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魔術師転生  作者: サマト
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第五十一話 シモン、ルーナ対狂気の道化師 

「おかしい……」

離れた場所でシモンと狂気の道化師の戦いを見ていたルーナは疑問を漏らす。狂気の道化師は得体のしれない所がある。その派手な扮装や馬鹿笑いに集中が乱される。ふざけているわりに動きはよく振り下ろされるファルシオンは速く鋭い。それらの材料があったとしてもシモンの動きに繊細さが無くなる原因となるだろうか。攻撃に転ずることとなく防御に徹している。それが何故なのかルーナには分からなかった。


狂気の道化師が振り下ろすファルシオンを紙一重で躱す。そこから攻撃に転じてもいいはずなのにそうはせず後ろに下がり距離を取る。今のシモンは戦闘に集中していなかった。ある疑問が頭から離れない為だ。その疑問とは『この狂気の道化師は一体何者だ?』である。

この世界にはない文化である道化師の扮装をしているのである。前世の世界の記憶を持っている転生者、そしてこのシモンが作り出したこの世界に侵入し敵意を持っている事からして魔術に関する知識を持ち合わせる者、つまりシモンの前世、志門雄吾が殺した黒魔術師、妖術師である可能性が高い。だが前世で倒した者たちの中にこのような道化師はいなかったはず、この扮装は何の意味があるのか分からない。罠を警戒しシモンは攻撃に転ずることが出来なかった。

防戦一方となるシモンに狂気の道化師は馬鹿笑いを収め棒立ちとなる。

(? 何だ?)

警戒を強めるシモンの目の前で狂気の道化師は肺が破裂するかと思えるぐらい大きく息を吸い、そして絶叫した。その絶叫は魔術的波動を帯びていた。絶叫は濃霧を呼び数メートル先にいる狂気の道化師が見えなくなる。

「煙幕を張ったか? なら!!」

シモンは風の魔術を行う為、空間に風の五芒星を描き呪文を唱えようとするが背後から凄まじい殺気を感じ魔術を中止し一歩前に出る。逃げ遅れた後ろ髪が何かに切断される。寒気を感じながら後ろを振り向くとそこには狂気の道化師の狂笑があった。馬鹿笑いと同時にまた濃霧に紛れ姿を眩ます。

「クソッ!!」

シモンは風の魔術を行うのを止め三体式の構えを取り周囲を警戒する。

魔術を行う際の欠点、それは強力な魔術を発動させる程精神を集中させるため身を守る事が出来なくなる事だ。それを防ぐにはに仲間と組むか使い魔、人工聖霊を召喚し身を守らせるしかない。一人で戦う事を常としていた前世では人口精霊を創造し身を守らせていたが今はその人口精霊はいない。この身一つで身を守らなければならない。

周囲から破滅の道化師の馬鹿笑いが響き渡る。そして濃霧の中からファルシオンによる攻撃を受ける。だが軽く切られるだけで致命傷にならない。

「いたぶるつもりか……」

殺す気のない攻撃には殺気が含まれない為、気配を探る事が出来ない。不利な状況であってもシモンは焦らずチャンスを待つがどこから来るか分からない攻撃に体力気力が奪われシモンはふらつく。不意に笑い声が途絶え、シモンの前方から津波が如く巨大な殺気が伝わってくる。

(今だ!!)

呼気と共にシモンは一歩前進、強く踏み込み頭を守る様に左腕を水平に掲げ、右拳で前方を突く。五行拳の一つ炮拳にて頭部を守りつつ攻撃を繰り出したのだった。左腕には上方から叩きつけられるような衝撃、そして右拳には泥沼に手を突っ込んだような感触があった。狂気の道化師のファルシオンによる攻撃を左腕で防ぎ、右拳が狂気の道化師の胸部を貫通していた。胸部を貫いた嫌な感触に顔をしかめながら引き抜こうとしたが、その部分だけがコンクリートになったかのように固まり引き抜く事が出来なかった。焦るシモンと狂気の道化師の目が合う。狂気の道化師は口角を吊り上げニィッと笑う。攻撃を誘われた事を悟ったシモンは残った左腕で攻撃をしようとするが狂気の道化師は右手でシモンの左腕を掴む。右手にあった筈のファルシオンが左手に移動していた。両手を塞がれ身動きも出来ない。狂気の道化師は右手のファルシオンをシモンの脳天目掛けて振り下ろす。シモン達がいる世界は現実の世界ではなくこの世界で怪我をしようと死ぬ事はない。なのだが狂気の道化師が持つファルシオンは不気味なものを感じる。これで死ぬような傷を負わされると肉体にどのような影響が出るか分からない。逃げなければと足掻くが身動きが取れず、迫りくるファルシオンの動きを目で追う事しか出来なかった。数秒後に訪れるであろう不吉な予感にシモンは目を閉じる。そんなシモンの耳に清涼な声が届く。

「お兄ちゃんっ!!」

パキャンッと何かが割れる音でシモンは目を見開く。ルーナが振り下ろさたファルシオンの側面に下から突き上げるような左拳の突きを入れ、ファルシオンを破壊したのだった。鑚拳による攻撃でファルシオンを破壊、更に攻撃を繰り出す。己の腹部に当てていた右拳が弧を描いて狂気の道化師の頭部に直撃する。鑚拳から横拳に繋げた連続攻撃だった。

ルーナの横拳は狂気の道化師の頭部がボールよろしく吹っ飛ばした。同時に腹部を貫通していたシモンの右腕の拘束が弱まり、その隙にシモンは足を踏ん張って後方に飛び、狂気の道化師の拘束から脱出する事が出来た。距離を取ったシモンの元にルーナが駆け寄る。

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

「うん、助かった。アリガトウ」

シモンはルーナに手短に礼を言い狂気の道化師に視線を向ける。

「それにしても……アイツ、一体何者なの?」

「分からない。でも間違いなく……敵だ」

ルーナがコクリと頷き三体式の構えを取る。

先程まで周囲を覆っていた濃霧が晴れていく。それに従って狂気の道化師の姿が露わになる。あらわになった狂気の道化師はその名に恥じぬ滑稽な動きを見せていた。自分の頭に両手を持っていくが当然頭がなく何度も空間を撫でる。頭がない事実にギョッとし頭があるかのように辺りを見渡し地面に転がっている己の頭を発見し駆け寄る。そして何もない所で足を引っかけ豪快にすっ転んで見せる。はいずりながら己の頭の元に行き、頭を拾い上げ首に取り付ける。前後逆に頭を取り付けてしまい後頭部がこちらを向いていた。狂気の道化師は慌てて両手で頭を掴み右回しに頭を回し前頭部をこちらに向け、けたたましく笑う。

そんな滑稽な動作を見てもシモンもルーナも笑う事が出来なかった。より不気味さが増した。

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