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魔術師転生  作者: サマト
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第二十七話 祝勝会と秘密の場所

暗闇の中でシモンは目を覚ました。ぼんやりしていて頭が働かない……。

「ここは……僕はどうしてここに?」

シモンは頭を振って自分に何が起こったのかを考える。血が頭をめぐりようやく思い出す事が出来た。

「……狂竜神と戦っていた……それでどうなったんだ? ここは偽神……ルーナの操縦槽か……今は起動していない。一体どうなったんだ? ルーナ、聞こえるか?」

(……お兄ちゃん)

偽神の動力源となっている仮面に宿る少女―――ルーナの思念が帰ってくるがその思念は弱々しい。

「? どうした、元気ないみたいだけど?」

(お兄ちゃん、どうしよう……)

「何があった? もしかして狂竜神がまだ?」

(狂竜神は間違いなく倒した。だけど……)

「一体何があった?」

(それはこれを見てくれれば分かるよ)

ルーナは自分の絵で見た物を操縦槽に映像として映し出す。映し出された光景を見てシモンの目が点になる。

「えっと……どうしてこうなってるの?」

(分からない……狂竜神との闘いの後、自分の修復とお兄ちゃんの回復に努めてたから。その間は外の情報が全く入らなくなってて。気が付いたらこうなってた)

ダメージがひどくなった場合自己修復にかかりきりになり身動きが取れなくなるのはルーナの思わぬ欠点だ。そうならない様にサポートするべきだったのだがサポートが出来なくなるという状況も考えて今後は戦わなければならないなとシモンは思った。だが、今は……。

「イヤだったら逃げればよかったんじゃないか? 自立起動が出来るんだし」

(そんな事したら足元の人踏んじゃうよ!)

「それもそうか……だったら外に出て足元から離れてもらうように言うしかないな」

(ウン、お兄ちゃん。お願い)

その思念と同時にシモンの背後で留め金が外れる音がした。

「……しかし、何でルーナの足元で宴会開いてんだ、カルヴァンさん?」



ルーナの操縦槽を出るシモン。ルーナの周りには足場が組まれていたため操縦槽から地上に降りるのは苦にならなかった。

「ここは……」

シモンは辺りを見渡し、ここがサフィーナ・ソフ居住区の中央に立つ塔の前である事が分かる。塔の周りはかなり広いスペースがあり、そこに人種、種族、老若男女問わずあらゆる者たちが集まって大宴会を開いていた。そこに用意された食事の匂いにシモンの食欲が刺激される。

「何か食べさせてもらわないと……」

空腹でグウグウなるお腹を擦るシモン。

「オオーイ! シモン君!!」

ルーナ・ノワから降りてきたシモンに気が付いた神殺しのリーダ―、ベネディクト・カルヴァンが声をかっける。その右隣にはファインマン・ハロウスとサリナ・ハロウス、左にはアッシュ・ローランスが座っていた。シモンはアッシュを見て思わず顔をひきつらせた。

「……アッシュさんお体に異常はありませんか?」

そう尋ねるのも無理もない。アッシュは一度、狂神に憑りつかれカルヴァンに首を刎ねられている。皮肉にも憑りついた狂神の力で首はくっついたのだがその狂神が離れた以上何らかの異常が出ていたとしてもおかしくない。

「? ああ、狂神に……憑りつかれていた時の事を言っているのか。だが、体には何の以上も出ていない。寧ろ前よりも調子がいい。それよりも……憑りつかれている間、色々助けてくれたようだな。シモン、ありがとう」

アッシュがシモンの手を握り感謝の意を述べるがシモンは困り顔になる。実際シモンは何もやっていない。それ所かカルヴァンの凶行を止める事が出来なかったのだから感謝を述べられるのは心苦しい。アッシュの顔を見れず顔を背けるシモンはふとサリナと目が合う。

(……やっぱり似てるな)

シモンは三号機の仮面に宿る少女―――ルーナと名付けている―――の事を思い出していた。髪と瞳の色が違う事、本人に比べて少し幼い事を除けば瓜二つと言っても過言ではない。思わず凝視してしまうシモンを見つめ返すサリナ。視線に耐えられずシモンが顔を逸らす。ため息が出るくらいの美少女に見つめられる事に免疫などある訳がない。

「……おい、シモン……人の孫を見つめて何のつもりだ? ……見どころがある若者だと思っていたが……孫との交際は許さんぞ!」

険しい顔になるファインマン。

「ちゃます! ちゃいますから!」

シモンはアッシュから手を離し後退る。

「ああ、逃げない逃げない」

後ろから手を回されシモンは退路を失う。誰か後ろにと首を回しシモンを捕まえている人物を見る。カルヴァンだった。少し目を離した隙に後ろに回ったという事なのだろうが足音も気配も全くしなかった。人を驚かすのに絶技を見せないでほしいとシモンは思った。

「カルヴァンさん……何でルーナ・ノワの足元で宴会何て開いてるんですか?」

「ルーナ・ノワ? ルーナ・プレーナではないのか?」

「今の形態の時はルーナ・ノワと言うんです。そう命名しました。」

「今の形態?」

サリナが食いついてきた。

「後で見せてもらうといい。かなり……ププッ……可愛いぞ」

吹き出しながら言うカルヴァン。

「可愛い?」

サリナがシモンを見るが目線を合わせない。誤魔化す為に今の状況をもう一度聞く。

「どうしてルーナ・ノワの足元で宴会を?」

「それはこのサフィーナ・ソフに住む人々に君を紹介する為だよ」

「僕を……紹介?」

「シー・マーレーを狂神から奪還、未知の力で三号機を起動させ、偽神二体を取り込んだ狂神を撃退してみせた。そんな人物を紹介しないわけにはいかないだろう。皆の希望にも繋がるしな」

「それだったら僕がルーナから出てきてからすればいいんじゃないですか? わざわざここまで運ばなくても」

シモンの疑問にカルヴァンが頬を掻く。

「そうしたかったんだが……君、外に出てこないし、ルーナ・ノワだったか……も起動停止してしまうし、こちらから外に出す事も出来ないしで困った末、ルーナ・ノワをそのままサフィーナ・ソフに運んでついでに祝勝会を開くことにした。こうやって騒いでいたら何事かと出てくるんではないかと思ってな」

「……僕が怪我をして出てこれないとかは考えなかったんですか?」

「気配を探った所では怪我をした感じじゃないし様子を見てよかったと判断した」

「気配で健康状態が分かるとは。いいや、それより……」

天の岩戸の逸話を実際にやったのかと呆れてしまう。

「僕は太陽の神様じゃありませんよ」

「? どういう意味だ?」

「こっちの話です」

不思議そうな顔をする一同を無視してその場に座り、食事を始めるシモン。

「すみません。今、僕とてもお腹が減ってるんです」

「だろうな……今は食べてくれたまえ。一息ついたら皆に紹介するからそのつもりで」



食事を始めた時、空は赤く染まっていたが今は白々と輝く月が暗い空に浮かんでいる。食事を終え一息ついていたシモンはカルヴァンに呼ばれる。二人はルーナ・ノワの足元に立つ。スポットライトが当てられ二人の姿が浮かび上がる。人々の注目がカルヴァンとシモンに集まる。こういう視線に慣れていないシモンは思わず猫背になるがカルヴァンに背中を叩かれ無理矢理背筋を伸ばされる。それを見て人々から笑いが漏れる。涙目でカルヴァンを睨むがそんな視線どこ吹く風といった感じだ。

不意にカルヴァンの口元に光の魔法陣が浮かび上がる。そこに向かって声を上げると数倍の音量で広場全域に声が届く。前世ででいう所の拡声器の役割を果たしているようである。音量を確認しカルヴァンが語り始める。

「サフィーナ・ソフに住む皆よ、聞いて欲しい。つい数時間前までサフィーナ・ソフは絶体絶命の危機に陥っていた。狂神の侵入を許し、シー・マーレーを奪われ我々の希望、偽神をも取り込み最強の狂神となり我々を強襲した」

カルヴァンのこの言葉に広場にいたすべての人々が騒めき出す。中には悲鳴を上げ泣き出す者がいた。狂神がトラウマになっている者もいるようだ。その恐怖を取り払うようにカルヴァンが言葉を続ける。

「だが、その脅威は取り払われた。その立役者となったのが彼、シモン・リーランドだ!」

人々の騒めきが止まり、改めてシモンに注目が集まる。

「彼は未起動だった偽神三号機を起動させ、初戦闘で偽神二体を取り込んだ狂神を見事に屠って見せた。彼の出現はこれからの戦いを変える! 新たな勇者、新たな神殺しは長く続く狂神との闘いに終止符を打つと私は信じている!」

ドッと歓声が沸いた。

「頼むぞ、新たな神殺し!!」

「みんなの仇を取ってくれ!!」

「息子と孫の仇を!!」

「狂った神なんてぶっ殺せ!!」

皆の歓声にシモンは後退るがカルヴァンが逃げ道を埋める。

「ここで偽神三号機の起動と新たな力を見せてもらおうと思う!」

この言葉に歓声が止まりまた騒めき出す。偽神三号機の新たな力とは何ぞやと話し合っているようである。

「……ちょっとカルヴァンさん、聞いてませんよ。何をしろって言うんですか?」

「あの……ルーナ・プレーナだったか? あの形態になってくれればいい」

「……いやですよ、恥ずかしいですから。それにルーナがいいと言うか……」

(私はやってもいいよ)

突然ルーナの思念がシモンとカルヴァンに届く。シモンとカルヴァンがルーナ・ノワを見上げる。

「おお、やってくれるか?」

「……いいの、ルーナ? 見世物になるって事だけど……」

(いいよ、いいよ。私が変身する事で喜んでくれるのなら)

「という事だ、シモン君やってくれ」

シモンは溜め息をついて頷いた。

「……分かりました」

シモンはルーナ・ノワの背後に回り足場を登りルーナ・ノワに搭乗する。その間に足元に集まった人々は酒瓶や皿を持って移動しルーナ・ノワが移動できるスペースを作る。それを確認したシモンはルーナ・ノワと同調し立ち上がる。その際、組まれた足場が崩れないよう注意する。一歩踏み出すとそれを見ていた人々からどよめきが起こる。

「じゃあ、いくよ!」

(うん、いいよお兄ちゃん)

「変身だ!!」

(変身だ!!)

シモンの声とルーナの思念が重なり、ルーナ・ノワが跳躍した。空中でルーナ・ノワの体に変化が起こる。ルーナ・ノワの体が頭一つ低くなる。人工筋肉が縮み屈強な体格が華奢な体格に代わる。暑い装甲が薄くなりロングスカート状に代わる。四機の魔術武器が生成され周囲に展開される。着地と同時に決めポーズを取り、ルーナ・ノワからルーナ・プレーナへの変身が終了した。

先程より更に大きな歓声が上がる。中にはルーナ・プレーナを拝むものまでいた。

「……ところで……何で決めポーズをとるんだ?」

(私は何もやってないよ。お兄ちゃんが自分でやってる)

「嘘だろ……?」

(ホント)

決めポーズを取りたいという願望があるのだろうかと悩むところだが……。

「……みんな喜んでいる事だし……もう一つサービスしてあげようか」

(なにをするつもり、お兄ちゃん?)

「ベイ・エー・トォー・エム……」

ルーナ・プレーナの周りに浮かぶ四機の魔術武器のうち火の杖が赤く輝いた。複数の火球が生成された。火球が夜空に上がり破裂した。赤、青、緑の閃光が夜空を彩る。その光景に人々は感嘆の声を上げる。

(何これ、すっごいキレイ……)

ルーナ・プレーナは火の魔術にこんな使い方があるとは思わず感嘆の思念を飛ばす。

「花火をイメージしてやっていました」

(花火っていうんだ……)

感心するルーナ・プレーナ。自慢げに胸を張るシモンは不意に人の輪から抜けようとするカルヴァンの姿を見た。ルーナ・プレーナと同調するシモンの視覚はカルヴァンの表情が見えていた。

(何であんな……険しい表情を……?)

シモンの思いは誰にも、ルーナにも届く事はなかった。



サフィーナ・ソフの地下深く、そこには空洞があった。何百年と何者もの侵入を阻止する空間に何かが侵入した。それはヒルだった。そのヒルはサフィーナ・ソフに侵入、シー・マーレーの制御を奪い、二体の偽神を取り込んだ狂神だった。ルーナ・ノワとの闘いにより一掃された筈だが最後のあがきを見せ、逃げる事が出来た最後の一匹だった。最早何の何の力もなくただ這う事しか出来ない。

(あれだけいた群体が今や我一匹とは……ここまでか?)

力無げな思念を飛ばす狂神の歩むが不意に止まった。巨大な水晶の構造物が存在していたからだ。水晶の構造物の中にあるものを見てヒルは驚愕した。

(何故あのお方がここに……?)

「……見ちゃあいけない物をみてしまったなあ」

後ろから突然声が聞こえた。狂神が驚き声の主を見た。それは八面六臂の強面の戦神だった。六本の腕が持つ大剣が振り下ろされる。それがヒルが見た最後の光景だった。

「ここまで来て……そしてこれを見るとは……最後の最後に信じられん事をやってのけたな、狂神よ」

カルヴァンは刀を納刀しつつ言う。

「お前まで狂神にさせる訳にはいかない。もう少しここで眠っていてくれ……」

カルヴァンそれを見上げつつ独り言ちると姿が消えた。そしてそこは再び何者にも侵されぬ静寂に包みこまれた。










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