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魔術師転生  作者: サマト
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第六十七話 銀の……の横やり、人間の術理。

―――この少年は我が主を救ってくれた大恩人だ。この少年には尽くさなければならないが尽くせるのはたった一回。我が主人も案外ケチ臭い。人間の寿命など我々精霊に比べたら一瞬だというのに。

―――だが、この少年に我の助力など必要ないようだ。この少年は我から見ても不可思議な魔法、いや魔術とやらを使う。これがあれば大抵の敵を寄せ付ける事はないだろう。我はこのまま少年の腕輪となり使われる時を待とう。

―――……と思っていたのだが……何だあの大鎌は!? あんな不吉な物を何の影響も受けず扱えるとは……使い手の少女は化け物か!? あんな物が出てくるのなら我の出番だろう。少年よ、早く我を呼べ、使え!! 呼べと言っているのに……ああもうしょうがない!!



死神の刃はシモンの目の前で止まっていた。ソルシエが止めたのではない、シモンの目の前に飛び出したものが二つ刃を挟み込んで止めたのだ。死神の刃を止めたものを信じられないように見つめ呟いた。

「何でさ?」

今だシモンの両腕は感覚もなく自分の意志では指一本動かせはしない。その両腕がシモンの意志に反して動きイディオ・フォールの刃を真剣白刃取りしているのだ。

「……何で両腕が動いている?」

「それはこっちが聞きたい」

シモンは気軽に話しているが本当はそんな状況ではない。ソルシエはイディオ・フォールの刃をシモンに突き刺そうとしているがシモンの両手が刃を挟み込み刃の侵入を押し留めている。ピクリと動かない所を見るとかなりの力が入っているようだがシモンにはその自覚がない。助けてくれたのはありがたいが誰かに勝手に動かされるのは気に入らない。何が両腕を動かしているのか、その原因はすぐに判明する。両腕に身に覚えのない銀色の籠手が装着されているのである。

「……どう見てもこの籠手だよね? 僕の両腕動かしてるの……いつの間にこんなものが……まさか剣士の精霊が貸してくれた武具なのか!?」

銀の籠手は答えてくれないが間違いないとシモンは思った。剣士の精霊の武具は剣や槍、腕輪などに変化する事が出来た。籠手に変化できたとしてもおかしくない。だが、動かす事が出来なくなった部位をかわって動かしてくれるとは驚きだ。

「便利なんだけど……少しストレスだな」

シモンが気軽に話す中、ソルシエはイディオ・フォールに力を籠めるがピクリとも動かない。

「クソッ、離せ!!」

焦れたソルシエはイディオ・フォールに魔法力を籠める。

「フンッ!」

ソルシエが気合と共に魔法力を解放する。純粋な魔法力の衝撃波がシモンを襲う。数メートル向こうに弾き飛ばされる。間近でぶつけられた魔法力の衝撃波に意識が飛びかけるが何とか耐え二本の足で着地する。ボンヤリする意識を総動員して正面を見ると目の前に死神がいた。飛ばされたシモンを真っ直ぐ追い、間合いに入ったのだ。

「アッ……マズい」

シモンは今自分の意志で両腕を動かせない、防御が出来ない。衝撃波を最も間近で受けて銀の籠手、流石に動かないと思ったがシモンのそんな考えより早く動いていた。

両腕が勝手に前に突き出され前ならえの様な構えを取ったのだ。銀の籠手に知識はないと思われるが空手で言う前羽の構えを取ったのだ。防御に優れた構えなのだがそれが確かである事が目の前で証明された。銀の籠手自体の防御力もあるのだろうがイディオ・フォールの大鎌の攻撃を見事に弾いていた。大鎌は一撃の攻撃力は高いが小回りが利かない。銀の籠手は大鎌の攻撃を捌きながら本体のシモンを引っ張ってソルシエに迫る。だが銀の籠手の動きにシモンがついていけてない。そんな頼りない足取りではソルシエ本体に迫る事は出来ない。ソルシエは後方に下がり大鎌を二丁の鎌に切り替え両手で持つ。銀の籠手の防御力を鑑みて一撃より連撃で体力気力を奪う戦術に切り替えたのだ。

ソルシエの鎌の連撃を銀の籠手は前羽の構えから迎え撃つ。恐るべきスピードで移動、死角に入り鎌による一撃。それを銀の籠手はどの様に探知しているのか分からないがそれを読み取り叩き落とす。鉄同士にぶつかり合う嫌な音が響き渡る。二丁の鎌と二つの籠手は拮抗しているがそれに振り回されるシモンはたまったものではない。この状態を何とかしなければとシモンは両方の動きを観察する。するとソルシエ、銀の籠手共に共通する点がある事が分かった。それはソルシエも銀の籠手、どちらも動きが単調なのだ。ソルシエの高い運動能力による高速移動、そこからの一撃、虚実を混ぜない素直な一撃は読みやすい。それに対して銀の籠手はこれまた素直に攻撃を叩き落としている。非常に機械的でこれもまた虚実が混ざっていない。どちらもスペックが高い故、小難しい技術など考える必要がないのだろう。だがこれではソルシエは攻撃疲れ、シモンは籠手の防御に振り回され体力が消耗し共倒れは必死、そんな間抜けな終わり方はごめんとシモンは銀の籠手に話しかける。

「腕の操作権を僕に渡してっ」

シモンは銀の籠手に宿る意志に問うてみるが答えてはくれない。だが心得たという思念の様な物は感じられた。銀の籠手は守勢から攻勢に出る。二丁の鎌の攻撃を掻い潜りソルシエの両手首を掴み取り放り投げた。距離を取らせることを目的としている為ソルシエにダメージはない。なぜこんな気の抜けた攻撃をしたのかと勘繰るがその隙を銀の籠手はシモンに腕の操作権を譲る。シモンの両腕にスタンガンを押し付けられたかのような衝撃が走る。その痛みにシモンは情けない悲鳴を上げる。

「ヒギィッ!! 何すんねんっ!!」

シモンは思わず大阪弁になり両腕を振り回して怒鳴る。

「……って腕が動かせる」

さらに手を握った開いたりして感覚を確かめる。アストラル体を切られる前と全く変わらず動かせる。

「……だから一体何だと。普通に動かせたからと言ってそれで私に勝てると考えているのですか? だとすると舐められたものですね」

ソルシエが足に力を溜め前かがみになる。それはまさに獣が疾走するが如く。それに対しシモンは三体式の構えを取る。その構えは獣を貫かんとする槍を構える如く。

「身体的なスペックなら間違いなく僕の負けです。ですが人間はそれを覆す為に武術を術理を学びます。獣のような身体能力で人間の術理を破れるか……勝負」

「……いいでしょう」

ソルシエは両足に溜めた力を解放し疾走する。数秒とかからずシモンの間合いに入り右手に持った鎌を振り下ろす。シモンは左足を起点に回転、ソルシエの左側面に回り攻撃の軌道から外れる。更にシモンはソルシエの右手首を軽く掴みソルシエの振り降ろす力に自分の振り降ろす力を加える。思いもよらない力が加わった事によりソルシエはバランスを崩しクルリと一回転し、己の力で吹っ飛ばされた。空中に浮かされたソルシエはクルリと一回転し何事もないように着地するがなぜ自分が空中に飛ばされたのか分からず困惑の表情を浮かべていた。

「さあドンドンかかってきて下さい。身体能力だけじゃ超えられない人間の術理とくとお見せしますから」

侮られたと感じたソルシエの顔が真っ赤に染まる。

「フザケルナァァァァ!!!!」

ソルシエは怒りの表情でシモンに襲い掛かる。

「怖っ!!」

シモンは再び三体式の構えを取る。その構えには見る限り口で言うような怯えは見えない。それどころか大地に根を下ろしたような安定感があった。







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