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魔術師転生  作者: サマト
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第七十二話 アッシュ、サリナ対邪炎 膠着状態をやぶるものは?

「もうちょっと移動手段を考えるべきだな……」

シモンはソルシエと戦った広場からソル・シャルムにある偽神格納庫まで走って向かっている訳だが距離がべらぼうに長い。既にニ十分ほど走っている。ソルシエとの戦闘後の長距離走など罰ゲームに近い。だが、ルーナの悲鳴に近い思念を傍受した後、こちらの思念に全く答えなくなったルーナが心配だ。シモンは疲労に耐え長柄体を動かす。そしてソル・シャルムに近づくにつれ何かが焼けこげたような匂いが鼻を突くようになった。

「何かが燃えている……まさか!?」

シモンは走る速度を上げる。そしてソル・シャルムの工場棟にたどり着いたのだがそこには絶望的な光景が広がっていた。

「……燃えてる」

シモンが呆然と呟いた。紅蓮の炎が全てを焼き尽くさんと燃え盛っていた。工場棟と偽神の格納庫は繋がっており炎は当然格納庫にも及んでいる。

「オイ、ボサっとしていないで早く……」

消火にあたってるであろう魔法使いがシモンの肩に手をかけどかそうとして言葉を詰まらせる。黒ずくめにドクロの仮面をつけたシモンが怪しすぎたからだ。火をつけた犯人かと怪し気に睨まれシモンは誤魔化すように笑いながら後じさり踵を返して逃げ、建物の陰に隠れる。顔だけを出して様子を見るが追いかけてくる様子はない。怪しげな相手を追いかけるより消火作業の方を優先させたのだろう。

工場棟の周りでは何十人と言う魔法使いが水や氷の魔法を発動させ炎にぶつけているのだが炎に届く前に蒸発してしまっている。微々たる力では消されはしないとあざ笑うかのような紅蓮の炎を悔し気に睨む魔法使い達。

「クソッ、この炎なんでで消えないんだ!?」

「文句言いう暇があったら呪文を唱えろ!! 喋っていても火は消えないぞ!!」

魔法使いたちは魔法力が尽きるまで呪文を唱え、水や氷の魔法をぶつけているが炎の勢いが衰える気配は一向にない。

魔法力が尽きた事により疲労感が全身を襲い膝をつく魔法使いたち。天を焦がす炎を悔しげに見上げる魔法使いたちの背後にから凛とした声が響いた。

「みんな大丈夫!!」

そこに現れたのは現偽神操縦者であるサリナ・ハロウスとアッシュ・ローランスであった。

「アッシュさん……サリナちゃん……」

この二人ならこの炎を何とか出来る、そう思わせるだけの実力を持つ二人を見て魔法使いたちは心の底から安堵する。

「……しかしこの炎、俺じゃ消火は出来ないな。サリナ何とかなるか?」

顎を手で擦りながらボヤくアッシュにサリナは自慢げに胸を張る。

「当然でしょ、任せて!!」

そう言うとサリナは持っていた魔法杖を炎に向け目を閉じ意識を集中する。小柄な体格からは想像がつかないほどの強力な魔法力を体から迸らせる。そして最高潮に高まった所で呪文の詠唱を始めた。

「我、凍てつかせる者たちに請い願う 我と汝の契約を持ってかの者を凍てつかせ死と静寂を与えん事を……」

呪文の詠唱が終わり魔法が発動する。変化は空に起こった。見えない何かが空に浮いている雲を切り裂き炎に叩きつけられた。それは浮遊している島、サフィーナ・ソフより更に上空から引き寄せられた凍てついた空気だった。炎で燻られた空気が一瞬で冷え、吐く息が白くなる。水蒸気が凍り結晶化していた。凍てついた空気が炎に纏わりつき炎の勢いが弱まるのが目見えて分かった。これで炎が消えると誰もが思ったがシモンはそう思えなかった。シモンには炎が力を溜めているとそんな風に感じられた。次の瞬間シモンの勘が当たっていた事が証明される。突然炎が勢いを盛り返したのだ。一旦は勢いを弱めた炎が巨人の大剣が如く火柱となり天に昇る。天へ昇った炎の柱は凍てつく空気を真下に送る精霊を攻撃したのだ。火柱によりは精霊は一瞬にして焼かれ消滅した。精霊のダメージはそのまま術者であるサリナに向かう。サリナは全身を炎で焼かれたような激痛に襲われその場で倒れ悶え苦しむ。炎の攻撃はそれで終わらなかった。天に昇った炎は向きを変え今度は真下につまりサリナを本当に焼却しようとしているのだ。空から降り注がれる地獄の業火、それを防げる魔法使い誰もいない。そこに魔法使いではないアッシュがたった。

アッシュがサリナを守る様に前に立ち腰に差したロングソードを抜く。それは無銘であるものの名工が鍛え、更に幾多の剣士に使われ年月により砥がれた良業物であった。そこにカルヴァン程ではないにしろ達人の領域にいるアッシュが剣を振るえばそれは―――。

アッシュはロングソードを左脇に、切っ先を下に向けて持つ。そして魔法力を持って身体能力の強化を図り倍増した力をたわめる。そして体を一瞬沈め、そして持ち上げるタイミングでロングソードを振り上げた。身体強化による力の強化、それに体の各所を連動させ振り上げたロングソードの剣速は音速を超える。音を越えた事により発生した衝撃波が落下してくる炎を迎え撃つ。炎を駆逐し天へと昇る衝撃波。その姿はまさに昇竜だった。そのままアッシュはロングソードを上段に構え振り下ろした。発生した衝撃波が工場棟を燃やす炎に向かう。アッシュの目的は火元となっている工場棟の破壊だった。水や氷などで火を消せないのなら火元を破壊する、アッシュが知っているわけはないが江戸時代の火消しと同じ事を実行しようとていた。アッシュほどの腕前なら衝撃波を五、六回も放てば工場棟の破壊も出来るだろうが炎は思いもよらない動きを見せた。サリナを攻撃しようとしていた炎を本体に戻し火力を上げ衝撃波を迎え撃ったのだ。強力な火力に衝撃波は威力を維持できず消滅、いや食われてしまったの。それならばとアッシュは更に衝撃波を叩きつけるが炎を打ち消す事は出来ず膠着状態となってしまう。

こちらを敵と認識し攻撃してくる、衝撃波を防御するために己の火力を上げる、思いもよらない器用さを見せる炎、これはただの炎ではないと誰もが感じていた。魔法も物理技も通用しないとなるとこれらの力とは違う別種の力が必要となる。そんな力を使用できる人物、アッシュは一人しか知らない。アッシュは炎を睨みつけながら周りで倒れている魔法使いに呼び掛ける。

「オイ、誰か動ける者はいるか? いたら誰かシモンを探して来てくれ。アイツの力が必要だ」

「……それには及びません、ここに居ます……」

そう言ってシモンは建物の影から出てアッシュの横に立つ。

「よかったシモ……ン? 何だその恰好……確か武術大会に出てたハサンとかいう奴の……」

シモンの姿を見たアッシュが怪訝な顔をする。シモンは未だ変装を解いておらず黒ずくめの服にドクロの仮面を被っているのだから変な顔をされるのも当然だろう。ややこしい話になる前にシモンは仮面を脱いで無理矢理話を進める。

「その事は置いといて下さい。それよりも意志を持っているかのようなこの炎……確かにこれは僕が対処すべき案件です」

「そうか……俺もサリナもこいつには適わなかった。悔しいが……後は頼む」

「任せて下さい……と言いたい所ですがこちらの魔術の行使を敵対行動と見なして攻撃してくるかもしれません。その時は僕を守ってください。アッシュさんの技は有効ですから」

「護衛という訳か。分かった、任せてくれ」

「お願いします!!」

シモンは目を閉じ四拍呼吸を行い全身をリラックスさせ魔術力を練り、魔術行使の準備を始めた。









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