第十六話 大概非常識だな……
「まあ、そう言わずに乗りなさい」
逃げようとするシモンの両肩をカルヴァンが掴む。拘束しようとするような強い力が籠っていない。逃げようと思えば逃げられる。
(そりゃあ、前世の記憶のある人間だもの。一度は乗ってみたいと思うよ、モビ〇スー〇、いやこの場合は汎用人型決戦兵器か? でも何の訓練も受けていない人間がいきなりってどう考えても無理! 三号機を起動させるところまではやったんだから後は大人の仕事でしょ)
「スマナイ、三号機!」
シモンは三号機に声をかけるとカルヴァンの手を弾こう両手を振り上げるが空を切る。シモンの手が当たる前にカルヴァンが両手を上げてシモンの手を躱し上から叩きつけるようにしてシモンの肩を掴む。叩きつけられた痛みにシモンの頭が一瞬真っ白になる。
「~~ッ!」
「シモン君、逃げちゃだめだよ」
シモンとカルヴァンの顔がくっつくくらい近づく。シモンはカルヴァンの顔を遠ざけようとするがカルヴァンがシモンの首の後ろに手を回し手を組む。両腕で首を挟みシモンをロックする。必死にカルヴァンを引きはがそうとするがどうにも引きはがせない。少しカッとなったシモンはと拳を繰り出すが絶妙なタイミングで体を揺さぶられ腰が入らない。そんな事をしているうちにシモンの体力が尽き、大人しくなる。
(子供相手にこんな妙技を使うなよ、大人げない……)
「……シモン君が考えているように本来ならここから先は大人の仕事だ。でもこの三号機は少し気色が違う。君は少し進化させ過ぎてしまったんだ。三号機は君を乗り手に選んでしまっている」
見上げると三号機と目が合う。三号機が哀願されているようで罪悪感がこみ上げてくるが……。
「でも、訓練を受けていない人間が乗るというのも……それにこの三号機がやられてしまったらもう後がないんじゃ?」
「それなら心配ない。この偽神は人機一体を目指した機体だからな、操縦技術はそれほど気にする物じゃない」
「人機一体?」
言葉の意味が分からず更に尋ねようとしたのだが、ファインマンがそれを遮った。
「それは本当か!?」
シモンとカルヴァンから少し離れた場所でファインマンが怒鳴っていた。手のひらサイズに収まる四角い物を耳に当てながらここにはいない誰かと会話をしていた。通信機の様な物のようだった。
「シー・マーレーの……奪われた! ……こっちに……なんてこった!!」
シモンとカルヴァンがお互い眼をパチクリさせている。
「何事ですか?」
「ただ事じゃあるまい……わがまま言ってる場合じゃないかもしれんぞ」
カルヴァンのセリフにシモンはゾッとする。嫌な予感というのはよく当たる。
「最悪の事態だ……」
通信を終えたファインマンが二人の元にやってきた。顔色が悪い所を見ると言い話しではない様だ。
「まずい事になった……」
「何があった?」
「ああ、指令室から緊急連絡が入った……射出したシー・マーレーがこっちに戻ってきている。狂竜神とやらがシー・マーレーの制御を奪ったらしい。あと一時間くらいでこっちに来るぞ! どうする?」
「どうするって……そりゃあ倒すしかないだろう」
「どうやって!? 一時間じゃ神滅武装は出来んぞ」
「神滅武装の完成を待つ前もないだろう。三号機が起動して……」
三号機を指差す。
「操縦者もいる……」
続けてシモンを指差す。
「倒せるだろう」
カルヴァンが肩をすくませながら言う。その能天気さにファインマンが顔を真っ赤にして怒鳴る。
「オマッ! ふざけるなよ! そりゃあ今まで誰も起動出来なかった三号機をものの数分で起動させた実力は大したもんだ! 天才、奇才の類だと思うさ! だが偽神での戦闘は素人だろ! 下手をすれば死なせる事になるかもしれんぞ! そんな事をこんな子供にやらせるのか!?」
ビシリッと指を差され引きつた笑みを浮かべるシモン。
「誰かがやらなければどのみち皆死ぬ事になる。相手は狂った神だ、そんな存在に勝とうと思うなら相手以上に狂う、非常識にならなければならん。そういう意味ではシモン君ほど非常識な存在はいないぞ」
「この少年、いやシモンかが? ウ~ン」
ファインマンが腕を組んで唸る。普通ではないししろ非常識な存在だとは思えないようだ。
唸るファインマンを見てシモンは吹き出す。
「……何を笑ってるんだ?」
ムッとするファインマン。
「すみません、ファインマンさん。ただ僕には覚悟が足りなかったと思いまして」
「覚悟?」
「ええ……僕は狂神を倒したい。そして狂神と戦うために力がすぐそこにある。だったら僕は迷わず手を伸ばさなければならないのに常識にとらわれて逃げようとした」
「そんなの当たり前だ。いきなり三号機に乗って戦え、勝てなんて勇気とは言わん。ただの無鉄砲、無謀だ」
「……その無謀を僕はあえて行います。カルヴァンさんの言う通り非常識にならなければ狂神には勝てない……ファインマンさん、僕に偽神の操縦方法を教えて下さい」
ファインマンが見極めるようにシモンを見つめる。そしてため息をついた。
「うまく炊きつけられたな……まったくこの詐欺師が」
ファインマンがカルヴァンを睨む。
「褒めるなよ」
「褒めてねえよ……それより操縦方法だったな。まあ何というか偽神の操縦方法は独特なんだ。誰でも動かすところまでは出来るんだが戦闘となるとなあ、素質がないとどうにもならん」
「その素質があったのがアッシュさんとサリナさんという訳ですか?」
「ああ……そうだな」
一瞬ファインマンの表情が陰る。シモンが不思議そうに見ているとファインマンがわざとらしいくらい陽気にこういった。
「とにもかくにも乗らなければ始まらない。まずは乗ってみるか?」
シモンは首を縦に振る。心なしか体が震えている。未知なるものへの恐怖か期待かは分からないのだが……。
「シモン君、楽しそうだな」
三号機に乗ってみるかと問われた時に見せたシモンの表情を見ていたカルヴァンがそう言った。
「楽しい?」
「だって君、今笑ってるぞ」
「え?」
自分がどんな表情をしているのか鏡でもなければ分かる筈が会い。でも笑っているとは……僕も大概非常識だなとシモンは失笑した。




