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魔術師転生  作者: サマト
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第七十一話 四号機強奪、そして新たな疑問?

『貫きし者』を防ぐのではなく受け流す。それを実行する為にはいくつかの手段が必要だった。

第一に火の魔術により周囲の空気を温めた事。攻撃魔術は『貫きし者』の能力で吸収されてしまうが既に起こった現象は吸収できないのではと考え実行した。火の魔術で空気が暖められた事により発生した陽炎と風は予想通りに吸収する事が出来なかった。『貫きし者』を投擲する前に発生させた陽炎はソルシエの距離感を誤認させた。魔法使いであると思われるソルシエは気配を察知、あるいは魔術や魔法の波動を感知する能力があるはずだがそれよりも確実な情報機関すなわち目に頼ってしまったのである。その為、距離間を修正出来ず標的であるシモンからほんの少しずれた位置に投擲してしまう。それでも『貫きし者』が纏う妖力の衝撃波で死は免れない。

そこでその後に起こった突風が生きてくる。『貫きし者』が妖力を波動として放つ系統の物だったら意味がなかったが妖力を身に纏い威力を強化する物であった為風が有効だった。『貫きし者』は突風の影響を受けさらにシモンからずれる。

そしてキモとなるのが銀のタワーシールド。正面か見ると大きめのタワーシールドだが側面から見ると別の形をしている事が分かる。漢字の『入』をイメージしてもらえば分かりやすい。タワーシールドの裏側に支えがありシモンはそこに身を隠していた。入射角のずれた『貫きし者』がタワーシールドを貫く事なく表面を滑り、さらに表面に沿って空を飛んでいったのだ。シモンが作ったのはタワーシールドではなく空へ受け流す為のスロープだったのだ。

前世での科学や武術の知識を踏襲したシモンならではの防御術だった。



『貫きし者』を空の彼方に受け流された事によりソルシエに隙が出来た。その隙をシモンは逃さない。幸いソルシエとの距離は十メートル程、全速で走れば僅か数秒の距離。シモンは一気に間合いを詰め崩拳を打ち込む。相手が自分と同じくらいの年の少女だったとしても自分の命を狙う相手に手加減など一切するつもりはなかった。体の各所を連動させ威力を倍増させた突きはまさに命を貫く一撃だった。だが、拳の先に感じた違和感にシモンは顔をしかめた。拳の先には肉がひしゃげ、その先の内臓が潰れる感触がある筈だがそれがなかった。拳に伝わって来たのは乾いた木を打ち砕いたかのような乾いた感触。

「これはっ!?」

拳を打ち込まれたソルシエはダメージを受けた様な感じがない。それどころか微笑むを余裕さえあった。

(バカなっ!?)

動揺を隠して後方に下がり三体式の構えを取ったシモンを馬鹿にするようにアッカンベーをするとポンッという軽い炸裂音とともに姿が消え地面にゴロリと丸太が転がった。

「変わり身の術!? 忍者!?」

目を白黒させて叫ぶシモンの背後から強力な殺気が暴風のように吹き付ける。シモンは後ろに振り向き飛来してきた何かを叩き落とす。地面に突き刺さったそれを見てシモンは更に驚く。

「苦無って……本当に忍者か!?」

周りを警戒しているシモンの耳元にソルシエの声が響く。

「これで殺れないとは……勝負は拙者の負けでゴザルな、ニンニン」

先程とはうって変わった、そして前世で聞いた事のある口調にシモンは警戒も忘れてずっこける。

「拙者にゴザル!? それにニンニンって何の冗談……ていうかもしかしてアンタ……転生者なのか?」

シモンの問いにソルシエは首を傾げる。

「拙者は転生者? ……とやらではないでゴザルよ。それは拙者ではなく別の者でゴザロウ」

「? 別の者ってどういう?」

「それは置いといて負けを宣言するでゴザル」

「負けって……ワザと殺気を放って狙っていると合図を送っておきながらよく言う」

「拙者は殺気を放ってはおらんでゴザルよ。拙者が獲物を殺る時に殺気を放つような真似は全でゴザルよ。故に一撃必殺でゴザルが『ボク』殿、『私』殿が無理矢理はなったでゴザルよ」

ソルシエのおかしな表現にシモンは問いかける

「聞きたいんだが私、ボク、そして拙者一人称がどうしてコロコロ変わるんだ。もしかしてだが……アンタ多重人格者でもあるのか?」

ソルシエがあらぬ方向に顔を向け口笛を吹く。

「それはまあ……ネタばれとやらになってしまうので黙秘させてもうでゴザルよ」

(ごまかしたよ……ネタばれ何て単語を出してくるなんて……やっぱり多重人格の上に僕と同じ転生者なのか? 僕の他に転生者……心当たりは一人しかいないけど……でもアイツは男だったはずだし……)

「そういう訳で負けを認めるのでゴザルが……ただ負けを認めるというのは悔しいという意見が多数出ておってな……すまないが上前を撥ねさせてもらうでゴザルよ」

それを最後にソルシエの声が途絶え周囲は静寂に包まれる。気配が全く感じられない所を見ると本当にこの場から立ち去ったようだ。シモンは三体式の構えを解き警戒を解く。

「……上前を撥ねるってどういう事だ? ……まさか!?」

シモンはルーナに思念を送る。

(ルーナ、僕の思念届いてる!?)

(ワッ、ビックリした!? 何、お兄ちゃん)

いきなりのシモンの思念に心底驚くルーナ。

(今、格納庫にいるよね! そこに四号機はある?)

(ええと、ちょっと待って……うん、四号機ちゃん(仮)は隣で整備されてるよ)

(四号機……ちゃん(仮)?)

妙な言い方にポカンとするシモン。

(だって作られた順番で言ったら私の妹って事になるから四号機ちゃん(仮)だよ)

(ああ……そういう事ね)

(私やメルちゃんみたいに人格が目覚めたら色々お話し出来るといいな)

シモンにルーナの楽し気な思念が伝わってくる。それに水を差すのは少し気が引けるがそうも言っていられない。

(……楽し気なところ悪いけど今そっちに四号機を強奪しようとしている賊が向かっている。誰かに伝えて警備を厳重にさせて!!)

(賊!? 分かった、すぐに伝え……え、何この人!? ……何なのあの槍!? ……キャァァァァ……)

ルーナの悲鳴を最後にルーナと思念通話が出来なくなる。

「ルーナ……ルーナ!!」

シモンは思わず思念ではなく声でルーナに呼び掛けるが返答はなかった。その代わりとでも言うようにどこかで爆発音が聞こえた。そして鎧を身に纏った巨人が空を飛翔する。偽神四号機だった。

「上前を撥ねるってやっぱりこういう事か!!」

合法的に手に入れられなければ最初からこうするつもりだったのだろう。シモンは空に浮かぶ偽神四号機をその中にいるソルシエをイメージし悔し気に睨みつける。その偽神四号機が顔をこちらに向けシモンと目を合わせるとこちらに向かって飛んでくた。シモンの頭上で停止すると拡声器を通してやや興奮した感じのソルシエの声が聞こえてきた。

「いやはやこれはなかなか面白い!! この巨体が自分の体のように動く、これが偽神……稀有な体験をさせてもらっているでゴザルよ!!」

「何が稀有な体験だ!! 盗人猛々しい!!」

「いやはや手厳しいでゴザルな」

「アンタは一体何が目的何だ? 偽神の操縦者になれなくても神殺しの一員であるならば直接ではないにしても狂神を倒せる、仇を取れるだろうに……こんな事をしたらここに居れなくなるかもしれないぞ。それにカルヴァンさんに殺されるぞ」

神殺し最強の剣神の名を口にするがソルシエは鼻で笑う。

「拙者らの身内は誰も狂神に食われてゴザらんので仇を取る必要なんでないでゴザル。それ所か拙者らは狂神に仕えてるので仇を取る必要もないでゴザル」

「何だって……つまりお前の目的は……」

「偽神の破壊……と言いたい所だが少し考えが変わって今は偽神を一体手に入れて調査、そして利用できるようにする事でゴザルな」

「狂神の仕えてる者が偽神を……利用?」

ソルシエ・アスワドと言う少女が何を考えているのか本当に分からない。シモンは困惑、そして混乱し何も考えられない。

「ではこれにておサラバさせてもうでゴザルよ」

ゆっくりと上昇する四号機にむかってシモンは叫ぶ。

「今は僕の負けだ!! 四号機は預けておいてやる!! だがいずれ取り返す!! だから丁重に扱え!! ルーナの妹を壊すなよ!!」

「約束は出来んが確かに承った」

四号機は遥か彼方に飛び去りあっという間に見えなくなった。四号機が飛び去った方向を見上げシモンはブツブツと呟く。

「しかし……これはどういう状況なんだ? 狂神に仕える者が偽神を利用するだなんて……ソルシエと言う少女は一体何者なんだ、何を考えているんだ? 疑問は尽きないけど今はルーナの元へ……」

シモンは走り出した。ルーナと思念通話を行っていた時、ルーナは悲鳴を上げていた。それにあの槍と言うフレーズがあった。『貫きし者』の事であるとしたら偽神であったとしても破壊は免れない。無事でいてくれと祈りながらシモンは走った。




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