても分かる強大な力に驚きメルが掠れた声を出す。

「ルーナ……ちゃん……その姿……」

メルを見下ろすルーナがニヤリと笑う。

「フッフッフ……これぞプレーナ、ノワに続く第三形態、大天使モード!! 名付けるなら今の私は……ルーナ・カブリエルだよ!!」

シャキーンとポーズをとるルーナの後ろで何かの爆発を幻視したメルは乾いた笑いでこういった。

「アー……いつものルーナちゃんだぁ……」

「いつものってどういう意味?」

頬を膨らませて睨むルーナにメルは縮こまりつつも内面が変わっていない事に安心する。

「そ、それよりルーナちゃんのその姿って一体?」

「この姿は……お兄ちゃんが送ってくれた秘密兵器、大天使カブリエル。カブリエルと私が融合した姿、それが今の私」

「その姿になって……ルーナちゃんは大丈夫なの?」

「大丈夫どころか……すごい力が溢れてるよ。これなら真上の炎に勝てる」

自信ありげに笑い両手を握りしめるルーナ。

「確かにこの力なら……でも油断しちゃダメだよ」

「ウン、分かってる……メルちゃんはここで待ってて。結界内なら安全だから」

「今の私じゃ何も出来ないしルーナちゃんに……いや、ルーナ・カブリエルに期待させてもらう」

メルの期待に答えるようにルーナ・カブリエルは朗らかに笑う。

「期待してて……じゃあ行ってくる!!」

ルーナ・カブリエルがが目を閉じ意識を集中すると銀色の光に包まれる。そして次の瞬間には消えていた。瞬間移動したようだった。

「頼んだよ……ルーナ・カブリエル……」

メルは虚空を見上げ祈る様に呟いた。



ルーナ・カブリエルが銀の光に包まれて出現したのは業火の中だった。敵が炎である限り水の属性を持つルーナ・カブリエルはガン細胞とも呼べる存在だ。そんな存在を敵が見逃しておくはずはなく周りから細く鋭い熱線が放たれルーナ・カブリエルを貫こうとする。

「危ない!!」

ルーナ・カブリエルが熱線を避ける。さらに熱線が放たれるがルーナ・カブリエルの機動力を駆使して縦横無尽に避け続ける。体の小ささが幸いして熱線はかすりもしない。もし当たったとしても無意識のうちに偽神と同等の不可視の障壁を展開しており熱戦や炎によるダメージはないのだが。

「敵はどこだ……どこにいる」

ルーナ・カブリエルは火の力が最も強い場所を探し炎の中を飛翔する。そしてある場所にたどり着いた。

「ここは……」

そこは偽神の格納庫。その中央に青白い火球があった。それが火の力を最も強く発していた。

(これが炎の意識体か……)

その火球は偽神の機体を体に取り込み熔解していた。これが炎の意識体の捕食の仕方だった。これを見たルーナ・カブリエルは激しく憤った。

「私の……私たちの体を貪り食うなぁ!!」

ルーナ・カブリエルは右手を掲げる。右手に水の魔術力を集中し青白い火球に向かって跳躍、手刀を振り下ろした。正反対の属性が鍔迫り合いあっさりと水が勝利した。ルーナ・カブリエルが炎の意識体を真っ二つに切り裂いたのだ。これで業火は消化される灯ったが依然業火は消えてない。それ所か火力が強まりさらに燃え盛っている。

「これは……?」

周囲の変化に警戒していたルーナ・カブリエルの足元から火柱が立ちルーナ・カブリエルを包み込む。青白い火球は囮だった。倒したと油断させた所で真下から火柱を発生させルーナ・カブリエルを焼き尽くす算段だった。だがルーナ・カブリエルが展開している障壁を打ち破る程の火力は出ておらずをその実は焼かれる事はなかった。そこで炎の意識体はルーナ・カブリエルの焼却を諦め排除する事に切り替えた。そのまま真上に持ち上げて業火の外に排出したのである。

「クッソーッ!!」

ルーナ・カブリエルの悔しげな声が遠のいていく。それを嘲笑しながら見上げる炎の意識体にルーナ・カブリエルの怒りの思念が叩きつけられた。

(私たちの体を貪り食った代償はキッチリ払ってもらうからね……覚悟して待ってろ!!)



業火が空に向かて吐き出された銀色の光は方向を変えシモンのいる方向に飛んできた。

「なんで!? あの波動は間違いなく大天使カブリエルのものだ。炎の意識体に向かって攻撃するよう喚起したはずなのに何でこっちに?」

そんな疑問を口にしている間に銀の光はシモンの足元に着地した、銀色の光がゆっくりと収まっていきそこに全長三十センチの小さな天使が顕現する。頭上の光の輪っかに背中に二対の白い翼。丈の長い青いローブにカブリエルの名を飾った広い帯、シモンがイメージ構築したカブリエルに間違いないのだが何故こんなに縮小されているのか。シモンが首を捻っているとカブリエルはやや甲高い声でこんなことを言ってきた。

「オニイチャン、オニイチャン」

「? お兄ちゃん? 僕の事?」

「ソウソウ、オニイチャン!!」

「大天使に兄弟なんていないんだけど……僕の前世のさらに前世はもしかして天使だったのか……」

的の外れた予想をするシモンにカブリエルは呆れたというように肩をすくめる。

「モウショウガナイナ」

カブリエルが溜め息を付きながら言うと再び銀色の光に包まれる。手で目を覆ってもそれを貫く強い光におののくシモン。しばらくして光が収まり手をどかすとそこには自分より頭ひとつ高いくらいの少女が立っていた。見覚えのある少女にシモンは驚き震えた声で呟いた。

「まさか……ルーナなのか?」

「お兄ちゃんっ!!」

天使カブリエルの姿となったルーナがシモンに飛びついた。ルーナの姿の変貌に思考が付いていく事が出来ず、タックルの勢いを殺す事が出来ず絡み合うように転倒した。

「イタタッ……ってルーナに……大天使カブリエルに触る事が出来る!? 感触がある!?」

「お兄ちゃんが私に送ってくれた大天使カブリエルと融合出来たからお兄ちゃんと触れ合う事が出来るようになったよ!! 偽神の時はこんなことできなかったしタップリ甘えちゃうよ」

ルーナはシモンの頬に自分の頬を擦り付けながらゴロゴロ喉を鳴らす。

「これは……」

シモンはルーナカブリエルの頭を撫でながら思う。シモンの前世、志門雄吾の親友に仙道という特殊な術を実践する男がいた。その男は生命エネルギーである『氣』を物質化するまで凝縮して作り出した『菜薬』と呼ばれるものをさらに加工して分身を作り出す陽神の術というものを見せてくれた。その分身は本人であるかのように会話する事が出来、触る事も出来た。今のルーナは陽神の術と似たような感触があった。

「ルーナ……今の姿は一体?」

ルーナがそのセリフをを待っていたというように飛びのくとビシッとポーズをとる。

「フッフッフ……今のは私はルーナに非ず!! プレーナ、ノワに続く第三形態。大天使カブリエルと融合した……その名もルーナ・カブリエルだぁぁぁ!!」

戦隊ヒーローの様なポーズをとるルーナ・カブリエルの背後で爆発が起こる。

(そこまで戦隊もののセオリー踏まなくても……というか水の天使なのに何で爆発を起こせるんだ? って違う!?)

「炎の意識体がメッチャ攻撃してきてる……」

業火から無数の火の塊が打ち出されている。この一発一発が上級魔法に匹敵する威力があるのだがルーナ・カブリエルが展開している防御壁を超えてくる物は一発としてなかった。

「……お兄ちゃんと久しぶりにお話ししているのに……邪魔をするなぁ!!」

ルーナカブリエルが怒りを露わにし左手を後方の業火に向ける。その動きに反応し防御壁の前に巨大な水の壁が展開される。水の壁に火の塊に衝突し一瞬にして蒸発する。急激に膨張した水の壁は水蒸気爆発を引き起こす。だが水蒸気も水である以上ルーナ・カブリエルには操る事が出来た。水蒸気爆発の威力をそのままに方向だけを変更させた。つまり水蒸気爆爆発の威力が業火に向かって放たれたのだ。その威力は火の塊を消滅させ業火の一部を消火させる。防御と攻撃を兼ね備えたルーナ・カブリエルの見事な術だった。

「これなら……勝てる。ルーナ……カブリエルはこのまま炎の意識体と戦って。僕は援護に回るけど……いい?」

「任せてよ!! 何だったらお兄ちゃんはこのまま休んでてよ!!」

ルーナ・カブリエルを背中の翼を広げ業火に向かって飛翔した。シモンはルーナ・カブリエルを援護すべく魔術の行使を開始しながたこう思った。

(僕は喚起魔術を行ったはずだけど………何がどうしてそうなったのか本当に召喚魔術になってしまった……でも結果オーライ!! 良しとしよう)





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