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魔術師転生  作者: サマト
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第五十五話 シモン、ルーナ対狂気の道化師 狂気の道化師倒れる、その正体は?

「アッハッハッハッハ!!!!!」

狂気の道化師は闇の球体セフィラの中を腹を抱えて大爆笑していた。

「僕を倒すとか大言壮語を吐いておいてその体たらく。あなたの必殺の魔術は僕にとっては凡百の魔術に過ぎなかった。これが物語なら闇の球体セフィラを打ち破って僕は倒されるのだろうけど現実はそうもいかない……面白い見世物でしたよ。道化師を笑い殺すなんて……それが真の目的ですか。シモンさんも道化師を目指して見られては?」

慇懃無礼に言われシモンの額に青筋が立つ。シモンは別の攻撃性の魔術を行おうとしたその時だった。闇の球体セフィラの表面に一筋の光が走った。その光はすぐに闇に飲まれてしまったのだが。

(今のは一体?)

怒りを忘れ凝視しているとまた光が走った。次は闇に飲まれるのが少し遅かった。

「これは……」

「おや、どうしましたシモンさん? 自分の必殺が簡単に破られて戦意喪失ですか? ですが手を緩める事はしませんよ。あなたにはここで僕の闇に飲まれて……」

そこまで言いかけて狂気の道化師は喋るのを止めた。シモンが笑っていたからだ。諦観からではない自信のある笑みに狂気の道化師は疑問を持つ。

「? 何故そんな顔で笑えるんですか? 諦めて命を差し出すというのなら殊勝な事ですが……そうじゃありませんね、その表情は?」

「ああ、お前はまだ俺に勝利してはいないからな」

「何を言って?」

「自分の作り出した闇の球体セフィラをよく調べてみろ。僕が言っている意味がよく分かるだろうさ」

狂気の道化師は意識を闇の球体セフィラに向ける。そして闇に飲まれれず動いている異物を感知する。

「これは!?」

「僕が作り出した混沌カオスランスはまだ生きているぞ!!」

狂気の道化師は息を飲む。自分の必殺である闇の球体セフィラの中で存在を食われず、動けるものがあるとは。狂気の道化師は闇の球体セフィラに意識を向け、混沌カオスランスの完全破壊を試みる。ふざけて名付けたこの槍は作り出した本人の様にしぶとくしつこい存在だ。



混沌カオスランスは闇の中を疾走していた。己を飲み込もうとする濃密な闇を貫きながら。自分を作り出した者の命に従って闇の球体セフィラのどこかにいる狂気の道化師を貫く為に……。

「こうして意識を向けるとはっきり分かりますね。闇の中でしぶとく動く存在を」

闇の球体セフィラの中心で混沌カオスランスの存在を感知し忌々し気に呟く狂気の道化師。

「でもね……動けるだけじゃ意味がないんですよ」

闇の中を自由に動けても本体である狂気の道化師を見つけ出さなければ意味がない。このままではいずれ魔術力が尽きてしまい消滅するしかない。そうなる前に何か手を打たなければならない。もしここに入ったのがシモンであるならばまだ何らかの手段を講じるのだろうが混沌カオスランスにはそんな知恵も知識もない。故に混沌カオスランスがとった手段は簡単かつ単純なもだった。

まず、形状を変化させた。四つ又のフォーク状だった先端を捩じり合わせドリル状に変化させた。そしてともかく飛行速度を上げた。闇を貫きながら速度を上げ音速に到達した。だがそれでも遅い。更にその先へ先へと速度を上げ混沌カオスランスは光と化した。音速から光速に到達し、闇を切り裂き進むその姿はまさに流星。光の尾は残像となり闇の中に残り闇を侵食する。闇の球体セフィラの中を何百、何千、何万と動き回る事により残像が闇を侵食する。闇は光に置き換わり光の球体セフィラとなった。光となった闇の球体セフィラの中心で狂気の道化師は実体化する。標的を見つけた混沌カオスランスは狂気の道化師目掛けて突き進む。向かってくる混沌カオスランスを狂気の道化師は自嘲気味に笑う。

「こんな単純明快な方法で僕の闇を打ち破るとは……お見事!」

次の瞬間、混沌カオスランスが狂気の道化師の胸部を深々と貫いていた。



光と化した闇の球体セフィラから狂気の道化師が飛び出した。胸部に突き刺さった混沌カオスランスから流れ込む魔術力が狂気の道化師の内側から焼き尽くそうとしていた。

(これは……マズい……何とかしなければ……)

身動きが取れず声一つ漏らす事が出来ない狂気の道化師は自身の消滅の危機を回避する方法を考えるが悠長に考える時間はない様だ。下半身はすでに消滅、魔術力が頭部までくれば現実世界の自分にどのような影響が起こるか分からない。狂気の道化師は決断する。最後の力で生み出した闇の刃で己の首を切り落とした。頭が地面をコロコロと転がる。身動き一つ取れなくなったが魔術力の伝導を防ぎ頭部の消滅は何とか免れた。

「しかし何も見る事が出来ませんね」

顔が地面を向いており、己の力では頭を持ち上げる事が出来ないのでしょうがない。そう思っていると己の意志とは無関係に頭が持ち上がった。誰かが持ち上げてくれたという事がだ今ここにいるのは……。

「これはこれは……お人形ちゃん……いや、ルーナ嬢」

そこにはいい笑顔を浮かべるルーナがいた。デフォルメルーナ達を本体に戻したため今のルーナは露出の高い黒のビキニアーマーを装着した美女の姿、ルーナ・ノワ形態だった。

「先ほどは……どうもっ!!」

ルーナが狂気の道化師の頭を放り投げる。重力に従い落下するタイミングに合わせ中段突きを入れる。崩拳だった。

「プゲラッ!!」

狂気の道化師の奇妙な悲鳴と同時にルーナの拳に肉がひしゃげ骨が砕ける感触が伝わる。狂気の道化師の頭はゴムまりの様に飛んでいき地面をバウンドしコロコロと転がっていった。

「随分と……ひどい事を……しますね」

血まみれになり歯が幾本かかけた狂気の道化師が痛みに耐えながらルーナを非難する。だがルーナは無言で狂気の道化師の頭を持ち上げもう一度放り投げようとするのをシモンが慌てて止める。

「待ったルーナ!」

「どうしてお兄ちゃん!?」

「ここで倒しておくことには反対しないけど……その前に幾つか聞いておきたい事がある。それまでは待ってくれ」

「そういう事なら……ホイッ」

ルーナが狂気の道化師の頭を両手で持ちシモンの方に向ける。無言で睨み合う事数秒、狂気の道化師が口を開く。

「……何か話したらどうですか?」

シモンはうなされたような掠れた声で狂気の道化師に問いかける。

「正直……こう顔を合わせてもまだ信じられない。どうしてお前がこの世界に転生している……前世での敵が僕を倒した者が……別の世界に……僕がいる世界に転生するなんてそんな偶然あり得ない。どういう事だ……聖……理央」

狂気の道化師―――聖理央はさも愉快そうに笑う」

「ヒントを散々ばらまきましたからね。それなのに『お前は誰だ?』なんて言われたらどうしようかと思いましたよ」

聖理央―――シモンの前世である志門雄吾が最後に戦った妖術師であり、志門雄吾を倒した男の名前だった。

「……そこも含めて説明して差し上げますので……お楽しみに」



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