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魔術師転生  作者: サマト
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第十五話 仮面の目覚め、偽神三号機起動!!

「偽神って何なんですか?」

偽神三号機の足元で見上げながらファインマンに尋ねた。

「藪から棒に何だ?」

シモンの言葉の意味が分からずファインマンは困惑した顔になる。

「いえ、この偽神というのは鉄と歯車、油で動く機械人形なのかと思いましてね」

「そんな物で動くわけないだろ。どこの世界の話だ?」

ファインマンが呆れ顔で言う。

「だとすると……」

「まあ言いたい事は分かった。簡単に説明するならば偽神は人造の人間だ」

「人造人間!?」

「まあ、人を造りたもうた神……」

ファインマンは神という言葉を出した途端顔を歪める。憎むべき敵なのだから当然だろう。コホンと軽くっ咳き込み話を続ける。

「……程じゃないが、鉄の骨格を人工の筋肉で覆い、人工の血液と冷却水を循環させることで動く人造人間、それが偽神だ……」

イヤイヤイヤとシモンは不定する。

「嘘でしょ!? 僕は偽神が直に動いているのを見ています。それだけの機構で人が乗っているとしてもああも滑らかに動けるはずがないじゃないですか! 他にも何かありますよね!?」

ファインマンに詰め寄るシモンをカルヴァンが後ろから羽交い絞めにして引きはがす。

「まあまあ、シモン君。落ち着け」

シモンはハッとする。深呼吸をし、頭に登った血を下げる。それがカルヴァンにも通じたのかシモンの拘束を解く。

「さてシモン君、問題だ。ブーケ・ニウスやインディ・ゴウにある物がこの三号機にはないんだ。それが何なのか分かるかね? それが疑問の答えにもなるから探してみなさい」

「三号機にはない物?」

シモンは改めて三号機を見上げる。そしてそれはすぐに分かった。

「顔がない……」

この三号機の頭部中央には顔が存在せず、空洞となっていた。

「そういう事だ、詳しい説明は……ファインマン頼んだ」

「丸投げか、バカたれ!」

カルヴァンの頭にゲンコツを叩きこもうとするがカルヴァンはスルリと躱す。

「避けるな、バカタレ」

ファインマンは己の拳骨を見てため息をつく。

「まあいい。説明するとだな、三号機の頭部の空洞部分あそこには仮面が収まるんだ」

「仮面……ですか?」

「そう、仮面の裏には規則的に配置した聖霊石が埋め込まれていて、それから引き出された魔法力を人工血液で循環させる事で筋肉が収縮、拡大し自在に動けるようになる。偽神は魔法力で人工筋肉を刺激して動かすというのシモンの疑問の答えだ」

「三号機にもその……聖霊石ですか、それを埋め込んだ仮面があるわけですよね? それを頭部に収めれば動かせるんじゃないですか? 僕が何かをする必要はないのでは」

シモンの言葉にカルヴァンとファインマンは渋い顔をする。

「あるっちゃあるんだがなあ」

「ああ……」

シモンはピンときた。

「そこで僕が必要になるんですね?」

「正解」

ファインマンが説明するには、この精霊石という石は魔法力を吸収、蓄積し放出する性質がある。何もしないでも絶えず空間から魔法力を吸収、蓄積しているがそれでは偽神起動に間に合わず人為的に魔法力を送り込むらしい。魔法使い十数名で数日休まず魔法力を送り続ける事でようやく偽神を起動出来る。

この三号機の精霊石は特殊な物で今まで通りの方法ではウンともスンとも言わない代物だった。

「欠陥品なら別の聖霊石で作り直せれば?」

「それが出来るんならやってるわな」

「出来ない事情もあるんですね」

「ああ」

続けてファインマンが説明する。

聖霊石の精製方法は最重要機密で詳しい事が言えないがこれがそうポンポン出来る物ではないらしく偽神起動に必要な量となると数年単位で待つ必要があるとの事だった。

「そこで君に目を付けた!」

カルヴァンがシモンの肩に手を回す。

「あの狂神を倒した六対の羽根を生やした神らしきものを呼び出したあの力があれば三号機を間違いなく起動できる!」

「そういう事でしかた……ですがすみません。あれはあの時だけの特殊な魔術で、大天使召喚魔術をもう一度やるには僕のレベルは低すぎます」

「そうなのか!? では……」

「僕には出来ません。でも諦めるには早すぎます。何か考えてみますから時間を下さい」

「そうか!!」

「何かするか、諦めるかは早く決めてくれ。それによってこっちが取る行動が変わってくるからな」

ファインマンはシモンに対して懐疑的で信用していない様だ。その様子にシモンはムッとする。

「……とりあえずその仮面とやらを見せてはくれませんか?」

「ああ、待ってろ」

ファインマンが奥に引っ込み布でぐるぐる巻きにされた物を台車に乗せて戻ってきた。

「こいつが三号機の仮面だ」

ファインマンが布を引っぺがした。そこにあったのは五角形のやや大型の板だった。その表面には真っ黒なくすんだ石が複数埋め込まれていた。

「この黒いのが……聖霊石?」

ファインマンとカルヴァンが頷く。

「聖霊石という割にはその……」

「言わんとする事は分かる。ブーケ・ニウスとインディ・ゴウの聖霊席は七色に輝いて力強いんだがこいつはどうしてかこうなんだよ。魔法力をいくら注入しても吸い込むだけでどうにもならん」

「一応吸収と蓄積は出来ているって事だよな」

シモンは右手に意識を集中し魔術力の塊を造り出し、仮面に向かって押し込んだ。仮面に埋め込まれた聖霊石はスポンッと魔術力を吸収した。

「やはり聖霊石はちゃんと機能しているんだよな。でも偽神起動には至らない。ンー、何でだ?」

聖霊石の魔法力の吸収、蓄積、放出の内、吸収は間違いなく機能している。蓄積も恐らくは出来ているだろう。漏れている感じはない。

シモンはもう一度魔術力を仮面に送ってみる。魔術力はみるみると吸収されていくにだが、その感触は底なし沼に石を投げ込んだようで底が感じられない。

「もしかして……魔法力や魔術力の許容量が半端ないんじゃないのか?」

一定量魔法力が蓄積されなければ放出に至らないという機能が聖霊石にはあるのかもしれない。七色に輝くというのは魔法力の蓄積量を表しているのかもしれない。そうなるとこの仮面に蓄積されている魔法力の量は微量という事になる。今自分が注入した魔術力じゃ偽神起動などできやしない。

「これを満タンにさせるとすれば僕が何人いても足りないなあ」

「やっぱり無理か、それならいい。神滅武装の完成を急ぐぞ」

ファインマンは三号機の起動に見切りをつけようとする。

「ちょっと待って下さい。まだ諦めないで下さい。何とかしますから。そうすればこの三号機は!」

「時間はないんだ! まごついていたら狂竜神による被害が出るぞ!」

「急がば回れ! 焦っちゃダメです!」

シモンの思わぬ怒声にファインマンは言葉を詰まらせる。

「一本取られたな、ファインマン。焦らずもう少しまとう……で、シモン君、具体的にどうするつもりだ?」

シモンは言葉を詰まらせる。今の所無茶苦茶な方法しか思いつかない。十数名の魔法使いだけではなくサフィーナ・ソフにいる全員で仮面に魔法力を籠めるぐらいしか思いつかない。それでも人によっては魔法力の強弱はあるだろうし確実な方法とは思えない。

「……やっぱり地道にやるしかないか」

シモンは目を閉じ四拍呼吸を行う。精神を集中しつつ周囲に満ちる魔術力を吸収する。己の体内に蓄積し五つの魔術中枢に通し強化、生成し仮面に向かって放出する。

(アレ……?)

シモンは中央の柱の行と呼ばれる方法で魔術力を強化、生成し仮面に流し込みながら疑問に思った。今自分が行っている工程は仮面が行っている工程とほぼ同じではないだろうか。仮面が行うのは吸収、蓄積、放出の三工程。強化、生成は行われていない。もし魔術力の強化生成が行われる器官が仮面の中に作れたのなら……。

シモンは魔術力の放出を止めた。

「やっぱりだダメか、シモン君?」

尋ねるカルヴァンにシモンは確信めいた笑みを浮かべた。

「いい方法を思いつきました。うまくすれば三号機の起動にこぎつけられるかもしれません」

「いい加減諦めたらどうだ? 子供の妄想にいつまでも付き合う訳にはいかないんだ」

ファインマンがやっかんでくる。

「そう言わずにもう少し見ていて下さい」

フィ院マンが溜め息をつく。

「分かった。でもあと十分だ。それ以上は待たんぞ!」

「分かりました」

そう言うとシモンは再び精神を集中する。仮面のすぐ上にあるものを幻視する。生命の木と呼ばれる図形である。十の球体が二十二の径で繋がれた図形。西洋版マンダラとも呼ばれている。

シモンは幻視した生命の木に光を灯していく。まず頂点の球体に向かって神名を唱える。

「エー・へー・イー・エー」

その神名により球体にスイッチが入り鈍い振動と共に強い光が灯るとイメージする。この調子で第二、第三の球体の神名を唱え球体にスイッチを入れ光を灯していく。そして十の球体に光が灯るのを確認する。十の球体の光は径を通して循環しお互いの力を高めていくのを強くイメージする。

(ここまでは順調……あとは)

シモンは励起している生命の木をゆっくりと仮面に重ねていく。幻視した生命の木が仮面に入ったと感じられた時、仮面に明確な変化が起こった。

「仮面の聖霊石の色が!?」

ファインマンが驚きの声を上げる。

仮面に埋め込まれた聖霊石が黒色から透明になり内側から強い光を放ち始めたのだ。魔術力が蓄積されつつある証だ。

「オ、オマッ! 一体何をやった!?」

ファインマンがシモンの両肩を掴み激しく前後に揺さぶる。十数名の魔法使いが休みなしで魔法力を充填しても無反応だった仮面を目の前の少年はわずか数分で起動までこぎつけたのだ。これを見て慌てない者などいないだろう。

「まあ落ち着けよって、ファインマン」

カルヴァンがすかさずファインマンの後ろに回り羽交い絞めにしシモンから引きはがす。

「……助かりました、カルヴァンさん……」

激しく揺さぶられ目を回すシモン。

「それより俺にも説明してくれないか? 一体何をやったんだシモン君?」

ファインマンも激しく首を縦に振る。

「簡単な話ですよ。この仮面には魔法力、魔術力を強化、生成する機能がついていなかったんでその機能を付与したんです」

「機能を付与したってそんな事が出来るのか?」

「俺の魔術には召喚の他に喚起という魔術があります。これは呼び出した精霊の力を一体化させて力を行使するという魔術何ですがこれの応用をやってみたんですが思ったよりうまくいきました。今、仮面の中では俺が作った疑似的な魔術回路が一の魔術力が十に、十の魔術力が百に、百の魔術力が千に……と言った感じで魔術力が増幅させていると思います」

「そんな方法があったとは……」

ファインマンは呆然として呟く。

「それより仮面を取り付けなくていいのか? この状態なら三号機が起動出来るんじゃないか?」

「おお、そうだな。すぐに作業しよう!」

ファインマンがそう言って動こうとした時さらに仮面に変化が起こった。仮面がフワリと浮きあがり、三号機の頭部に収まったのだ。留め金が自動でかかり仮面が固定される。仮面の魔術力が人工血液と冷却水の循環機を動かし図ん冠を促す。人工血液に魔術力が浸透し体全体に送られ、全身に力が満ち溢れていた。

今、この時を持って偽神三号機は完全に起動した。

「さて、これで三号機は完全起動しましたね。これで僕の仕事は終わりですかね」

シモンは力を抜いてその場に座り込む。ここから先は偽神の操縦訓練を受けた者の仕事だろう。後は任せた、そう思っていると……。

「何でそうなる?」

カルヴァンが不思議そうな顔をした。

「ヘッ?」

「これからが君の仕事だろう」

「これからって……何があるんです?」

「君が三号機を動かすんだ?」

「ヘッ??」

シモンは素っ頓狂な声を上げる。

「どうしてそうなるんですか!?」

「三号機が君を選んでいるからだよ。ほら見てみろ」

シモンは立ちあがりカルヴァンが指差す方向を見る。指差した方向は三号機の頭部、いや仮面だった。仮面についている二つの目はシモンを見つめていた。

「君を見ている」

「そんな偶然じゃないですか。それだけで操縦者を選ぶなんて……」

シモンは視線から逃れようと移動すると頭部を微かに動かしシモンを目で追っていた。

「本来偽神は人が乗らなければ指一つ動かせないんだ。なのにこの三号機は僅かであってもこうやって自立起動している。しかも生まれたてのひな鳥が如く君を目で追っている。三号機は君を選んだと言っても過言ではないだろう」

「イヤイヤイヤ、無理ですって。何の訓練も受けていない奴が操縦なんて無理ですって」

シモンは絶望的な声を上げた。










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