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魔術師転生  作者: サマト
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第五十二話 シモン、ルーナ対狂気の道化師 美女から美少女へ

警戒しているシモンとルーナを尻目に狂気の道化師が横を向き歩き出す。歩数にして五歩、大した移動ではないが驚くべき変化が起こっていた。狂気の道化師が一歩歩くごとに残像が残り、その残像が色や厚みを得て実体化したのである。本体プラス五分身、狂気の道化師は六人となった。狂気の道化師は一斉に同じタイミングてこちらを向く。それに驚いた隙をついて狂気の道化師は動いた。五人の狂気の道化師は目にも止まらない素早い動きでこちらの間合いを侵略しルーナの両手両足、腰を掴んで持ち上げる。そして一目散に走り去ったのだ。漫画的表現で砂煙を巻き上げて走り去る狂気の道化師。

「なんでぇぇぇぇ!!!???」

五人の狂気の道化師に拘束されたルーナは疑問を含んだ悲鳴を上げるがそれに答える狂気の道化師ではなかった。

「ルーナ!」

ルーナの後を追いたかったが一人残った狂気の道化師がそれをさせなかった。今、後ろを見せればどんな攻撃をしてくるか分からない。故に一人残った狂気の道化師に問いかける。

「……僕とルーナを……戦力の分断が目的か?」

その問いに狂気の道化師は首を横に振った。

「そんなくだらない事じゃありませんよ。久しぶりにあなたとお話がしたいんであのお人形さんには少し遠慮してもらいました」

そう話す狂気の道化師は扮装に似合わず理知的に話す。

「僕と話? いやそれよりも久しぶりだって? いつ会ったというんだ?」

どのように記憶を掘り起こしても目の前にいるような道化師に会った事実はない。疑問に顔をしかめるシモンに狂気の道化師は衝撃的な言葉を口にする。

「会っていますよ……前世で」

その言葉にシモンは息を飲み、かすれた声を漏らす。

「前世だと……」

動揺しているシモンに狂気の道化師はしてやったりと言った感じで笑みを漏らす。

「しかし皮肉なものですね。転生してからもシモンを名乗る事になるとは」

「やっぱり……僕の前世を知っているのか?」

「当然知ってますし……殺し合ってもいますよ」

「殺し合ったという事は……お前は僕が倒した黒魔術師なのか?」

「結果としては倒した事になるのかな。少し微妙なところなんですが」

「微妙?」

「そこら辺も含めて再現してみましょうか」

「再現する?」

「そう……終わりの再現をね」

狂気の道化師が茶目っ気たっぷりにそう言うとまた狂った様に笑い出した。この狂笑には破滅的な波動が含まれておりそれを帯びるシモンは激しい眩暈に襲われる。そして狂気の道化師の体から黒い粒子が放出される。放出された黒い粒子が球体を形成し狂気の道化師を押し隠す。

「闇の……球体セフィラ……」

「さあ、シモンさんも火の魔術で作り出してくださいよ。火の球体セフィラを」

「これを……これを知っているという事は……」

終わりの再現―――それはシモンの前世、志門雄吾の最後の再現という事だった。そしてそれを知ってる者はたった一人。その事実を信じたくないシモンは雄叫びを上げるが如く火の魔術を行うための呪文を唱え、五芒星を空に描いた。

「ベイ・エー・トー・エム!!」



「えっと……降ろしてもらえない」

ルーナは未だに自分を拘束しつつ疾走し続ける狂気の道化師にそう問うが狂気の道化師は答えない。何かしら反応があれば対処が出来るのかもしれないが無視されるというのは本当に困る。とっかかりがないのだから。

「それならいいか……」

ルーナは四拍呼吸を行い全身をリラックス。魔術力を集中し魔術を行うための予備動作をする。その途端全身に強い痺れが走り悲鳴を上げる。

「今のは……」

狂気の道化師が魔術行使を妨害してきたようである。だがこちらに深いダメージが残るような攻撃ではない。それが出来るのにしないという事はシモンから引きはがす事が目的なのだろう。とりあえず害はないようなので安心出来るがこのまま捕らわれのお姫様をやる訳にはいかない。早くシモンと共に戦わなければならない。それぐらい狂気の道化師の本体は危険なのだ。生まれ間もないルーナだがそれぐらいは分かる。

(ウーン……どうしよう。宙に浮かされた状態じゃ武術は使えない。出来る事は魔術くらいだけど……でも魔術を行使しようとすると妨害されるし……どうする?)

ルーナはウンウン唸って考える。

(……ルーナ・プレーナになれれば魔術武器で攻撃が出来るんだけど……)

ルーナ・プレーナ形態で作り出される四機の魔術武器は自立起動出来る為自分の意志とは関係なしに攻撃が出来るのだが……とそこまで考えハッとした。この世界はイメージが実現する世界、ルーナ・プレーナの事をより鮮明にイメージ出来れば魔術武器を作り出せる可能性がある。

{よし、やってみよう!!」

ルーナはイメージする。

(ルーナ・プレーナ……一度狂竜神によって全壊された後、お兄ちゃんの記憶の中にあった魔法少女という存在をモデルに作り上げた形態……魔術はもちろん機動力に特化した形態、防御力は弱い……ルーナ・プレーナ形態になるにあたって排除される部分で四体の魔術武器を生成する。四体の魔術武器は自立起動し……)

ここまでイメージした時だった。両手両足を掴んでいた狂気の道化師が空を掴んだ。手の内から突然ルーナの手足が消えたのだ。ルーナの腰を掴んでいた狂気の道化師はとこからともなく現れた四つの飛来物の体当たりにより破壊されルーナは空中に放り出される。

(このスピードで地面に叩きつけられたら痛そうだな……)

そんな事を考えつつ衝撃に備え身を縮こまらせ目を閉じるがその衝撃はいつまでも来なかった。目を開くと一メートルほどの正方形の力場がルーナを受け止めていた。

「この力場は?」

ルーナは正方形の力場を作り上げた存在を見て目を輝かせた。

「カワイイ……」

そこにいたのはデフォルメされたルーナ自身、それが四人もいた。違う点は一人一人の瞳と髪、服の色が違う事だ。赤色、銀色、水色、オレンジ色とかなりカラフルだ。四人の小型ルーナの頭を撫で頬ずりする。四人の小型ルーナはルーナから逃れようと暴れるがルーナはそれをさせない。そんなルーナを呆然と見ている狂気の道化師。そろそろいいっスかという視線を送られルーナは恥ずかしそうに顔を赤らめ頷いた。その途端、狂気の道化師は狂った様に笑い出し、闇の粒子を凝縮させ槍を作り出し攻撃してきた。

「ハッ!!」

ルーナは跳躍、そして空を飛翔し闇の槍から逃れた。そして今の自分の形状を見て驚き、そして情けない声を出す。

「小さくなってる……」

今のルーナは二十歳くらいの美女から十歳くらいの美少女になっていた。魔術武器の生成のみをしたかったのだがルーナ・プレーナそのものをイメージした為肉体の方にも変化が起こったようである。

「だけど……」

今の自分の服装を見てがっかりした。黒のゆったりとしたローブを身に纏っているのだがこれが地味で可愛くない。自分を象徴する色は黒だから仕方ないとはいえもう少しカラフルな、それこそ小型ルーナ達の様なカラフルな衣装を着たいものだとルーナは思う。

空中で停止していたルーナに闇の槍が放たれる。反応が遅れたルーナに闇の槍が迫る。だが。その槍はルーナに突き刺さる事がなかった。ルーナの目の前で四人の小型ルーナが力場を形成し闇の槍を防いでくれたのだ。これを見てルーナは四人の小型ルーナが何なのか悟った。

(この子たち、魔術武器を擬人化させた姿なんだ)

現実世界では無骨な杖、小剣、杯、円盤なのだがこういう姿を見せられると可愛い名前を付けたいとルーナは思った。

(あとでお兄ちゃんに考えてもらおう。今は……)

眼下にいる狂気の道化師に視線を向け、魔術を行うために意識を集中した。








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