第三十七話 法と術の融合 太極図?
(……リナ……ちゃん……サリ……ねえ……サリナ姉ちゃん!!)
「!? ヒャイッ!!」
耳元で誰かに叫ばれたような気がしてサリナは目を覚ました。まだ意識がはっきりしておらず自分がどこにいるのか分かっていなかった。
「……ここは……?」
(ここは私の中だよ、サリナ姉ちゃん)
頭に直接響く謎の少女の声にサリナは一瞬身を竦ませる。
「な……ナニ? 誰かいるの?」
(ずっと一緒にいたのに今更だよ、サリナ姉ちゃん)
「一緒にいた?」
(そうそう)
「一緒に居たと言っても姿は見えないし……ウーン……分からない。あなたは誰なの?」
(意外と鈍感だなあ。サリナ姉ちゃん)
「毒舌だね、キミ……ヒントを頂戴?」
(しょうがないなあ。ヒントと言うかもう答えを言ってるような物だけど……サリナ姉ちゃんは私に乗って狂神と戦ってきたんだよ。昔も今も……)
「私に乗ってって……!」
サリナは一つの可能性に思い至り確認する。
「もしかして……インディ・ゴウなの?」
(セイカ~イ……何だけど……)
「何だけど?」
(インディ・ゴウって名前なんかヤダ。私、女の子なのに……)
「性別があるの? そっか、それだと嫌だよね。インディ・ゴウってなんか勇ましい名前だもの」
(サリナ姉ちゃん、何とかならない?)
「ウーン……改名するにしても私一人じゃ何とも……そうだ、シモン君に相談してみよう。彼、三号機の形態に合わせてルーナ・プレーナ、ルーナ・ノワって命名するぐらいだからネーミングセンスあるし……ってそんなこと話してる場合じゃない! ファルケ・ウラガンはどうなった!? シモン君は無事なの!?」
(うん、シモン兄ちゃんは無事だよ。それどころか―――)
インディ・ゴウはファルケ・ウラガンの攻撃を受けて倒れてからの事を話した。
「……私たちが回復するまでの時間稼ぎをしてくれてるんだ……私は特に怪我はないし、インディ・ゴウは動ける?」
(ウン、全身の火傷は治したし、出血も止まったよ。ただ流れた血は元に戻ってないから出力は制限される。シモン兄ちゃんとルーナちゃんの援護が精一杯だと思う)
「そっか……しかし、ファルケ・ウラガンのあの攻撃……何だったんだろう?」
(分からない。でも、ファルケ・ウラガンのあの不思議な音を聞いた途端、比喩じゃなくて本当に体液が……が沸騰したんだよ)
(謎の音で液体が沸騰した……何でそんな事が……考えてても埒が明かない。同調する事は出来る?」
(もちろんだよ、サリナ姉ちゃん……同町開始!!)
インディ・ゴウの掛け声を聞いた途端、目の前が真っ暗になる。そして何度か瞬きするうちに外の光景に切り替わった。インディ・ゴウの視覚に同調した証拠だった。続いて触角を同調させ体を起こす。足元に広がる血だまりを見てサリナは顔をしかめる。
「ねえ、インディ・ゴウ……本当に大丈夫?」
(正直に言うとちょっとツラい。でも、シモン兄ちゃんとルーナちゃんが戦ってるのにそんな事言ってられない)
「そっか。インディ・ゴウはいい子だね」
(エヘヘッ、そうかな)
照れくさそうに笑うインディ・ゴウに緊張が走る。
(上から何かが来る! いや、落ちてくる! サリナ姉ちゃん早く隠れて!)
「隠れてって言われても!?」
サリナはインディ・ゴウを動かし、岩山から飛び降り着地すると同時に岩山に身を隠す。
「……何が落ちてきたんだろ」
岩山の影から顔だけを出して確認する。
地に伏しているルーナ・プレーナとそれを見下ろしているファルケ・ウラガンの姿があった。
「シモン君!!」
(シモン兄ちゃん!! ルーナちゃん!!)
サリナとインディ・ゴウの意志が一致し、岩山から飛び出し、ルーナ・プレーナを庇うように前に立ち両手を広げる。そしてファルケ・ウラガンが自分を一度倒した謎の技を使う前の予備動作に入っているのが目に入った。
「マズい、あの攻撃が来る!!」
倒れているルーナ・プレーナを見た途端、考えるよりも早く体が動いていた。だから牽制する為の魔法の一つも出す事が出来ない。出来るのは徒手空拳で殴りつけるぐらいだが、そんな攻撃ではファルケ・ウラガンを倒すところか触れる事さえ出来ないだろう。
「そんな……サリナさん! 目を覚ましたのなら―――」
後ろからシモンの心配げな声が聞こえてくる。
(シモン君、自分の事より私の心配してくれるんだ……)
その声に覚悟を決めサリナは拳を握りしめる。その時、インディ・ゴウの思念がサリナの脳裏に響く。
(待って、サリナ姉ちゃん!!)
「なに、インディ・ゴウ?」
(右手に魔法力を集めて!!)
「魔法力を?」
魔法力は魔法を行う際に使用されるエネルギー。これを元に地水火風ありとあらゆる現象を引き起こす事が出来る。魔法力単体でも攻撃力は十分ある。だが狂神は魔法そのものが効かない。魔法力による攻撃は間違いなく通用しない。
「それじゃあ……」
(それから左腕の同調を解くよ)
「へっ?」
何故と聞く前に左腕の感覚が消失した。それなのに左腕は真横に伸びたままだった。
「どうして? 同調が解けたのに?」
(今、左腕は私が制御してるからだよ)
「何で……そんな事を?」
(それはこうする為だよ)
サリナはインディ・ゴウの顔を左側に向ける。左手の先に黒い光の球が浮かび上がっていた。
「これは!?」
(魔術力を集中して作ったものだよ。ほら、サリナ姉ちゃんは魔法力を集中して、早く!!)
訳も分からないままサリナはインディ・ゴウの言う通りに魔法力を右手に手中する。インディ・ゴウの右手に魔法力の白い光の球が浮かび上がる。
「それでこれをどうするの?」
(胸の前に持ってきて魔法力と魔術力を合わせて!!)
「そんな事が出来るの!?」
疑問に思いながらもサリナは右手の魔法力の球を胸の前に持っていく。インディ・ゴウは左手の魔術力の球を胸の前に持っていき二つの異なった力の球を合わせる。白と黒の球はお互いを打ち消すことなく混ざり合い一つの球体となった。
「これは……」
(これをファルケ・ウラガンに投げつけて!)
サリナはアタフタしながらも白と黒の球体を掴みファルケ・ウラガンに投げつけた。というよりは放り投げたげたといった感じてスピードが全くない。ファルケ・ウラガンは避けるに必要はないと無視し、口を開いた。そこから放出された謎の怪鳥音が轟き響く。その音は一瞬にしてインディ・ゴウとルーナ・プレーナに届……かなかった。インディ・ゴウとファルケ・ウラガンの中間の位置で浮かんでいる白と黒の球がファルケ・ウラガンの音を吸収し無効化した為だった。
シモンもサリナもルーナもファルケ・ウラガンさえもこの結果に驚いていた。
(エヘンッ!)
唯一インディ・ゴウは自慢げだった。
「ファルケ・ウラガンの攻撃を吸収したあの球は一体なんだ? いやそれよりもあの球の文様……この世界に道教なんてないだろ……偶然か?」
インディ・ゴウとファルケ・ウラガンの中間に浮かぶ白と黒の球は前世ではオカルト、魔術に関係ある無しになじみのある図形と非常に酷似していた。偶然であるとは思うのだが……シモンは思わずその図形の名前を呟いていた。
「太極図……」




