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魔術師転生  作者: サマト
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第四十六話 何でここにお兄ちゃんが?

シモンが偽神の仮面に施した疑似魔術回路のお陰て半永久的に活動する事が可能となった。だが、人格が目覚めたルーナとメルはこんな事を言い始めた。


「休息を取りたい」と。


人と違い偽神は眠るという事が出来ない、と言うか必要がない。仮面が常時作り出す魔術力が機体を最良の状態にしてくれるからである。人々が休息をとる中自分たちだけが動き続けるというのが辛いと感じているらしい。そこで簡単に休息をとる方法、仮面を一時的に機体から外す事となった。そうする事で仮面の内側で強制的に眠るという出来るようになったのだという。ルーナもメルも人間らしい行動がとれた事を非常に喜んだが……。



ソル・シャルムにある偽神用格納庫。そこには三体の偽神が格納されていた。ルーナ・ノワ、ブーケ・ニウス、インディ・ゴウ・メルクリウス。ルーナ・ノワとインディ・ゴウ・メルクリウスの二体の仮面は外され足元に設置された台の上に保管されていた。ブーケ・ニウスは今だ人格が目覚めていない為、仮面は外されていない。

仮面が外されているという事は機体が自然治癒されておらず何か異常があった場合そのままになってしまう。仮面を外している場合機体のチェックをするのは人の手作業となる。人間と同じように休息をとる為機体のチェックを行うのは主に深夜となる。

ファインマンが陣頭指揮を執り作業員が偽神の機体チェックと装甲の洗浄を行っている中シモンがひょこり現れた。それに気が付いたファインマンがシモンに声をかける。

「どうしたシモン、こんな深夜に?」

「こんばんわ、ファインマンさん。ちょっとルーナ・ノワの操縦槽に籠りたいんですけどいいですか?」

「何でだ? 今、ルーナ・ノワは仮面外してるから同調は出来ん。指一本動かす事は出来ないぞ」

「それはそうなんですか……」

シモンは自分がこれから行う事をどう説明すればいいのか思案顔になる。それを察したファインマンはボリボリと頭を掻きシモンの肩を叩く。

「分かったからそんな困った顔するな。余程変な事をしない限りは誰も止めたりはしないから安心しろ」

「すみません」

「いいって事よ。だが二、三時間ぐらいにしてくれよ。それぐらいでこっちの作業は終わるから。それまでだったらどれだけでも籠ってても構わんから」

「分かりました。それぐらいで出ますから」

「それぐらいしたら声をかけるからそうしたら出て来いよ」

「ハイッ!」

シモンが頷き、ルーナ・ノワの操縦槽に入る。動力となる魔術力が供給されていない為、操縦槽は薄暗く、操縦席は浮いておらず、床に置かれていた。操縦席に座る事が出来そうもなかったが、隣りに人が一人横になれるスペースはある為、そこに横になり目を閉じる。体に力を抜きリラックス状態になる。心の目で傍らにもう一人の自分が立っているとイメージする。そしてそのイメージに自分の自分の意識が流れ込んでいるとイメージする。それを繰り返す事で自分の意識がイメージの自分に移動し、横たわっている自分を見下ろしていた。魔術的幽体離脱―――アストラル体投射だった。重力の楔から解放されたシモンのアストラル体はフワリと浮かび操縦槽をすり抜け外へ出た。ルーナ・ノワの足元にある仮面に目を向けるとそちらに移動する。仮面の上に乗りそこからさらに下に下がる。仮面を入り口にしてルーナの内面、アストラル界へと向かった。



ルーナのアストラル界、そこも外の世界同様真夜中になっていた。だが夜空に浮かぶ疑似魔術中枢である生命の木が月の様に辺りを照らしていた。

「フム、仮面を外すとこうなるのか」

空を見上げると生命の木の頂点にあるケテルの球体セフィラに人のシルエットが見える。恐らくあそこにルーナがいるのだろう。アストラル界ではシモンは自由に動ける。シモンは空を飛びケテルの球体セフィラに近づき軽く小突く。

「オーイ、ルーナ起きて」

シモンの声にルーナがうっすらと目を開き欠伸をする。

「ふぁ~……あれ……何でここにお兄ちゃんが……?」

「どこかで聞いたフレーズだな。僕じゃサービスシーンは出来ないから」

「? 何の事?」

「いや、こっちの話。それより中から出てきてもらえないかな?」

「エーッ、私寝てたんだけど」

「そこを何とか」

「むうっ……しょうがないなあ……あ、そうだ!」

「ん?」

「ちょっと下に降りて待ってて」

「何で?」

「いいから、いいから」

何かを思いついたルーナの態度に不安を覚えるがとりあえず言葉通りシモンは地上に降りた。待っていると東の地平線から太陽が昇り始めた。先程まで辺りは薄暗かったためよく分からなかったが殺風景だった荒野が緑で満ち溢れていた。花々が咲き誇りどこまでも青い空が広がっていた。ルーナの人格が誕生してから様々な人との会話や触れ合い、そして狂神との闘いを得てこのように自分の世界を作り上げたのだろう。この世界を見るに健全な人格形成をしている事が伺える。

そんな分析をしていると日が翳った。見上げると太陽に重なって人のシルエットが見える。恐らくルーナだろう。人影はゆっくりとこちらに降りてきた。シモンは人影―――ルーナを見て素っ頓狂な声を上げた。

「ルーナ、その姿!?」

「ん、どしたのお兄ちゃん?」

「どうしたのじゃないよ……どうして成長してるの!? それにその恰好!?」

「えへへ、カッコいいでしょう」

「カッコいいというよりは……あざと……可愛い?」

「ムッ」

ルーナは不機嫌なそうな顔をする。前にアストラル界で会ったルーナはサリナを幼くした感じの容姿だったが今は二十歳ぐらいに成長していた。美幼女が美少女を通り越して美女にランクアップしていた。精神的な成長が容姿に影響したのだろう。それだけならまだ驚きは少ないのだがルーナの今の格好がシモンを更に驚かせていた。ルーナはルーナ・ノワの鎧を身に纏っていたのだが所々素肌が露出しているのだ。具体的に言うの括れた腰回りや健康的なおへそ、太もも、二の腕等々。

「で、その恰好は何?」

そこでルーナはイタズラっぽい笑みを浮かべる。

「よい御趣味をお持ちのようで?」

ルーナは前にシモンの記憶を読み取り魔法少女形態であるルーナ・プレーナを創造した。その時もこのセリフを漏らしていた。という事は……。

「また……僕の記憶から……?」

「大正解!!」

「僕の黒歴史を暴くのはやめてくれ!!」

シモンは思わずそう叫んでいた。

「でも、可愛くない、お兄ちゃん?」

そう言ってルーナはその場でクルリと一回転する。

「確かに可愛いんだけど……その恰好はやめてもらえないかな。真面目な話をしに来てるんだから」

「えー、ヤダァ。しばらくこの恰好でいたいよ」

駄々をこねるルーナにシモンは困ってしまうがある事を思いついた。

「……ルーナは僕の記憶を検索してその恰好をする事になったんだよね?」

「何かな突然? 確かに……そうだけど?」

ルーナが不審な顔をする。それに構わずシモンは話を続ける。

「だったら分かるよね。その鎧を脱着できるという事を?」

シモンが一歩踏み出すとそれに合わせてルーナが一歩後ろに下がる。

「……ダ、ダメだよお兄ちゃん。無理矢理脱がすなんてそんな事お姉ちゃんが許しませんよ!」

「お姉ちゃんって見た目だけでしょ。ともかく最終勧告、普通の格好して下さい!」

「ヤダッ!」

ルーナは空を飛んで逃げようとするがそうは問屋が卸さない。アストラル界はイメージがそのまま反映される世界。シモンは咄嗟に地面から飛び出す鎖をイメージする。実際に鎖が現れルーナの手足に絡みつきそれへの避難を食い止める。

「お兄ちゃん、大人げないよ!」

「僕はまだ十二歳、十分子供だよ!」

「揚足とらないでよ! それよりこの鎖解いてよ!」

「ダメッ! それより覚悟してもらうからね……」

イヤらしい笑みを浮かべてにじり寄るシモン。とても十歳には見えない。

「ィ、イヤ……こないで……」

ルーナは本当に怯えていた。

「その態度は傷つくな……でも止めないよ!」

シモンは右手を高く掲げ、指を弾いてこう呟いた。

「キャスト・オフッ!!」

「へ……きゃすと……何!?」

ルーナの纏っている鎧から空気が吹き出したかと思ったら内側から鎧が吹き飛んだ。突然の現象にルーナの頭は追いつかず呆然となる。シモンは今のルーナの姿を見て鼻血を垂らしてしまう。ルーナの今の姿は水着て言うならビキニ、それも布地面積が小さく意外と大きい胸を隠しきれていない。色々とムチムチしておりはちきれそうだ。

「……着やせするタイプだったんだね」

そう言うと同時に集中が解け、ルーナを拘束していた鎖が解ける。ルーナは身を屈め自分の体を隠す。

「ル、ルーナ……」

シモンは何か言おうとしたが言葉にならない。ルーナは顔を上げシモンを見る。その表情は羞恥と怒りに染まっていた




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