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魔術師転生  作者: サマト
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第四十四話 五芒星の小儀礼、拭いきれない違和感

人工血液の海に落ちた瞬間体から力が抜けていき気が遠くなりかけた。人工血液に込められた神滅武装の呪力の影響だった。このままでは神核に攻撃される前に呪力に心身ともに飲み込まれる。魔術中枢を最大励起させ魔術力を生成、呪力に対抗する。その甲斐もあり体に力が入り立ち上がる事が出来た。

「ウェッ……ひどい有様だ……」

シモンは自分の現状に嘆いてしまう。今シモンは全身人工血液まみれ、濡れ鼠状態だった。血まみれの顔を手で拭いながら足元を見る。

「……水位が下がってきている」

人工血液の水位は徐々に下がってきているようでもう数分で完全に人工血液は排水されるだろう。流入ゲートの堰が閉まり人工血液の供給が無くなっただけで他の機能は生きているようだ。完全に排水されれば呪力の影響も少なくなるだろう。

「……でもそうなると今度はあっちが問題だ」

シモンは頭上を見上げる。そこにはドームの壁面に何度も体当たりを食らわせている神核の姿があった。凄まじい速度で体当たりを食らわせているが壁はびくともしない。呪力を帯びた人工血液を何度も通した事で硬度が増しているようだ。

「……こちらに気がついていない。攻撃するなら今がチャンスだ」

シモンは右手の人差し指と中指を立て他の指を折り曲げ、神核に向ける。指先から出た魔術力を神核が察知し攻撃対象をシモンに変え突進してきた。

「マズいッ!?」

シモンは回避しようとするが足元がぬかるみうまく動けない。それでも何とか一歩後ろに下がる。凄まじいスピードで人工血液に突っ込んだ事により巨大な水柱が立つ。その衝撃にシモンは弾き飛ばされる。人工血液の海に叩きつけれれながらも立ち上がり三体式の構えを取る。魔術で何とかするよりも神核の動きを止める事が先決だと判断した為である。だが足首くらいまで人工血液が残っており素早く動く事が出来ない。

ヒュンッと顔の右側を神核が通り過ぎる。その素早さに反応する事が出来なかった。今直撃されなかったのは足元に残っている人工血液の呪力の影響で狙いを定める事が出来なかったのだろう。人工血液が抜けていく程狙いが定まりやがて直撃を食らってしまうだろう。その前に動きを止めなければならない。

「クソッ! 何かないか!? こういうぬかるみの中みたいなところで動く方法は……?」

言葉に出して閃くものがあった。前世での武術の師匠はこう言っていた。

『価値ある物は一つではない。様々なものを学び吸収し一つに纏め新たな流れを作れ』と。そう言われ、形意拳を中心に様々な武術を学んでいく中、実際にあったのだ。ぬかるみの中を独自の歩法で動く訓練が。これがそのまま今の状況に適応する。

「よしっ、やってみるか!」

シモンは三体式の構えを解き別の構えを取る。上半身をそのまま正面に向け、下半身を左側に捩じる。そして右手を正面に向け左手を腹部に持っていく。呼吸を整え精神を集中していく。どんなに素早く動いても隠しきれない殺気が肌に感じられる。

シモンの顔面に強力な殺気が強風が如く吹き付ける。次の瞬間、神核の本体がシモンの頭部に直撃し突き抜ける。だが神核にはシモンの肉が爆ぜ、素骸骨が砕ける感触が全くなかった。それもそのはずシモンは神核が頭部に直撃する瞬間、左横に移動し直撃を回避していたのだ。その動きが速すぎて神核はシモンの頭部を突き抜けたと錯覚したのだった。

ならばと神核は壁を跳ね返り再度攻撃を仕掛けるがシモンはスルリと避ける。二撃、三撃と攻撃を加えるがまるで踊りを踊るような優雅さで神核の攻撃を回避していく。どれほど早くなろうともスルリと躱すシモンにはニヤリと笑う余裕があった。

「久々にやってみたけどうまくいった。八卦掌の歩法―――走圏そうけん

直線に動く事が多い形意拳に対し、円の動きが特徴的である八卦掌を学ぶ事で欠点を補っているのだ。そうしているうちに人工血液が完全に排水された。壁の幾何学模様も消えうせ、神核の動きを制限していた呪力もかなり弱まり神核の動きに変化が起こった。

先程と同じ速度で神核が迫ってくる。それをスルリと避ける。それから数秒と待たずとして殺気が吹き付ける。後ろを見ることなく左に移動する。次の瞬間、シモンの頭があった個所を神核が通過した。あと少し遅ければ頭が無くなっていただろう。

「返りが早い!?」

先程とは比べ物にならないほど跳ね返ってくるスピードが速かった。

「何でっ!?」

その理由はすぐに判明した。神核は何もない空間を跳ね返っていたのだ。何もない空間に力場を作って跳ね返っているのなら壁まで行くより戻ってくるのは当然速い。呪力の拘束力が弱まっただけでこんな攻撃をしてくるとはさすがは神というべきか。神核は力場を複数造りそれを跳ね返る。高速で縦横無尽に動く事でシモンは神核の動きが読めなくなった。そしてとうとう神核はシモンを捕らえる。シモンの右肩に神核が直撃する。激痛と共にバランスを崩す。そこへ更に神核が攻撃する。シモンなす術がなく背中を丸めうずくまる事しか出来ない。数十回という攻撃を受け、ようやく攻撃が止む。シモンはうつ伏せに倒れる。そして動かない体にムチ打ち何とか仰向けになり大の字となり上を見上げる。そこにはこちらを見下ろすかのように神核が浮遊していた。神核は己のうちに力を溜めているようである。神核が放つ光が徐々に増している。いくら攻撃をしても殺す事が出来なかったため、力を溜めた一撃で確実に止めを刺そうという腹つもりのようである。

「さて……どうするか?」

シモンは溜め息をついて考える。先程は背中に魔術力を集中し亀の甲羅が如く防御壁を作りひたすら耐えたが今度の力を溜めた一撃はそれでは耐えれないだろう。その前に攻撃に転じなければ。シモンは己の体の状態を確認する。

(背中、スゴく痛い……体がうまく動かない。もう一度立ち上がるには少し時間が必要。だが魔術力も十分練れている。魔術を行う事なら出来る)

意識を己の内面に向けると魔術中枢がうねりを上げて回転しているのが感じられる。

(相手は力を溜めている為身動きが出来ない。攻撃に転じるのなら……今だっ!!)

紫園は右手の人差し指と中指を伸ばし他の指を折り曲げ神核に向ける。二本の指先に魔術力の光が灯る。空中に十字を描きながら呪文を唱える。

「アテー・マルクト・ヴェ・ケーブラー・ヴェ・ゲードラー」

神核はシモンの魔術行使に気が付き、詠唱が終わる前にシモンに向かって突撃する。だが、ほんの一瞬シモンの方が早かった。シモンは残光として残った十字の中央を気合を込めて押しつつ呪文を唱えた。

「レ・オーラーム・アーメーン!!」

光の十字は神核に向かって飛び、こちらに向かってくる神核と直撃する。神核と光の十字は拮抗し光の十字は消滅、神核は弾かれる。空中でピタリと停止するが光が弱まっている。人間で言うならば目を回しているとでもいう所か。その隙をシモンは逃さない。されに魔術を畳み掛ける。

シモンは頂点から始まる五芒星を空中に描く。魔術力の光で描かれた五芒星は残光として空中に残る。そして光の五芒星の中央に指先を当てながら呪文を唱える。

「ヨド・ヘー・ヴァウ・ヘー」

光の五芒星が空を走り神核の正面で止まる。同じように五芒星を空中に描き、中央を指先を当てながら呪文を唱える。

「アー・ドー・ナイ」

光の五芒星は神核の右側に飛び陣取った。

更に五芒星を二つ描きその度に呪文を唱える

「エー・ヘー・イー・イェイ」

「アーグラー」

光の五芒星二つが神核の後方、左側を陣取り神核は四つの光の五芒星に包囲された。

シモンは両腕を広げ足を閉じ己を十字架に見立て更に呪文を唱える。

「我が前にラファエル、我が後ろにカブリエル、我が右手にミカエル、我が左手にウリエル。我が周りに五芒星燃え、我が頭上に六つの星輝く」

神核を包囲する四つの五芒星とその頭上に現れた六芒星が神核を完全に包囲し神核を封じる結界が完成した。そして再び空中に十字を描き最初に唱えた呪文を再度唱える。

「アテー・マルクト・ヴェ・ケーブラー・ヴェ・ケードラー・レ・オーラーム・アーメェン」

五芒星と六芒星の結界内に魔術力が注入され神核を封じる結界が完成された。

これは五芒星の小儀礼と呼ばれる魔術である。魔術を学ぶ者であるならば初期の段階で学ぶ魔術であり、マンガ、アニメ、ゲーム、小説などでも頻繁に使われる有名な魔術でもある。主な利用法は攻撃的な念を向けてくる者に対しての防御や除霊などであり、これは魔術師本人はもちろん他者に行い防御する事が出来る。だがこの防御魔術を敵である神核に行った。防御も使い方次第であり味方に使えば鉄壁の壁となり敵に使えば己を封じる檻ともなる。今回シモンは後者を目的に五芒星の小儀礼を行ったのである。

「これで何とかなったか……あとは堰を開けてもらってもう一度人工血液を流してもらえば……」

その時神核に変化が起こった。神核の光が失われ、表面にひびが入る。日々は縦横無尽に走りバンッっという音を立てて爆散した。

「嘘だろ……壊れた?」

シモンは唖然としつつもその結果を受け入れるしかなかった。



その後、席が開かれ救出されたシモンはタバサに神核を破壊した事を伝えた。喜ぶタバサは続けてと今ユエイ・リアンに封じられている残り三体の神核の元に案内され、五芒星の小儀礼をおこない神核を破壊した。だがシモンは妙な違和感を拭いきれなった。

「偽神二体でも破壊しきれなった神核を僕個人が行った魔術で果たして破壊出来るものだろうか……?」





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