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魔術師転生  作者: サマト
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四十一話 第三の島の秘密

ファルケ・ウラガンとの死闘を制してから三日が経った。シモンは目の前に広がる高い塀とやたらと頑丈で高い鉄の門を見上げつつぽつりと呟く。

「ここがサフィーナ・ソフに接舷している第三の浮遊島、ユエイ・リアンに繋がる門か……」

サフィーナ・ソフには三つの浮遊等が接舷している。高速強襲島シー・マーレー、製造補修島ソル・シャルム、そして探索調査を目的とする浮遊島、それがユエイ・リアンであった。

このユエイ・リアンは他の二つの浮遊島と違って入る事が出来る者が限られている。偽神の操縦者であるアッシュとサリナでさえここには入る事が出来ない。それなのに神殺しに入ったばかりであるシモンにはこの島に入る資格ありとされ召喚されたのである。

シモンは正面の鉄の門を見上げ息を飲む。目の前の門は人を寄せ付けない威圧感がある。狂神に対してでさえ怖気つく事がないはずなのに悪寒を感じてしまう。背中に冷や汗が流れるのを感じる。シモンはゆっくり回れ右をする。

「……帰ろう。理由があってこれなかった事にしよう……そうだ、アッシュさんかサリナさんの方に混ざろう。あっちの方がまだ健全だ」

ユエイ・リアンに呼ばれる事がなかったアッシュは自己鍛錬に明け暮れ、サリナはルーナとメルと女子会を開いておりかしましく喋くり合っている。

ちなみにインディ・ゴウにはミドルネームとしてメルクリウスの名を与え、インディ・ゴウ・メルクリウスとなった。ミドルネームの頭文字をとってメルと呼ぶ事にしたが意外と気に入っているようである。

メルクリウスは水星のラテン語読みでローマ神話では神の名前となっており、錬金術の祖ともいわれるヘルメス・トリスメギトスと同一視されている。シモンはインディ・ゴウ・メルクリウスが作り出した太極球の効果が錬金術の様に思えた事とインディ・ゴウの装甲の紺碧色を考えてメルクリウスの名をインディ・ゴウに与えたのだった。

そんな事を訳もなくぼんやりと考えていた時、後ろの鉄の門が左右に横開きに開いていった。シモンは振り向き門の向こうを見る。門の向こうは薄暗くよく見えない。それがまた不気味さを演出する。思わずゴクリと唾を飲むシモンの耳に何か音が聞こえてくる。カツーン、カツーンと響く足音、誰かがこちらに歩いてくる。

(……逃げるタイミング逃したか)

シモンは顔を手で押さえため息をつく。

(やっぱり逃げるのはよくないな。毒を食らわば皿までか……諦めよう)

そんな事を思いながら足音の主を待つ。門の暗がりから出てきたのは一人の女性だった。年の頃は三十前半、理知的な顔立ち、こちらでは珍しい長い黒髪を一房の三つ編みに結っている。白衣を身に纏っており何らかの研究職に就いている事をうかがわせる。

「お待ちしておりました、シモン・リーランド君。私はこのユエイ・リアンの総責任者のタバサ・クリステアと言います」

そう言ってタバサは右手を差し出す。

「あ、初めましてシモン・リーランドです」

シモンも右手を差し出しタバサの右手を握り返す。

「今日はあなたに力をお借りしたくお呼びしました」

「僕の力をですか?」

「ええ、魔術という魔法とは異なった力の使い手。狂神に対抗しうる力の持ち主であるあなたの力を」

落ち着いて喋っているのだがタバサの右手に無意識に力が入り、シモンの右手を強く握りしめる。タバサの握力ではシモンに痛みを与える事は出来ないのだが込められた力には何やら複雑な感情がある様に感じられた。

その後シモンとタバサは五つの門を通る事になる。一つの門を通る度に魔法的な消毒と走査が行われ、身体的精神的な異常、他者の魔法による透視や盗聴がないか走査された。この厳重さにシモンは違和感を感じた。シー・マーレーもソル・シャルムもここまで厳重ではない。この第三の浮遊島ユエイ・リアンは他の二つの島とは何か別の役割があるのかもしれないと感じていた。

そんな事を考えているうちに五つの門を通り過ぎようやく外に出る事が出来た。そして最初に目に入った光景にシモンは絶句した。

「これは……」

シモンの目に最初に入ったのはある建物であった。それは一言で言えば要塞、それも難攻不落という形容がつく堅固な要塞であった。それだけならここまで驚愕はしない。驚愕させているのは別の事だった。要塞の壁面これがひと際異様だったのだ。幾何学模様が一面に刻まれており、それが迷路のようで見ていて目がチカチカしてくる。

「何で壁面にこんな模様が刻まれているか分かりますか?」

タバサにそう聞かれシモンは考え込む。今自分が試されているように感じられたのだ。下手な事は言えないと慎重になり考える。

(この幾何学模様、間違いなく迷路だ。迷路は人を迷わせそこに入った者を出さないようにする物だ。だが何かを封じ込めるために迷路を作ったという話はよくある。クレタ島の迷宮の話は有名な話だ。この幾何学模様も何かを表に出さない様な意味合いがあるんじゃないのか?)

シモンは自分の考えを口にした。

「これは……何かを表に出さない……封印の意味があるんじゃないですか?」

それを聞いてタバサがギョッとした。

「驚きました。よく分かりましたね」

タバサは心底驚いているようだが、シモンは少しムッとした。

(そこまで無知じゃないよ、僕は)

「この迷路の模様はあるものを表に出さない為の封印魔法なのです。このが模様がある限り効果は継続するようになってます」

「やっぱりそうでしたか。でもここまでの事をしてまで封じる物って一体……? というかこの島は一体何なんですか? 狂神との戦闘後の環境変化について調査する為の島だと聞いていたのですが?」

「……それは表向きの話です。本来の目的は……別にあります」

タバサが目的と言った途端、一瞬だが怒りの感情が垣間見えた。一見冷徹な学者風であるのだが内面は熱い人なのかもしれない。

「その目的とは?」

「その目的をこれから見てもらいます。その上で力と知恵を貸してください」

そう言ってタバサは頭を下げた。年上の女性に頭を下げらえるのは何かムズムズする。

「頭を上げて下さい。僕に出来る事なら精一杯やらせてもらいますから!」

「よろしくお願いします」

頭を上げ微笑むタバサ。その柔らかな笑顔にシモンは赤面してしまう。それを不思議そうに見るタバサ。

(この人、仕事が恋人タイプだ。自分の美貌を自覚してない)

シモンは深呼吸して気を落ち着かせタバサを即す。

「さあ、早く行きましょう。僕を呼んだ理由がこの要塞の中にあるんでしょう。それを早く見せて下さい!」

「そうですね。行きましょう」

シモンとタバサは幾何学模様が刻まれた要塞風の建物に向かって歩を進めた。そこに封印されている物を見てシモンは狂神という存在の本質を垣間見る事になるのだった。










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