第十九話 偽神三号機対狂竜神 敗北……
ソル・シャムルとシー・マーレーが激突した。凄まじい轟音と振動、お互いの大地の一部が崩れ落ち大地に落下する。下は人が住んでいる形跡はなく被害は出ていないのがせめてもの救いだった。激突した事によりシー・マーレーは推進力を失い、その場で停止ただの浮遊島となる。
「凄い衝撃だったな……」
ソル・シャルムの操縦室で転倒したままのファインマンが真面目な顔で呟く。
「倒れたままで凄んでも滑稽だぞ、ファインマン」
カルヴァンが吹き出しながら言う。
「ウルサイ! それよりお前は何で立っていられるんだ?」
「努力の賜物だ」
「努力で出来る物なのか?」
「どうでもいい。それよりシー・マーレーが停止した。すぐに乗り込んで制御を取り戻すぞ!」
その時、シーマーレーの状態をチェックしていた作業員の一人が声を上げた。
「その必要はありません! シー・マーレーは今現在誰の制御も受けていません。こちらの制御下に置く事が可能です」
「何だと!? それは本当か!? それならすぐにこちらで制御しろ!?」
「ハイ」
作業員が魔法コンソールを操り数分でシー・マーレーの制御を取り戻す。ソル・シャムルからの命令シー・マーレーは数キロ離れた場所で停止する。その様子を見て安堵の息を吐くファインマン。
「狂竜神がこちらに来た時点でシー・マーレーの制御を手放したようだな」
「三号機……いや、シモン君を確実に倒す為だろう。全能力をぶつけてくるぞ」
「だとしたらまずいな……シモン、神滅武装使っちまったぞ」
「あれはしょうがないだろう。あの時使わなければこっちが落とされていた、間違った判断じゃない。神滅武装が無くなったとしてもシモン君には魔術という狂神に対抗する力がある。三号機と魔術があれば確実に勝てる」
それを聞いたファインマンは不安げな顔になる。
「魔術とやら……多分使えないぞ」
「……どういう事だ?」
カルヴァンの表情が険しくなる。
「あの三号機はブーケ・ニウスとインディ・ゴウ両機の能力を使えるように製造した。だがその能力は三号機との同調が進んでようやく使える物なんだ。ブーケ・ニウスの近接格闘の能力を使えるがインディ・ゴウの……」
狂竜神が己の体で作り上げたカタナを上段に構えた。三号機越しにその構えを見たシモンは息を飲んだ。その構えはカルヴァンを彷彿させるものがあった。
「……まさかカルヴァンさんとの闘いで学んだのか?」
シモンの問いに狂竜神は行動で答えた。一瞬にして三号機との間合いを詰めカタナを振り下ろした。三号機は後方に飛び距離を取る。その後を狂竜神は追わなかった。
三号機には汗腺がない為汗を掻かないが、もしあったとしたら大量の汗を流していただろう。それぐらい狂竜神の踏み込みとカタナの振り降ろしは鋭かった。避けれたと安堵した瞬間、三号機の右肩から左わき腹に向かって斜め一直線に線が入り人工血液が噴き出した。狂竜神の攻撃のダメージを幾らか軽減しただけで避けきれていなかったのだ。ダメージは操縦者であるシモンにもフィードバックされる。シモンは声にならない悲鳴を上げる。
(めちゃくちゃ痛い!! 聞いてないよ。こんな風に痛むなんて……あれ?)
傷を押さえ跪く三号機にの脳天に刀を振り下ろす狂竜神。剣速が先程より圧倒的に遅い。眼前の敵はすでに死に体だと考え手を抜いていた。カルヴァンの剣の術理を学んだとはいえ心構えは素人、戦う者ではなかった。だから手負いの獣が一番怖いという事を理解していなかった。
三号機は左腕を水平に持っていきカタナを防ぎ、更に右拳をがら空きになった腹部に向かって突いた。反撃が来ると考えていなかった狂竜神も避ける事が出来ず、後方に吹っ飛ばされた。形意拳の基本五行拳の一つ炮拳が決まった。
「反撃した!? 三号機は深刻なダメージを受けた筈だろ。どういう事だ?」
巨竜神と三号機の戦いをモニターしていたファインマンが驚きの声を上げる。
「三号機には自己修復機能があるのか?」
カルヴァンが不意にそんな事を言い出した。
「そんな機能ある訳ないだろ。人造の人間とは言えあれは作り物だ。人工血液とはいってもあれは実際の血液の様な凝固作用はない」
「……だが、装甲の傷がないし血も止まっている」
確かに三号機の装甲には傷がなく出血も止まっている。
「オイオイオイ、これはどういう事だ?」
「考えられるのは……三号機の仮面に施された魔術。あれが自己修復を促しているんじゃないか」
「そんな事が出来るとは……信じられん。俺の想像を超えてやがる。だが、これなら神滅武装がなくれも狂竜神に勝てるかもしれん」
カルヴァンはそれに頷く事が出来なかった。一抹の不安を感じずにはいられなかった。
吹っ飛ばされた狂竜神は地面に激しく打ち付けられる。三号機はむやみに突っ込ます三体式の構えのまま様子を見ていた。すると狂竜神は何事も仲た様に起き上がった。巨竜神の体には傷一つついていなかった。
(そんなバカな!? 三号機から繰り出した拳を食らって何のダメージがないなんてそんな筈はない)
シモンは三号機は先程の狂竜神ばりの踏み込みで間合いに入り込み連撃を繰り出す。劈拳、崩拳、鑚拳、炮拳、横拳の五連撃。それだけの攻撃を受け再び吹き飛ばされ地面に倒れる狂竜神。これだけの連撃を入れれば間違いなくダメージを受けるはずだと思っていたのだが……狂竜神は再び何事もないように立ち上がった。
「そんなバカな、確かに手ごたえはあった」
三号機の手には確かに機体を打ち付けた感触があった。それなのに何故? シモンは狂竜神に目を向け、その理由が分かった。狂竜神の体が淡く輝いていたのだ。
「これは……魔法の障壁か?」
狂竜神に融合しているインディ・ゴウの力だった。インディ・ゴウは魔法を使う事に特化した偽神である。インディ・ゴウは魔法の障壁を全身に張り、三号機の攻撃を防いでいたのだ。
「これじゃ物理攻撃が効くわけがない……ならば!」
三号機が右手の人差し指と中指を立て後の指は折り曲げ狂竜神に向ける。そして五芒星を描き呪文を唱える。
「ベイ・エー・トォー・エム」
だが、魔術は発動しなかった。この呪文により火に関する魔術が発動するはずなのだが何も起こらなかった。数秒の沈黙の後、狂竜神が襲い掛かる。狂竜神の鋭い一撃を紙一重で躱す三号機。装甲を切られ中の肉体を切り裂かれ血を流すも自動回復する為ダメージを受ける事はないのだが一瞬は痛むのである。これが続けば精神的なダメージが蓄積しいずれは動けなくなる。そうなる前に何とかしなければ……三号機は大きく後方に飛び距離を取る。そして三体式の構えを取り呼吸を整える。腰に添えた右拳に魔術力が集中していた。魔術が使えなくても魔術力を操る事は出来るようだった。そうでなければ自動回復も出来るはずがない。三号機の右手に集まる力を感じ狂竜神は己の体で作り出したカタナを体に戻す。そして狂竜神が構える。右手を天に左手を地に向ける。右手から赤い光が左手から青い光が放たれる。狂竜神は右手と左手を重ねようとするがお互いの力が反発し合い引き離そうとするがそれでも無理矢理両手を近づけ重ねる。全身を白い光が包み込む。白い光を背後で噴出し三号機に突進する。シモンは慌てながらも逃げる事はせず拳を繰り出した。崩拳だった。
狂竜神の重ねられた両拳と三号機の右拳がぶつかり合う。
シモンは体のこなしに純粋な魔術力をプラスした崩拳、狂竜神はブーケ・ニウス、インディ・ゴウ、そして狂神の力を両手に乗せ、さらには推進力をプラスした攻撃。三号機と狂竜神、二つの力のぶつかり合い、決着がすぐについた。
三号機の右腕から鮮血が飛び散る。そしてそこを起点に崩壊が進む。自己修復が追い付かず右手から上腕部、そして本体に破壊が及ぶ。激痛に叫びながらも同調を解かないシモン。それに対し三号機の仮面はある判断を下した。シモンとの同調を強制解除し操縦槽を切り離し攻撃範囲外に放出したのだ。
突然同調を解除され暗闇となった次の瞬間操縦槽を激しい衝撃が襲う。シモンは衝撃に気を失いそうになるが何とか意識を繋ぎ留め操縦槽を出る。そして眼前で繰り広げられる光景に絶望的な声を漏らす。
「……そんな」
シモンが見たのは竜の顎の如く狂竜神の両手の中に挟まれた三号機の仮面だった。仮面は狂竜神の両手で押しつぶされようとしていた。




