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魔術師転生  作者: サマト
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第三十一話 罪の懺悔とその贖罪

「狂竜神のせいじゃないんです……僕がブーケ・ニウスとインディ・ゴウの人格を消してしまったんです」

シモンは苦し気に呻くようにそう言った。それを聞いたアッシュはしばらく無言で考えた後、口を開いた。

「……どうしてそう思った。そう思った理由があるんだろ?」

「……はい」

ルーナ・ノワが頷かせ、自分がブーケ・ニウスとインディ・ゴウの人格を打ち消したという結論に至った経緯を話し始めた。

「あの狂竜神なんですが魔法を使って僕の攻撃を防いでいたんです」

「魔法を使った? それは変だ。アイツら狂神は魔法を使う必要がない。あらゆる存在の頂点たる存在には呪文も魔法陣も必要とせず、思っただけで現象が起こる。そう言う理不尽な存在だ。それが魔法を?」

「思うんですがブーケ・ニウスとインディ・ゴウに融合した狂神はそれほど強いものじゃなかったのかもしれません。それ故に取り込んだものの能力を使わざる負えなかった。その能力を使うためにもインディ・ゴウの人格を消すわけにはいかなかったと思います」

「お前のルーナ・ノワと戦っていた時はまだ生存していたと?」

ルーナ・ノワが頷いた。

「ブーケ・ニウスとインディ・ゴウの人格を打ち消したのは狂竜神との最後の打ち合い……四大元素の力を込めた拳が入ったあの瞬間だったと考えています。あの拳が入った瞬間、ブーケニウスとインディ・ゴウの仮面から光が消え黒く濁った。それが人格が消えた瞬間じゃないかと思います」

「……言われてみればそうかと思うがそれはお前の想像だろ。何の根拠もない」

「確かに想像ですが……そう思ったら戦うのが怖くて……僕は……ブーケ・ニウスともインディ・ゴウとも戦えません。それが模擬戦でも」

シモンの独白にアッシュは溜め息をついてこう断じた。

「バカ! バカだろ、お前!」

そう断じられ、シモンは何も言う事が出来なった。

「仮にシモンが言った通りだとしても人格を消したんじゃなくて救ったんじゃないか。狂神に言い様に使われるより余程ましな最後だろうが」

「でも、もっとうまく出来たんじゃないか、無事に助ける事が出来たんじゃないかと思うと……」

「生真面目だねえ……いいか、シモン。人格があろうがなかろうが俺たちが狂神に対抗するには偽神に乗るしかないんだ。動かせて戦えれば人格がある無し何て二の次、三の次だ。些末事だ」

「でも、僕は言うなれば人を殺しをしたようなもので……」

自分を許さないシモンに焦れたアッシュが妥協案を出した。

「どうしても自分が許せないというなら尚の事模擬戦をやってもらう」

「そんな……どうして……」

「今のブーケ・ニウスは生まれ変わったばかりだ。いわば赤子も当然。どんな能力があるか分からずに動き回る赤子何て危なっかしくて見てられないだろ」

シモンは想像してみてその滑稽さにプッと吹き出した。

「模擬戦をする事でどんな能力があるか、新しい能力を引き出す事が出来れば今後狂神と戦う時に選択肢が増えるし、その分生き残る事が出来る。その手助けが出来れば十分贖罪になると思わないか?」

アッシュの提案にしばらく押し黙り、口を開く。

「……分かりました。模擬戦をやりましょう」

「その気になったか」

「本当はまだ迷っています。でも生まれたばかりの赤子を育てる事が贖罪になるのなら僕はその赤子を育てます」

(それ、私もやるよ)

「ルーナ?」

(私もお兄ちゃんと一緒に罪を償うよ。私もお兄ちゃんと一緒に狂竜神と倒したんだし同罪だよ)

「あの時ルーナ・ノワを動かしていたのは僕なんだ。ルーナには罪はないよ」

(いやいや、そんな事はないよ)

「いやいや、そんな事はあるよ」

「いやいや」

(いやいや)

「お見合いかっ!」

お互い謙遜し合うシモンとルーナにアッシュが突っ込む。

「どっちに罪がある? そんなのどうでもいい! それより早くやるぞ! ホレ、早く立て!」

ブーケ・ニウスが立ち上がりルーナ・ノワの手を取り立ち上がらせる。ルーナ・ノワの前をブーケ・ニウスが歩く。

まだ迷いがあるシモンの思考がルーナ・ノワの挙動に出ており動きが緩慢だ。それに対しブーケ・ニウスの足取りは軽い。

「……何か楽しそうですね」

「そりゃそうだろ。こいつとまた一緒に戦う事が出来る。こんなうれしい事はないだろ」

ブーケ・ニウスに足取りは軽い所かスキップまでしている。

(お兄ちゃん、アッシュさんって……)

「……僕より大人なのに子供っぽいな」

シモンは思わず笑ってしまう。不意に先を進んでいたブーケ・ニウスの足が止まりこちらに振り替える。それに合わせてルーナ。ノワも足を止めた。

「ここら辺でいいか?」

今いるのは遮蔽物が全くないどこまでも広がる砂漠。切った張ったはもちろん多少の爆発などが起こっても誰にも迷惑が掛かる事がない。

「これからルーナ・ノワと戦う事になるわけだが……ここでひとつルールを決めておこうか」

「ルール……ですか?」

「ああ、ルーナ・ノワもブーケ・ニウスも自己修復が出来るからな。決めておかないとどこまでやってしまうか分からん」

「僕はそこまでやるつもりは……」

「だろうな。だからこれは俺に対するルールだ」

そう言われた時シモンは背筋に寒気を覚えた。

(この人、僕とルーナにどこまでやるつもりだったんだろう?)

「時間は最初に言った通り十分。その間だったらどんな能力も使用可能。ただし致死性の高い攻撃は無しとする。そう言う攻撃を受けたとしても自己修復が働くから滅多な事では動けなくなるという事はないだろうが」

「何か大雑把何ですが……分かりました」

「じゃあ……始めるぞ!」

模擬戦が始まった。

ブーケ・ニウスが突然己の周りに障壁を張った。それを見てシモンはオヤッと思った。ここまでの会話からしてまずは己の拳をぶつけてくる、肉弾戦を挑んでくると思ったのだがこれは意外だった。

「なあ、シモン。この新たなブーケ・ニウスが取得した基本能力、障壁を張る能力って便利だな」

突然そう問われシモンは驚きつつ律義に答えた。

「? ええ、そうですね」

「大きさや強度も自由自在。それはつまりこうする事も出来るって事だ」

ブーケ・ニウスが右掌を天に向け腕を真上に伸ばす。障壁が縮小していき掌の上に収まるくらい大きさにして右掌の上に乗せる。

「……随分と器用な事をしますね?」

「そうだろう。これを更にこうすると……」

掌に収まるくらいの障壁が円盤状に変化する。そしてそれを投げつけた。シモンはルーナ・ノワを動かし円盤を避けるが間に合わず右腕にかすってしまう。円盤に触れた箇所に痛みが走り、その後ぬるりと生ぬるいものが腕を伝う。ルーナ・ノワの装甲のを突破し、その下の皮膚を切り裂いたのだった。

「今のは?」

「この障壁は身を守るだけのものに非ず。攻撃に転ずる事も出来る。これを一個だけじゃなくてこうやったら……シモンはどう躱す?」

いつの間にかシモンの周り三百六十度全てに障壁の円盤が展開されていた。

「これだけの数の円盤をいつの間に?」

「この円盤作り出すのにそんなに魔力使わないし使い勝手がいい。さあ、どう対処する、シモン!!」

アッシュは円盤を操作し中央にいるシモンに飛ばした。どこにも逃げ道がないと悟ったシモンはルーナ・ノワの周り障壁を展開する。障壁と円盤がぶつかり合い耳障りな音が響き渡る。そしてヒビが入る。あと十秒もすれば障壁が突破され無数の円盤に身を晒す事になる。そうなる前に……。

「ルーナ!!」

(分かってる、お兄ちゃん!!)

言うが早くルーナはそれを実行した。次の瞬間障壁が破壊され、無数の円盤がルーナ・ノワに殺到する。円盤がルーナ・ノワに接触する直前、ルーナ・ノワが展開する障壁より更に強力な障壁が円盤を弾き飛ばした。

「ナニッ!?」

驚きの声を上げるアッシュの視線の先にいたのはルーナ・ノワではなかった。

「それが……ルーナ・プレーナか?」

障壁が破られた瞬間にルーナ・ノワからルーナ・プレーナに変身し障壁を張り直したのだ。ルーナ・プレーナは魔術特化型である為、障壁の強度はルーナ・ノワを大きく上回る。その為、ブーケニウスの障壁の円盤がルーナ・プレーナの障壁を突破する事が出来なかった。

「今度はこちらの番です!」

シモンがそう言うとルーナ・プレーナの周りに展開された四機の魔術武器のうち黒い杖を正面に持ってきて火の呪文を唱えた。

「ベイ・エー・トォー・エム!」

ルーナ・プレーナの正面に巨大な火球が生まれた。

「それが魔術か? 火の展開が早い!?」

アッシュが驚くのもつかの間、火球が発射され、ブーケ・ニウスが火球に飲まれて消えた……。









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