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魔術師転生  作者: サマト
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七十四話 死闘開始

魔術力を集中した途端、熱気がルーナを襲った。

「アッツゥ~ッ!!」

ルーナは慌てて魔術力の収束を放出に切り替えて熱気の伝導を防いだ。

「フゥーッ……危なかった。でもこのままじゃ五芒星の小儀礼と大儀礼が出来ない……どうしよう」

魔術力を放出する事で形成した簡易結界は持続性がない。精霊石の中で生成するより外へ放出する魔術力の方が多い。魔術力で起動するルーナにとっては魔術力が尽きるのは致命的だ。でも今魔術力の放出を停止し、熱気に身を晒すのもまた致命的だ。

「どうしよう……」

八方塞がりのルーナの背後から沈んだ声が聞こえた。

「……ルーナちゃん……」

心臓がある訳ではないのだがもしあったら飛び出すぐらいルーナは驚いた。気配からインディ・ゴウ・メルクリウス―――通称メルの精霊石が再起動したのが分かる。

「メメメメルちゃん!! 目を覚ましたんだ、よかったよぉ!!」

ルーナは喜ぶがメルは目に見えて沈んでいた。

「? メルちゃん、どうしたの?」

「ルーナちゃん! ゴメンなさい!!」

「ゴメンなさいって一体なんの事?」

「体が壊されても自己修復が出来るはずなのに……あの人が投げた変な槍は自己修復機能を阻害してきた。自分の体が壊れていく恐怖に動けなかった。あの時ルーナちゃんがいち早く動いて助けてくれなかったら……」

己の体が壊れていき、核となる聖霊石にまで破壊が及んでいたら……メルは訪れたかもしれない死に恐怖していた。

「……ルーナちゃんは……どうしてあの時動けたの?」

声に怯えを含ませながらルーナに尋ねた。

「どうしてってそれは……経験済みだからかな」

「経験済み!?」

ルーナは過去に狂竜神との闘いで体を完全に破壊されたが仮面だけは生き残り、その状態から完全再生をはたした事がある。この経験から体を失っても仮面が、仮面が失われても聖霊石が無事なら何とかなる事が分かっていた。だから自己修復が出来ないと分かったらすぐに機体を捨て、仮面にまで破壊は及ぶと分かれば仮面も捨て聖霊石の状態で脱出、更にはメルやブーケ・ニウスの仮面から聖霊石を抜き取り地下に逃れるという臨機応変な対応が出来た。

「ルーナちゃんはスゴいね……それに比べて私は……」

メルの声がさらに沈む。このまま地面に沈んでいきそうな勢いだった。落ち込んでいる暇はないのだがこのままではメルは立ち直れない。どうするべきかとルーナは思案する。

「……そんなに自分を責めない。責めるくらいなら働きで返すべきだと思うよ」

「働くって……どうすればいいの?」

「体で返してもらうって事」

「体で返すですってぇ!?」

メルが素っ頓狂な声を上げる。そこまで驚かれた事にルーナも驚き一瞬沈黙する。

「えっと……メルちゃん、何をされると思ってるの?」

「ナニをって……ねえ」

「ねえって言われてもナニよ……ってもういい!! 回りくどい事話は無し!! 話が進まない!! 私がしてほしいのは私の代わりに魔術力を放出して簡易結界を維持してほしいって事なんだけど……何をされると思ったの?」

「えっ、そうだったの? ……トウゼンワカッテタヨ、ヤダナーモウ……」

メルは棒読みでそう言った後一度咳き込み身を整える。

「ともかく分かったよ。ルーナちゃんみたいに魔術力を放出すればいいんよね」

そう言うとメルの精霊石から魔術力が放出されたのだが……。

「……もう少し強く放出できないかな?」

ルーナは申し訳なさそうに言う。

「これで精一杯……ゴメン、ルーナちゃん」

これまたも申し訳なさそうにメルが言う。

「……そっか……」

簡易結界の維持を任せるにはメルの魔術力は弱すぎた。ルーナはアストラル界で魔術の修行をした事により魔術力が増大しており更に操る能力も上がっている。魔術力をただ放出するのではなく循環、増幅、収束してから放出という工程を行っている為、外の炎の熱気を防げるぐらいの魔術力を放出出来るのだがメルはその工程が出来ておらず魔術力が弱い。このままでは魔術を行う事が出来ない。いずれ魔術力が尽き、炎の熱気に焼かれてしまうだろう。そうなる前に何とかしなければならないが方法がない。

「「どうしよう……」」

ルーナとメルから不安が漏れたその時だった。何の前触れもなくブーケ・ニウスの聖霊石から魔術力が放出された。今だ人格が目覚めていないブーケ・ニウスの精霊石は救い出してからはうんともすんとも言わない状態だった。それが何故このタイミングで目覚めたのか分からないがこれなら何とかなる。

「メルちゃん! それと……ニウスちゃん、二人で簡易結界を維持して! その間に私はお兄ちゃんに言われた魔術を行う」

「分かった!」

「……」

メルは力強く答えたがブーケ・ニウスは無言だった。人格は未だ目覚めていない、半覚醒ともいせる状態なのかもしれない。いつ起動停止するか分からない、急ぐべきだとルーナは魔術力を内に集中し呪文を詠唱する。

「アテェー・マルクト……」



一方シモンは視覚を物理次元に戻す。急激な視界の変化に眩暈を起こすが目頭を押さえ視調子が戻るのを待つ。

「大丈夫か、シモン?」

こちらの不調を気配で察知したのかアッシュが炎を睨みつつシモンに言う。

「ええ、大丈夫です。それよりも炎の中のルーナと連絡が取れました」

「それ、本当か? どうやって」

「それは後で。それより僕が魔術を行っている間、僕を守ってください」

「それはいいが……一体何をやるつもりだ?」

「炎の中に水を召喚します」

「炎の中に水を召喚? そりゃ無理だろう!?」

アッシュが素っ頓狂な声を上げる。魔術はもちろん魔法でも門外漢であるアッシュでも分かる。火の領域で正反対の水を召喚するなんて普通は無理だ。

「普通は無理だけどルーナと協力すれば出来るはずなんです。だからそれまでアッシュさん、護衛お願いします」

「分かった、任せろ!!」

こっちの仕事はシモンの護衛、それが分かれば後はやるだけ。アッシュはロングソードを中段に構える。

「アテー・マルクト……」

アッシュの背後でシモンが呪文の詠唱を始めた。この詠唱と魔術力の高まりを感知した炎はそれを敵対行動とみなし攻撃を開始した。己の体から延ばした炎のムチがシモンを襲う。だが、アッシュはそれを許さない。シモンの間合いに入った炎のムチに向かって剣を振るう。音速を越えた剣先は衝撃波を発生させ炎のムチを全て打ち消した。

「お前の相手はこっちだ!!」

さらに衝撃波を発生させ炎本体にぶつけるが炎本体を消滅させるには至らない。どちらの攻撃も敵を倒すには至らない膠着状態を作り出す。今しばらくこの状態を維持すればシモンの魔術が完成する。それをただ待っている炎ではなかった。炎は邪悪とも言える手段を講じた。

己の体から作り出した火球およそ五十体、それを地面に向け砲撃する。だがその火球は威力がなく、アッシュやシモンから狙いが外れている。

「何だ……この攻撃は? 俺たちを狙ったものじゃない?」

アッシュの疑問に答えるかのように火球に変化が起こる。火球が歪み枝分かれし何かの形になる。

「これは……人か? 人を形作っているのか?」

確かに火球は二本の足で立つ人の形となった。そしてノペッとした顔面に凹凸が出来る。顔が分かる様になってアッシュは嫌悪に顔を歪めた。

「テメェ……」

炎で出来た人、炎人えんじんとでも呼ぶべきだろうか。炎人の顔は全て見覚えがあった。それもそのはず、炎人の顔はここで働いていた作業員の顔だったのだ。炎人は苦し気に顔を歪め火の涙を流しながらアッシュに詫びる。

「アッシュさん……ゴメン!!」

そして襲いかかった。

「クッ」

アッシュは遅いかかかってきた炎人に衝撃波をぶつけ炎人を消滅させた。

「……そういう腹か……」

アッシュは苦しげに呻く。

「アッシュさん、すまない……」

周りにいる炎人は全て詫びながら火の涙を流しそして襲いかかる。

「やりたくないのに……体がいう事を聞かないんだ……アイツに支配されてる……すまない」

炎人が襲い掛かる度にそう詫びる。それを聞きながらもアッシュの動きは僅かに鈍る事もない。襲い掛かる炎人を無慈悲に切り裂いていた。あまりの遠慮のなさに炎人が後退る。そんな炎人にアッシュが啖呵を切る。

「何を逃げようとしている!! あの炎に支配されてる!! 俺を殺す!? 上等だ、かかってこい!! 狂神に大事な人を殺された時、俺たちも死んだ……俺たちは復讐を糧に生きる死人だ、神殺しだ!! 死んだ人間が俺に切られるのを恐れてどうする!! お前らがどう思おうと俺はお前らを遠慮なく殺すぞ!! それを待つぐらいなら俺を殺しに来い!! お前らの全てをかけて俺を殺してみろ!!」

アッシュの啖呵を聞いた炎人達が沈黙する。そして次の瞬間、大爆笑が起こった。既に体がない、炎に支配されているというのに邪気のない快活な笑い声は清々しささえあった。ひとしきり笑いそれが収まった時、炎人の誰かがこういった。

「行くぞ……」

その声に罪悪感はなかった。文字通り闘志を燃やしている。一方アッシュは何十体という強敵を作ってしまったというの全く後悔していなかった。それどころか凄みのある笑みを浮かべ闘志を燃やしている。

「オウッ!! 気合入れてかかってこい!!」

アッシュが炎人の中に突っ込んだ。炎人達がアッシュを燃やし尽くさんと集団で襲い掛かる。

死闘が開始された。 










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