第三十九話 滅びの光
「じゃあ私たちがファルケ・ウラガンの攻撃を防御するからシモン君は攻撃を……」
ルーナ・プレーナの前に出ようとするインディ・ゴウをシモンは押し留める。
「違います! サリナさんは後ろに下がって下さい!」
「? 何で? ファルケ・ウラガンの攻撃を防げるのはこの太……極球だったっけ? これしかないんじゃないの?」
(そうだよシモン兄ちゃん。私たちでアイツの攻撃を防いで後ろからシモン兄ちゃんが攻撃するのが有効だよ。二対一で戦うのは恥ずかしい事じゃないんだから……)
「それはそうなんですが僕に考えがあります。僕の後ろに……少し遠めに下がって下さい」
「でも……」
サリナが更に何か言おうとするがその前にインディ・ゴウが自ら後ろに下がる。
「ちょっと! インディ・ゴウ、勝手な事しないで!」
(シモン兄ちゃんには何か考えがるんだよ。だったらそれに賭けてみようよ。それにファルケ・ウラガンが最大攻撃を繰り出す為のチャージ中だからこうやって話が出来ているけどいつそれが終わるか分からない。悠長に相談している時間はないし決断は早い方がいいと思う)
人格が目覚めたばかりのインディ・ゴウに正論を言われ、サリナはグウの音が出ない。
「……もう分かったわよ! インディ・ゴウ、制御をこちらに返して!」
サリナは苛立った感じでインディ・ゴウに命じ、足早に歩く。そしてルーナ・プレーナから三十メートルほど離れた所で立ち止まり振り返る。ルーナ・プレーナの周りに浮かぶ四機の魔術武器から赤、青、銀、オレンジの光が立ち上り、ルーナプレーナの頭上で融合し斑の光球が形成されるのが見えた。遠目に見ても分かるぐらいの力の高まりのサリナもインディ・ゴウも息を飲む。
(……スゴイ……あれなら勝てるね、サリナ姉ちゃん!)
インディ・ゴウの問いにサリナは素直に頷く事が出来なかった。サリナはこれまでアッシュと共に幾度も狂神と戦ってきてが名前持ちの狂神は本当に手強いのだ。名前を持つという事は人に信仰されているという事なのだ。その信仰心がある限り完全に滅ぼすという事が出来ない。一時的に行動不能にする事が出来たのが神滅武装だったが今はそれがない。それ新滅武装と同等の事があの斑の光球に出来るのか分からない。効果が分からないそれを信頼する事がサリナには出来なかった。
「よいのか?」
ルーナ・プレーナの頭上で形成された斑の光球を見上げつつファルケ・ウラガンはシモンに問うた。
「よいのかとは?」
「キサマが作り出した頭上の物……大したものだ。我にダメージを与える事は出来よう。だが倒すには至らん。その一撃を耐えきった後、我の音撃で貴様は確執に滅ぶ……今ならまだ間に合うぞ。後ろの女を呼び戻したらどうだ? 二体で戦えばまだ勝ち目があると思うが?」
(悔しいけど私もそう思うよ。サリナお姉ちゃんとインディ・ゴウちゃんと戦うべきだよ!)
だがシモンはルーナとファルケ・ウラガンの提案を受け入れなった。
「意外な提案ですが却下します。今の状態でないと僕に勝ち目はありませんから」
「ほう……また小細工を弄するか? 何でもやるがよい。そのすべてを打ち破った上で滅ぼしてくれよう!!」
(お兄ちゃん!?)
「いいから、ルーナも僕を信じて!!」
(分かった。私はお兄ちゃんを信じる!)
「ヨッシャァァァ!!! イクゾォォォ!!!」
気合と同時にシモンはルーナ・プレーナの頭上に作り出しだ四大元素混合弾を放った。ファルケ・ウラガンにではなく後方のインディ・ゴウに。
「ナニッ!?」
(お兄ちゃん!!?)
「シモン君!!?」
(イヤァァァ!!?)
サリナもインディ・ゴウも驚きながらも身を守る様に体は動く。太極球を向かってくる四大元素混合弾に向ける。太極球はその効力を発し四大元素混合弾を吸収した。
「シモン君!!」
(シモン兄ちゃん!!)
(お兄ちゃん!!)
サリナもインディ・ゴウもルーナもシモンを責める。声と思念に責められシモンは顔をしかめる。
「……一体何のつもりだ? 仲間を裏切ろうが何をしようが貴様を殺す事には変わらんぞ」
一歩間違えれば仲間を殺す所業をやってのけたシモンをファルケ・ウラガンは訝しげな顔で見る。僅かに殺気が緩んでいた。
「だから言ってるでしょう。これが僕の勝ち目だと!」
ルーナ・プレーナが真横に動きインディ・ゴウに射線を開く。
「サリナさん! 撃って!!」
サリナはハッとして太極球をファルケ・ウラガンに向ける。ファルケ・ウラガンもその意味を理解した。
「攻撃魔術の増幅が目的か!!」
太極球―――魔術力と魔法力を融合させたこの特殊な球の効力は向かってくる攻撃を吸収、それを内部で増幅し発射する、この三工程である。この最初の工程である攻撃を吸収、これは敵、味方どちらの物であろうと構わないのである。敵の攻撃の増幅して返す、味方の攻撃の増幅して敵に放つ、どのような使い方も出来る使い勝手のいい球ではあるが欠点もある。敵の攻撃はともかく味方の攻撃を増幅する作業は相手を警戒させる恐れがあり逃げられる、もしくは攻撃方法を変えられる恐れがあった。ファルケウラガンの場合はヒット&ウェイの攻撃に切り替えられ、そうなるとこちらが勝利する事が出来ない。それを防ぐ為にシモンは一芝居打った訳だが……。
「こちらの方が先に力の増幅が終わったぞ」
ファルケ・ウラガンが絶望を告げるように呟き嘴を開く。そして絶望の音が鳴り響く。音は空間を伝いインディ・ゴウに届……かなかった。
インディ・ゴウの眼前に巨大な岩盤が立ち塞がったのだ。インディ・ゴウの後ろに回ったルーナ・プレーナは咄嗟に四機の魔術武器のうち地を象徴する漆黒の円盤を掴み、地の魔術により岩盤を作り出したのだが咄嗟である為、魔術力の練りが足りない。岩盤はファルケ・ウラガンの放った音撃に削られ数秒しか持たなかった。勝利を確信し笑みを浮かべるファルケ・ウラガンだったが次の瞬間絶望に染まった。岩盤の向こうから放たれた強力な光が音撃を打ち消し、その先にいるファルケ・ウラガンを飲み込んだのである。回避も防御も出来ない圧倒的な熱量を持つその光に抵抗する術はなかった。
「グッアァァァァ!!!!」
ファルケ・ウラガンは光の中で己の体が焼かれ灰となっていくのを感じ恐怖する。だが己の中にあった黒い何かが消滅した途端、灰となっていく恐怖も消え己の運命を受け入れる事が出来た。
光が治まり辺りはシンッ……と静まる。ファルケ・ウラガンは確実に倒せたのだが……だがシモンは呆然と呟いた。
「……マズいだろ、これ……」
四大元素混合弾を太極球に吸収させ増幅させるとこの様な破滅の光になるとは予想もしていなかった。これを人の生活圏でやったとしたらその被害はいかほどか。それを想像するとシモンは身震いしてしまう。
「これは……永久封印だな……」
シモンは破滅の光の永久封印を決めた。だが、シモンはまだ知らなかった。ルーナ・プレーナとインディ・ゴウの二体で行うから危険であってあともう一手ある事を行えば人の手で制御、それでいて威力を維持出来る最強最大の必殺魔術が出来る事をシモンは知らなかった。




